アルコールそれとも次亜塩素酸? ウイルスで効果が違う消毒剤と注意点

感染症を予防するためにお店や建物に入る際の消毒が習慣になってきました。一方、「消毒剤は体に悪影響なのでは?」と疑問に思うことはないですか?

消毒剤にはアルコール、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸水などの種類があります。正しく選択して使用しなければ、消毒効果がないばかりか、体やモノに害を与える可能性もあるのです。

本記事ではウイルスを消毒する仕組みを説明したうえで、消毒剤の種類と注意点を見ていきます。

ウイルスの種類によって効果が違う!?

ウイルスの種類によって消毒剤の効果は異なります。そのため、消毒剤を選ぶうえで、消毒剤がウイルスに対してどのように作用するのかを知る必要があります。

ウイルスは微生物の一つですが、遺伝子情報を持つだけの構造です。「1mmの1万分の1」という非常に小さなサイズで、生物の細胞に寄生して生存・増殖します[注1]。

これらのウイルスは、構造の違いによって大きく次の2つに分類できます。

・エンベロープウイルス(新型コロナウイルス、インフルエンザウイルスなど)

・ノンエンベロープウイルス(ノロウイルスなど)

細胞に寄生したウイルスが細胞を出ていく際、自身の周りに「膜」を作るものがエンベロープウイルス、作らないものがノンエンベロープウイルスです。

この「膜」は宿主の細胞にある脂質を中心に作られており、脂質を溶かすアルコール消毒剤やせっけんなどによって膜が失われると、エンベロープウイルスの感染力は失われます[注2]。

一方、ノンエンベロープウイルスは、脂質の膜を持たないため、脂質を溶かす消毒剤では十分な効果が期待できません。より殺菌効果の強い塩素系消毒剤の使用が必要です。

つまり、エンベロープウイルスにはアルコール消毒剤、ノンエンベロープウイルスには塩素系消毒剤が有効といえます。

アルコール消毒の注意点

新型コロナウイルスを含むエンベロープウイルスには、アルコール消毒が有効です。アルコール消毒剤を使用する際は、次の4つに注意しましょう。

1.適切な濃度のものを使用する

消毒剤は、適した濃度のアルコール消毒液(濃度70%以上95%以下のエタノール)を使用しなければ本来の効果を得られません。手指を消毒する場合、濃度70%以上95%以下のエタノール消毒液を用いて、よくすり込みましょう。なお、60%台のエタノールによる消毒でも一定の有効性があると考えられており、70%以上のエタノールが入手困難であれば、60%台のエタノールを使用した消毒でも差し支えありません。[注3] 。

2.空間に向けて噴射しない

消毒用アルコールは引火しやすく刺激も強いため、空間への噴射は非常に危険です[注3]。

3.体へのダメージに注意する

体質によっては、手が荒れたり赤くかぶれたりしてしまうことがあります。その場合は、極力アルコール消毒を避け、こまめに手洗いをする、消毒後はハンドクリームなどでダメージ軽減を行うなど工夫をしましょう。

4.モノへのダメージに注意する

アルコールは、素材よっては材質劣化を起こしてしまいます。油脂を溶かす効果があるため、オイル仕上げやラッカー塗装された製品、ワックスやニスなどが施されたフローリングには使用できません。また、アクリル樹脂製品に用いると、割れやヒビが起こる場合があります[注4]。

塩素系消毒剤の種類と注意点

「塩素系」と呼ばれる消毒剤のうち、「次亜塩素酸ナトリウム」と「次亜塩素酸水」が一般的ですが、この2つはまったくの別物です。一つずつ特徴と注意点を見ていきましょう。

次亜塩素酸ナトリウム

薬局などで「漂白剤」として販売されているものが、次亜塩素酸ナトリウムです。アルコールでは効果の小さいノンエンベロープウイルスに対しても、強力な消毒効果を持っています。

使用箇所や用途に合わせて自分で希釈して使用するのが一般的です[注3]。たとえば、消毒なら0.05%までに薄めることが求められます[注5]。日常的な感染予防だけでなくノロウイルス患者の嘔吐によって汚染があった際の消毒剤としても使用されています。

