コロナ禍でも住まいを購入したいと考える人は少なくありませんが、気になるのが先行きの不透明感。多額の住宅ローンを組んで、確実に返済できるのかと不安になりそうですが、コロナ禍に対応して、万一のときには救済策を利用しやすくなっています。すでに3万人以上の人が適用を受けているそうです。
首都圏マンションは新築も中古も安定的に売れている
新型コロナウイルス感染症の影響拡大で住宅を購入する人が減るのではないかと懸念されましたが、マンション、一戸建てともにコロナ禍以前並みかそれ以上に売れています。
民間調査機関の株式会社不動産経済研究所によると、首都圏の新築マンションの発売戸数は2020年には2万7,228戸だったのが、2021年には3万2,000戸に増える見込みで、1月、2月の契約率を見ても、70%台の安定した売れ行きを示しています。
中古マンションも同様で、公益財団法人東日本不動産流通機構の調査によると、2021年1月の首都圏中古マンションの成約件数は、同機構が1990年5月に発足して以来、1月としては過去最高を記録しました。成約価格は2020年6月から、ほとんどの月で、前年同月比5%以上の上昇が続いています。
コロナ禍で在宅勤務が増えて、ワークスペースを確保できる住まいが必要になったこと、在宅時間が長くなり、自分たちの将来や住まいについて考える機会が増えたことなどが、好調な売れ行きにつながっているのではないかと見られます。
コロナ禍で現金給与総額は10ヶ月連続で前年同月比から減少
しかし、コロナ禍の先行き不透明感が強いなかで、住宅ローンを組んでいいのかという不安を感じる人が多いはずです。
事実、厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によると、現金給与総額の前年同月比は、図表1にあるように、2020年4月にマイナスに転じて以来、2020年1月まで10ヶ月連続してマイナスが続いています。多少収入が減っても、働き続けられればいいのですが、なかには飲食業、宿泊業などを中心に、仕事を失ってしまう人も少なくありません。
そんな不安定な時期に住宅ローンなどとても組めない――ということになりそうですが、ためらっているばかりでは、いつまでもマイホームを手にすることができず、結果、生涯賃貸住宅住まいということになりかねません。
どこかで思い切って飛び込む必要がありますし、飛び込んでみれば、そんなに心配することはなかった、買ってよかったということになるケースも多いのではないでしょうか。
住宅ローンには万一の際の救済策が用意されている
それでも、不安という人には、住宅ローンには万一に備える救済策が用意されていることを紹介しておきましょう。いざとなれば国が救ってくれるなどと、安易な気持ちで行動されては困るのですが、転ばぬ先の杖として知っておけば、ある程度不安を払拭できるはずです。
リーマンショック後の2009年、住宅ローンの返済に困る人が続出したとき、「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律(中小企業金融円滑化法)」が施行され、住宅ローンについては、利用者からの条件変更などによる返済猶予などの希望に柔軟に対応することが義務化されました。
この法律は期限切れになっていますが、今回のコロナ禍においては、2020年3月に内閣府特命担当大臣(金融)名で、「新型コロナウイルス感染症の影響拡大を踏まえた事業者の資金繰り支援について(要請)」が出されました。個人の事業性ローン、住宅ローンなどについて、返済猶予などの相談に応じるなど、必要な支援を行うように求めています。
図表2 金融庁が作成した中小企業経営者や住宅ローン利用者向けのリーフレット(一部抜粋)
コロナ禍の影響で収入が減ったり、失業したりして返済が困難になった人から相談があったときには、返済期間の延長などによる条件変更によって、利用者が返済を継続、マイホームを失わないように配慮することを、金融機関に対して指導したわけです。
賃貸住宅にお住まいの方にはどのような救済制度があったかというと、経済産業省には「家賃支援給付金」という制度があり、2020年7月14日から受付開始、2021年3月31日で事業終了となりました。
住宅ローンを組んでいる方の場合は、2020年3月から救済策の受付を開始し丸1年を経過した2021年4月1日現在も相談を受け付けている金融機関が多くあります。
「生活の立て直し」という面で、賃貸住まいと持ち家住まいを比較すると、
