自分が住む家を建てるとき、デザインや耐震性の高さなどに目が行きがちですが、その家が建つ土地も非常に重要です。
なかでも地盤の強さは土地を選ぶうえで有力な条件の一つで、その土地で長く安全に暮らすためには欠かせない要素です。
そこで、地盤についての基礎知識や、よくいわれる竹やぶ近くの土地は地盤が強いといううわさの真偽、自分でできる地盤チェックのポイントなど、土地選びに役立つ情報を解説します。
土地選びで重要な「地盤」とは?
家を建てる土地は、目に見える表面だけでなく、建物を支えるためにある程度の深さを持った地面として捉える必要があります。この場合、その土地を建築物に対して地盤と呼びます。
地盤は岩や細かい石・砂・土から構成され、中に水分や空気を含む半固体の物質です。固体分である石や土などの密度が高ければ固い岩盤となりますし、水分が多ければ決まった形をなさないヘドロとなります。
たとえば山地は強固な地盤で構成される場合が多いのですが、一般的には海に向かって徐々に強度が落ちていくとされています。
軟らかい地盤は沈下を引き起こす
水分を多く含む軟らかい地盤(軟弱地盤)の上に建物が載ると、建物全体が沈み込む地盤沈下や、一部が沈む不同沈下によって建物が傾いたりゆがんだりする可能性があります。
沈下のメカニズムは、簡潔に言うと次の通りです。
1.建物が載ることで地盤の水分が搾り出される 2.排出した水分量に相当する体積の収縮が発生する(圧密) 3.体積が収縮した分だけ地盤が下方に沈降する(圧密沈下) |
このように、どれだけ耐震性能の高い家を建てたとしても、それを支える地盤が弱ければ、その上に立つ家が揺れたりゆがんだり、果ては沈み込んだりしてしまいます。
そのため、土地選びをする場合、地盤の強さは非常に重要なポイントとなるのです。
「竹やぶ近くの土地は地盤が強い」は間違い
日本に昔から伝わる知恵や伝承として、地震が来たら竹やぶに逃げろがあります。これは竹やぶ近くの土地は地震に強いことを指していますが、一概にそうとは限りません。
そもそも竹とは日本全域に生息する植物で、地下茎を広げることで生育域を拡大していきます。地下茎は主に地表30cmほどに集中しており、浅いところを横に横にはっている状態です。したがって、竹の地下茎が土をとどめておけるとしても、限度は30cm程度までとなります。
つまり、竹やぶ近くの土地は地盤が強いとは限らず、むしろ土砂崩れが起こったときには竹やぶごと崩れてしまうリスクがあります。
また、竹の地下茎は地表に生える部分(茎や枝葉)より早く枯れるため、見かけでわからないうちに地下茎が枯れている場合があります。枯れた地下茎では土を抱え込む力が弱ってしまい、土砂崩れの危険性がさらに高くなります。
ただし、硬い岩盤の上に薄く土が覆っている場所でも竹が生息する場合もあり、竹やぶ近くの土地は必ず地盤が弱いとも限りません。 竹やぶが近くにあるという情報は、あくまでも良くない地盤を判断するための目安の一つであり、 詳しいことは地盤調査をしてみないとわからないのです。
自分でできる地盤のチェックポイントは3つ
土地を選んで家を建てる前には、必ず地盤の調査を行うことが必須です。 通常、調査は専門の業者によって行われますが、土地選びの段階で可能な限り自分でチェックをしておきたいところ。 そこで、個人でも可能な地盤のチェックポイントについてご紹介します。
1.水に関係するものが付近にあるか?
まずは、地盤を軟らかくしてしまう水に関する情報を集めるところから始めましょう。 水が豊富にある地域だと地盤も水を多く含む可能性が高く、次のような場所が付近にどれくらいあるかチェックしてみましょう。
・水路や川、海
・池のある公園
・水田
また、地名に水川沼など水に関する文字が入っている場合も注意が必要です。こうした地域は、もともと川や沼、池などがあった場所を埋め立てた名残の可能性があります。かつてその地域に水があった場合も、地盤が弱い可能性があるのです。
2.街の構造物はどのような状況?
