新築、中古にかかわらず戸建てが売れています。新築の建売住宅では、ローコストが売り物の住宅メーカーの中には、前年比3割以上も売上高が増加しているところもあり、中古戸建ても2021年に入って過去最高水準の成約件数が続いているのです。なぜそんなに売れているのでしょうか。
オープンハウスの売上高は前年同期比で3割以上の増加
戸建ての中でも、いますこぶる好調なのが、リーズナブルな価格設定で知られる住宅メーカーの分譲戸建て、いわゆる建売住宅です。
たとえば、首都圏の建売住宅を中心とするオープンハウス。2021年9月期の第1四半期(20年10~12月)決算の売上高は1,551億円で、前年同期比22.2%の増収でした。このうち、戸建て関連事業の売上高だけで見ると1,215億円で同比33.8%も増えています。
同様に、一(はじめ)建設、飯田産業などを傘下に持ち、グループ合計で年間4万戸以上の戸建てを供給している飯田グループホールディングスの、21年3月期の第3四半期(20年10~12月)の建売住宅の売上高は9,740億円で、前年同期比14.2%の増加でした。
コロナ禍で売り上げの確保に苦しむ業界、企業が多いなかで、この好調さは特筆に値するのではないでしょうか。
マンションに比べての価格の安さが大きな魅力に
なぜ、こんなに戸建てが好調なのか――。オープンハウスは、「決算説明資料」の中で、マンションに比べてその割安感を強調しています。同社は特に東京都内での建売住宅を得意としていますが、その東京都区部の新築マンション価格は、不動産経済研究所によると、2011年には平均5,339万円だったものが、20年には7,712万円に上がっています。9年間で44.5%も上がった計算です。
これに対して、オープンハウスが東京都区部で分譲した戸建ての平均価格は2011年が4,541万円に対して、20年は4,331万円でした。こちらは9年間でむしろ4.6%下がっているのです。20年の10月から12月までに限ると4,118万円と、さらに安くなっています。
他方、飯田グループホールディングスの各社が供給するのは郊外型が中心ですが、19年3月期決算の第3四半期(18年10~12月)の平均価格は2,700万円で、2020月3月期決算の第3四半期(19年10~12月)が2,680万円、21年3月期決算の第3四半期(20年10~12月)が2,720万円と、ほとんど上がっていません。
新築マンションの全国平均の価格は、やはり不動産経済研究所の調査によれば20年は4,971万円ですから、飯田グループの戸建てのほうが2,000万円以上安くなっています。
参考
オープンハウス「2021年9月期決算説明資料」
飯田グループホールディングス「「2021年3月期第3四半期決算説明資料」
不動産経済研究所「全国マンション市場動向2020年のまとめ」
中古戸建ての成約件数は過去最高水準に
中古の戸建ても売れています。東日本不動産流通機構(東日本レインズ)によると、図表1にあるように、首都圏の中古戸建ての2021年3月の成約件数は1,629件でした。前年同月比では25.8%も増加しています。
この1,629件という数字、調査に当たっている東日本レインズによると、同機構が1990年5月に設立されて以来、3月としては過去最高の成約件数だそうです。月別の最高件数の更新は1月、2月に続いて3ヶ月連続になります。
コロナ禍が深刻化した20年4月、5月は前年同月比で2桁台の減少でしたが、その後はV字回復、7月には2.4%のプラスに転じ、以来2021年3月まで9ヶ月連続して増加しています。なかでも、2021年に入ってからの3ヶ月間は20%台から30%台の増加が続いているのですから、まさに、絶好調といっていいでしょう。
成約価格もコロナ禍の底から3割のアップに
しかも、中古戸建ての成約価格も上昇傾向が強まっています。図表2にあるように、最初にコロナ禍が深刻化した2020年の春には中古戸建て成約件数が激減したのと同時に、中古戸建ての価格も大幅に下落しました。それまでは3,000万円台だったのが、20年5月には2,600万円台まで下がってしまったほどです。
しかし、2020年86月には成約価格が前年同月比でプラスに転じ、10月に前年同月比1.2%のマイナスになったものの、11月以降は2021年3月までプラスが続いています。図表2の折れ線グラフでもわかるように、前年同月比の値は多少の上下動は伴いながらも、トレンドとしては明らかに右肩上がりになっています。