・受付開始の迅速さ
・救済制度期間の長さ
・金融機関が柔軟な対応をする事など
住宅ローンを組んで持ち家に住んだ方が、予期せぬ事態があった場合、仕組みが準備されていると言えそうです。
出典:金融庁「新型コロナウイルス感染症の影響拡大を踏まえた住宅ローン等の返済猶予等について(周知)」
無条件での1年間の元金据え置きなどの対応を実施
その結果、金融機関がどのような対応を取ったのか――金融庁では具体的な事例をホームページで紹介しています。たとえば、こんな具合です。
新型コロナウイルス感染症を踏まえた金融機関の対応事例
・住宅ローンに係る返済猶予等の相談について、審査を行わずに最長1年間の元金据え置き等を実施
・住宅ローンに係る返済猶予の求めに対して、まず6ヶ月間、元金を据え置き、6ヶ月後にその時点の状況を踏まえて対応を再検討する(条件変更手数料も無料)
・住宅ローンについても返済猶予等の取り組みを行っていることを、具体的な事例とともにリーフレットにまとめ公表・幅広く広報
・住宅の完成前に実行される形の住宅関連融資について、工期の長期化を見据え、住宅完成・引き渡しまで元金を据え置く(条件変更手数料も無料)
・個人向け事業性ローンや住宅ローン等の条件変更の求めがあった場合、収入減少の確認資料を不要として、迅速に対応
出典:金融庁「新型コロナウイルス感染症を踏まえた金融機関の対応事例」
条件変更申込みの97.5%が条件変更などの実行に救済策適用に
金融庁のまとめによると、全国の金融機関に対して、図表3にあるように、2020年3月10日から2021年1月末までに、3万7,942件の条件変更などの申し込みがあったそうです。
そのうち、3万155件に関して、融資条件の変更などの救済策が実行されました。謝絶は789件ですから、2021年1月末時点で結論が出た総数のうち救済策が適用された割合は97.5%に達します。
ほとんどの人が、返済額の減額などに応じてもらったうえで、返済を継続していることになります。
救済策が適用されないでの相談をせずに住宅ローン返済の延滞が続くと、住宅ローン残高の一括返済を求められ、それができないときには自主的に住まいを売却する任意売却を迫られ、売却できなければ競売にかけられることになります。
いずれにしても、マイホームを失う、あるいは、失ったうえで、住宅ローン残高が残って、なお返済が続くという厳しい事態に陥ってしまいます。
しかし、ローン返済が厳しくなった段階で金融機関に相談すれば、返済期間の延長などの救済策が適用され、返済を継続して、マイホームを守ることができるようになります。それも97.5%と、ほとんどの人が救われているのです。
当面の返済額を大幅に減らして危機を乗り切る
独立行政法人住宅金融支援機構でも、【フラット35】の返済が苦しくなった人への救済策を実施していますが、一定期間だけ返済額を減額したり、返済期間を延長する方法などが紹介されています。
借入額3,000万円、金利年2%、35年返済の場合、毎月の返済額は9万9,378円です。このローンで、10年経過後に1年間だけ返済額を5万3,738円に軽減して、残りの24年間の返済額を10万1,797円とする方法があります。1年間、返済額がほぼ半分近くになるので、返済を続けられる人がいるはずです。
また、3年間元金を据え置いて、15年間返済期間を延長すると、据え置き期間中の返済額を4万円弱に減らしたうえで、据え置き期間終了後の毎月返済額も7万円台に抑えることができます(内容変更後の完済時年齢が80歳を超えない必要があります)。
ただ、どちらの場合も完済までの総返済額が増えることは知っておく必要があります。
時には思い切った決断が必要になることもある
翻ってみれば、1990年代にはバブルが崩壊し、2008年にはリーマンショックに襲われ、2020年には新型コロナウイルス感染症がやってきました。コロナ禍はいずれ終息するでしょうが、将来、いつまた今回のような想定外のことが起こるかわかりません。
しかし、こうした救済策の適用が可能であることが頭に入っていれば、想定外の事態に襲われてもあたふたする必要がなくなります。冷静に、キチンと対応すれば、無事に乗り切れるようになるはずです。
拙速や蛮勇はおすすめできませんが、長い人生、時には思い切った決断が必要になることもあります。むしろ、こんな先行き不透明な時期にマイホームを取得、その時期を乗り切ることができれば、怖いものはありません。ピンチは実はチャンスのときなのかもしれません。