地盤が弱く変形しやすいと、街の構造物の形や状態に影響を与えることがあります。
たとえば、道路のひび割れやマンホールのふたの浮き、電柱や柵の傾きなどが見られる場合、その土地の地盤が弱くなっている可能性があるのです。 車で走行した時にガタガタと揺れを感じる場合も、地震などにより地面がゆがんでいる可能性があります。
側溝とアスファルトが離れてしまっているような箇所があれば、すでに沈下によって剝離した可能性があり、危険かもしれません。 建築予定地近くの道路の状況を確認しておきましょう。
3.公開されている情報を調べる
現在の地図の確認や実地における調査だけでなく、建設予定地の図書館や資料館で古地図などを調べたり、インターネットで公開されている情報を調べたりしてみましょう。 水に関する地名が危険であることにも関係し、現在の地理以上にかつてそこがどのような土地だったのかを知ることが重要です。
たとえば、国土地理院による土地条件図は、その土地の成り立ちや、人工的に手が入った土地(農地や埋め立て地など)の有無について詳しい情報が載っているため、参考資料としておすすめします。 ほかにも、その土地の古地図や災害史を見て、かつて水田や川だった場所がないか、過去に大きな水害がなかったかどうかといった情報を調べるのも効果的です。
加えて、自治体のハザードマップが公開されていれば、特に水害が想定される地域は地盤が弱い可能性があるため、目を通しておくといいでしょう。
地盤が弱い土地でも地盤改良という選択肢がある
土地選びにある程度目星がつき、実際に業者による地盤の調査が行われたとします。 ここで強い地盤だと判明すれば問題ありませんが、軟弱な地盤であるという調査結果が出ることも想定しておかなければなりません。
しかし、もし地盤が弱い土地であっても、地盤改良によって人工的に地盤を補強することができます。費用はかかりますが、どうしても住みたい土地の地盤が軟弱だった場合、後から地盤を強固にする方法があることを覚えておきましょう。 地盤改良は、主に次に挙げる3つの方法があります。
表層改良工法
表層改良工法は、深さ2mほど土を掘りながら固化材を入れて、土と強固材を混ぜ合わせることで地盤を強固にする方法です。 一般的な工期は、対応する土地の広さにもよりますが、多くの場合2~3日で済みます。地域や広さ、改良する深度などによって異なるものの、一般的な戸建て住宅における費用は一棟100万円弱程度から100数十万円程度です。
柱状改良工法
柱状改良工法は、コンクリートの柱を地下に何本か打ち込むことで建物を支えます。軟弱地盤の深さが地中2~8mの場合に用いられる工法です。 使用する杭の数が30本程度であれば、一般的に5~6日で工事は完了します。地域や使用する杭の本数や長さによりますが、一般的な戸建て住宅の費用は一坪当たり5~6万円が目安になります。
小口径鋼管杭工法
小口径鋼管杭工法は、地中深くにある固い地盤に鋼管の柱を何本か打ち込むことで、地中30mまでの地盤補強を可能にする工法です。 施工後の地盤強度が高く、3階建てなどの重量のある建物に適しています。柱状改良工法よりも小さい重機で対応できるので狭小な土地など重機を搬入しにくい場所の工事に適しています。
この工法であれば、一般的に2~3日という短期間で工事が完了します。 地域や使用する杭の本数や長さによりますが、一般的な戸建て住宅の費用は一棟当たり90~150万円程度になります。
まとめ
災害に強い家は、建物の耐震構造だけでなく、強固な地盤の上に立っていることも非常に重要です。 これから土地を購入しようと考えている方は、まずは自分が選ぼうとする土地の地盤条件についてしっかりと知っておくことをお勧めします。
仮に候補地が軟弱地盤だったとしても、より深く固い地盤を利用するための地盤改良を行えば、ほとんどの土地で家を建てることが可能です。 地盤ごとに改良の方法や費用も変わってくるため、総予算を見積もるためにも土地選びの段階から地盤の強さについて下調べしておく必要があるのです。
【監修者】
佐川 旭さん
一級建築士 (株)佐川旭建築研究所代表
1951年 福島県生まれ.
日本大学工学部建築学科卒業 個人住宅から公共建築まで幅広い実績をもつ.
2010年木材活用コンクール特別賞受賞. 著書に最高の住まいをつくる間取りの教科書(PHP研究所)など、これまで住に関しては15冊を出版.