一方で、次亜塩素酸ナトリウムには次のような注意点があります。

・強い塩素臭を放つ

・刺激が強く、手指消毒には使えない

・金属の表面を腐食させてしまう

・酸性洗浄剤と混ざると有毒ガスが発生する

強い消毒効果を持つ一方で、扱いには注意が必要です。ゴム手袋をして肌に触れないようにする、換気して使用する、金属などに触れた場合はすぐに水で洗い流すなど、人やモノに害を与えない工夫をしましょう。

次亜塩素酸水

次亜塩素酸水は、食品添加物としても認可されており、野菜を出荷する際の洗浄などにも使用されています。高い消毒効果と安全性を持っていることが特徴です。また、次亜塩素酸ナトリウムと比較すると、低濃度でも消毒効果を発揮します。

次亜塩素酸水を使用する際の注意点は、以下のとおりです[注6]。

・十分な量を使用する(拭き掃除をする箇所がひたひたになるようにぬらして20秒以上おき、きれいな布やペーパーで拭き取る)

・流水で掛け流す場合、有効塩素濃度35ppm以上のものを選び、消毒したいモノを20秒以上次亜塩素酸水の流水で掛け流す

・使用方法、有効成分(有効塩素濃度)、酸性度(pH)、使用期限の表示があることを確認する

・紫外線による次亜塩素酸の分解を避けるため、遮光性の容器に入れ、冷暗所で保存する

・希釈用の製品は正しく希釈して使う

・自作しない(塩素が発生すると危険)

・正しい基準をクリアしていない「疑似次亜塩素酸水」に注意する

また、次亜塩素酸水の生成器が販売されていますが、厚労省からは「ご家庭などで自作すると塩素が発生する可能性があり危険[注6]」と案内されているため、慎重な判断が必要です。

疑似次亜塩素酸水に注意

次亜塩素酸水とうたいながら中身は次亜塩素酸水ではない、「疑似次亜塩素酸水」が出回っています。

疑似次亜塩素酸水は、次亜塩素酸水の消毒効果を持たないだけでなく、人体の健康を害する危険性も持っています。

たとえば、次亜塩素酸ナトリウムを希釈したものが「次亜塩素酸水」として販売されていますが、次亜塩素酸ナトリウムが「漂白剤」として市販されていることを考えれば、人体への悪影響はイメージしやすいでしょう。

ニセモノをつかまされないように、買う際には商品に次の表記があることを確認しましょう[注7]。

・使用方法

・原料・有効成分(有効塩素濃度)

・酸性度(pH)

・製造日・使用期限

・JIS規格・ISO規格の取得

パッケージに表記された製品情報や企業の製品ページを確認し、正規の販売規定に従って作られている次亜塩素酸水であることを確認しましょう。

まとめ

消毒剤はどれも同じというわけではありません。用途や場面に合った消毒剤を使用しなければ、消毒したいウイルスに対して十分な効果を発揮しないばかりか、一歩間違えると、自分や家族の健康を害する危険なものにも変わってしまうのです。

・消毒剤が持つ効果が十分に発揮できるように、適切な量、時間、場所で使っているか

・人体やモノに有毒・有害になるような使い方をしていないか

・消毒効果を正規に認可された製品を使っているか

自分や大切な人を守るための消毒を間違った方法でしないよう、上記の点に注意しましょう。

【監修者】
内科医・公衆衛生医師 成田亜希子さん

東京都出身、弘前大学医学部卒。青森県弘前市在住の医師。 国立医療科学院や結核研究所で研修を積み、保健所勤務経験から感染症、医療行政に詳しい。

【所属学会】
日本内科学会、日本公衆衛生学会、日本感染症学会、日本結核病学会、日本健康教育学会所属。

 

[注1]

細菌とウイルスとの違い?|株式会社 東邦微生物病研究所

[注2]

新型コロナウイルスはアルコールに弱い|独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所

[注3]

新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について(厚生労働省・経済産業省・消費者庁特設ページ)

[注4]

耐薬品性試験 ーケミカルクラック試験/ソルベントクラック試験ー|パナソニック株式会社

[注5]

新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)|厚生労働省

[注6]

「次亜塩素酸水」を使って モノのウイルス対策をする場合の 注意事項(2020年6月26日現在の知見)|厚生労働省、経済産業省、消費者庁

[注7]

経済産業省「次亜塩素酸水」等の販売実態について(ファクトシート)

 

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