住宅購入の判断に大いに関係する住宅ローン。不動産や金融についてその業界の人に匹敵する知見をもつ、公認会計士ブロガー千日太郎さんが、連載形式で住宅を買う側・住宅ローンを借りる利用者側の視点で情報発信。2021年5月の住宅ローン金利について世界情勢や国内金融市場にインパクトを与えそうな事柄を踏まえ、解説いただきます。
こんにちはブロガーの千日太郎です。2021年2月後半から3月にかけて突発的に長期金利が急上昇した一方で【フラット35】(買取型)の金利についてはゆるやかな上昇に抑えられました。4月に入ってからは長期金利の上昇は落ち着いたものの、依然として株価は高い水準で推移しています。
ではこの状況で2021年5月の【フラット35】金利はどうなるのか、その動向を予想します。
米インフレ圧力と今後の長期金利動向は?
2021年1月3日から2021年4月12日までの日米長期金利の動向をグラフにしました。
米国長期金利(青い折れ線グラフ)は2021年民主党政権のスタートとともに経済正常化への期待から上昇トレンドがスタートしました。コロナ対策の財政出動と金融緩和によって世界的に株価が高騰するコロナバブルが発生し、2月後半から3月にかけての長期金利の急上昇は市場関係者の間でインフレ圧力が懸念されるほどの勢いとなっていました。
これに対して、米FRBのパウエル議長は「新型コロナウイルスの感染流行が終息した後にインフレが制御不能になるリスクは懸念していない」との声明を発信し続けており、それが徐々に市場に受け入れられ、共通認識になりつつあるようです。4月に入ってからは米国債が買われるようになり、債券価格が上がる(利回りが下がる)流れから米長期金利の上昇は止まり横ばいで推移しています。
これに対して、日本の長期金利はほとんど動いていないように見えます。そこで同じ期間の日本の長期金利をクローズアップしてみました。
冒頭でも書いているように、2月の後半から末にかけて急上昇しているのは米国の長期金利と同じですが、その後大きく下がり0.1%あたりで横ばいに推移しています。
2月後半にかけての金利上昇は、日銀が公表した金融政策決定会合で、現在0%程度に誘導している長期金利について、今後は変動幅の拡大を容認するとの発言に投資家が過剰に反応して国債の売りが優勢になったためです。日本についてはワクチン接種の遅れに加え、オリンピックの問題などが重しとなり経済正常化への期待の程度は米国よりも小さいと思われます。
4月に入ってからは、米長期金利が低下するなか、4月の国債入札で投資家の需要が確認されたのも安心感につながり、長期債の価格が上昇ぎみ(利回りは下がる)です。この利回り低下が目立つと日銀が国債買いオペを減額するとの警戒感も浮上しやすく、利益確定を目的とした売りも出るということで概ね横ばいで推移しています。
このように日本の長期金利については、実体経済とは乖離したコロナバブルを背景に少し高めの水準で安定していますが、たまたま現時点で取引材料に乏しいことから横ばいで推移している状態だと言えそうです。
今後の長期金利の動向と【フラット35】の2021年5月金利動向の関係
仮に日本の長期金利が今の水準で推移していくとすれば、2021年5月の【フラット35】の金利は2020年4月と同水準で推移するのではないかと見ています。
【フラット35】(買取型)の資金調達の仕組み(※)からすると、住宅金融支援機構が毎月発行する機構債の表面利率が発表されるタイミングの長期金利の水準を予想することが大事になります。
過去の長期金利の推移と【フラット35】の金利推移
過去4ヶ月の長期金利と【フラット35】買取型の金利推移を振り返ってみましょう。青い棒グラフ(左の軸)が【フラット35】買取型で、オレンジの折れ線(右の軸)が長期金利です。
2021年1月は長期金利(オレンジの折れ線)の高さと、翌月に発表された【フラット35】買取型の金利(青い棒グラフ)の高さがおおむね合致しています。そして長期金利が上昇し始めた2月からは【フラット35】買取型の青い棒グラフが長期金利のオレンジの折れ線グラフよりも下になってきています。
これは、長期金利の上昇局面にあっては【フラット35】の金利上昇が緩やかになっていて、突発的な長期金利の上昇が住宅ローン利用者へダイレクトに影響しないように上昇幅を抑えていることを意味します。
さらに【フラット35】(買取型)の資金調達する手段である機構債の表面利率の推移も並べてみると、そのことがよくわかります。
2月から3月にかけて機構債の表面利率が0.05ポイント上昇しているのですが【フラット35】(買取型)の金利上昇は0.03ポイントに抑えられています。その差の部分は住宅金融支援機構が損失を被っているわけです。その後3月から4月にかけて【フラット35】(買取型)の金利を0.02ポイント上昇させて帳尻を合わせています。結果として2月から4月にかけて機構債の表面利率は0.05ポイント上昇となり、【フラット35】(買取型)も同じ0.05ポイント上昇としています。
住宅金融支援機構が営利を目的としない非営利団体であることから、急激な金利上昇時に利用者に対する融資金利の上昇を抑え、一時的に損を被る対応が可能になるのです。
まとめ~長期金利は横ばいで推移しているが不安定な局面
現在のところ日本の長期金利は取引材料に乏しく、横ばいで推移していますが、それだけに突発的な事件によって一時的に高騰するリスクも潜在しています。長期金利の動向は個人レベルでどのように働きかけてもコントロールできない要素ですし、合理的な精度で予想することもかないません。
できることはリスクの分散です。すなわち複数の金利タイプ、金融機関で審査を通しておくことです。特に2月から4月の金利上昇局面において【フラット35】の金利上昇は抑えられたので、【フラット35】を利用することが保険になる可能性があります。そして、シミュレーションを行うときには現時点の金利だけでなく、保守的に金利が上がったケースで返済継続ができるかを確認しておいてください。
※【フラット35】(買取型)の資金調達の仕組み
住宅ローンの【フラット35】(買取型)は、上図のように住宅金融支援機構が民間金融機関から債権を買い取って証券化し、機関投資家に債券市場を通じて機構債という形で販売するという仕組みになっています。この機構債は毎月20日前後に表面利率を発表し募集します。投資家たちは機構債を安全資産という考えで購入しますので、その表面利率は10年国債の利回り(長期金利)に連動する傾向があるのです。
※本記事は、執筆者の最新情勢を踏まえた知識や経験に基づいた解説を中心に、分かりやすい情報を提供するよう努めておりますが、内容について、弊社が保証するものではございません。