21年3月には3,446万円まで上がり、2020年5月の2,668万円と比べるとほぼ3割もアップしているのです。
成約価格が上がるなかで、先に触れたように成約件数も増加の一途をたどっているのですから、中古戸建ての人気の高さがわかります。
戸建て価格はほとんど上がらず割安感高まる
なぜこんなに売れているのでしょうか――。最大の要因はオープンハウスが「決算説明資料」で触れていたように、マンションに比べての割安感にあるのは間違いないでしょう。直近では中古戸建て価格が若干上がっているとはいえ、マンションに比べると格段に安い水準にあるのは変わりません。
図表3は2010年度から20年度までの首都圏の新築マンション、中古マンション、新築戸建て、中古戸建ての平均価格の推移を示しています。
新築マンションは10年度の4,686万円が、2020年度には5,994万円と27.9%のアップで、10年の間で最も安かった11年度の4,557万円と比べると31.5%の上昇です。
中古マンションも10年度の2,581万円から20年度は3,668万円に、42.1%も上がっています。
これに対して、戸建ては新築が10年度の3,486万円から20年度は3,575万円に2.6%、中古が3,008万円から3,199万円に6.3%のアップにとどまっています。
その結果、新築戸建てなら新築マンションの61.2%で、中古戸建てだと53.4%で手に入る計算です。中古マンションと比べても新築戸建てが2.5%、中古戸建てなら12.8%安くなっています。
マンションがどんどん高嶺の花になりつつあるなか、戸建てはほとんど上がらず、マンションに比べての割安感が強まっているのは間違いありません。
戸建てのコロナ禍への対応しやすさも人気の要因に
戸建てが新築、中古にかかわらず売れているもう一つの理由としては、新型コロナウイルス感染症拡大の影響による、消費者の住宅に対する考え方の変化が挙げられます。
コロナ禍ではさまざまな場面で密を避ける必要があります。その点、マンションではエントランス、エレベーターなどで人との接触が避けられませんが、戸建てなら原則的に外部の人が敷地内に入ってくることはありません。万一、家族の誰かが感染したり、濃厚接触者になったりしたとしても、住宅内で接触を最小限に減らしながら生活できます。
また、在宅勤務の増加によって自宅で仕事をする時間が長くなっていますが、マンションに比べて住宅面積が広い戸建てなら、ワークスペースを確保しやすいといったメリットもあります。
さらに、在宅時間が長くなると、マンションでは上下階や両隣などの物音が気になりますが、戸建てはさほどでもないという違いもあります。
コロナ禍でマンションより戸建てを選ぶ傾向
しかし、戸建てはマンションに比べて都心から遠い物件が中心で、最寄り駅からの距離も離れています。このため、面積が若干狭くても通勤などに便利なマンションを選ぶ人が多かったのですが、コロナ禍で在宅勤務が増えれば通勤時間をさほど気にしなくてよくなっています。だったら郊外の広めの戸建てがいいのではないかということになります。
事実、マンションを中心とするポータルサイトの「住まいサーフィン」では、コロナ禍を踏まえて、戸建ての購入意欲がどう変化したかを調べていますが、図表4にあるように、半数近い人が、戸建てへの購入意欲が増したとしており、購入意欲が減った人の合計は1割強にとどまっています。
同じ調査で、マンションの購入意欲が増えたとする人の割合は21年4月調査で26.7%ですから、戸建ての購入意欲が増したとする人のほうが格段に多くなっています。価格の割安感とともに、ロナ禍では戸建てのほうがより安全・安心に暮らせると考える人が増えているからではないでしょうか。
戸建て人気は当分の間続く可能性が高い
以上のように、このところ戸建ての人気が高まっている要因として、第一にはマンションに比べての割安感が挙げられますが、それだけですべて説明がつくわけではありません。その背景には、マンションより戸建てのほうが、コロナ禍に対応しやすいという、いまならではの理由が挙げられます。
もちろん、新型コロナウイルス感染症は多少時間がかってもいずれ抑制できるでしょうが、またいつ、どんな感染症に襲われるかわかりません。今回のコロナ禍で当たり前になってきたニューノーマルのライフスタイルが定着することになりそうですから、戸建て人気も当分の間は続くことになるのではないでしょうか。