祠(ほこら)のある土地はどう考えればよい? 祠の意味と土地売買の影響

住宅用の土地は更地になっているケースがほとんどですが、注文住宅を建てようと考えている方が「適当な土地を見つけたと思ったら、祠(ほこら)がある土地だった」というケースが実際にあります。

地価や広さ、立地など土地探しはタイミングと縁。せっかく良い土地を見つけても祠が立っていると、様々な悪い想像が浮かんでしまいます。

一方で、祠を持っている土地の売主も祠を撤去してから売るべきかどうか迷っている方も多いと思います。

そこで今回は、祠に込められた意味や、祠がある土地の購入または売却等について知っておくべきことをまとめました。

祠があることで土地購入金額や売却金額にどう影響するのか、相続税評価額に差が付くのかなど、気になる情報も紹介していますので、参考にしてください。

祠の意味とは

古い土地だと北西または北東に祠が祀られているケースが多々見られます

住宅用地に建っている祠をどうするべきか、具体的な対応方法をご紹介する前に、まずは祠について基本的な知識を押さえておきましょう。

祠とは、神様を祀る小さな社のことで、神宝を納める倉を意味する「神庫(ほくら)」がなまったものと言われています。

個人の住宅用地に建てられている祠は、家や土地を守る「屋敷神(やしきがみ)」を祀ったもので、古来より全国各地で人々から大切に扱われてきました。

屋敷神の起源には諸説あり、その家の祖先の魂が神格化(祖先神)したとする説や、五穀豊穣を願う農耕神がもとになっているという説もあります。石造や木造の小祠が一般的で小さい鳥居が立っている場合もありますが、地域によって特色もあり、様々な形態が確認されています。

新興住宅地などではほとんど見られない祠ですが、古い土地だと北西または北東に祠が祀られているケースが多々見られます。

祠が購入したい土地にある場合

売買契約を締結する前に祠をどうするかきちんと考えておきましょう

購入希望の土地に祠が建っている場合、買主には3つの選択肢があります。

(1)祠を残したまま住宅を建てるケース

もともと祠は土地の北西または北東の隅に建てられているので、住宅を建てるのに日照の障害となるケースは比較的少ないです。神様を祀っている祠を取り壊すのに抵抗のある方は、土地と一緒に祠も引き取り、受け継いでいくという選択肢もあります。

(2)祠を別の場所に移設するケース

祠から神様の魂を抜く「魂抜き」と呼ばれる儀式を行ってから移設するのが一般的です。移設する場合には、移設先で祠に「魂入れ」を新たに行います。

なお、魂抜きは対応できる近隣の神社や寺などに依頼するのが主流です。

(3)住宅を建てる前に祠を撤去するケースです。

手順は移設の時と同じで、魂抜きを行ってから祠を取り壊し、更地の状態にします。

土地を有効活用したい方や、敷地内に祠を祀ることに抵抗のある方は、2または3の方法で更地にしてから住宅を建てることになります。

敷地内の祠をどうするかについての最終的な決断は、土地を購入する買主側に委ねられますので、購入する予定の土地に祠があることがわかったら、売買契約を締結する前に祠をどうするかきちんと考えておきましょう。

祠が以前建っていた場合は、確認しないとわからない

現在は撤去されているものの、以前敷地内に祠が建っていたというケースもあります。

「神様を祀っていた祠があった土地」と聞くと、その上に住宅を建ててよいものかどうか悩んでしまう方もいるでしょう。

気になる場合は、不動産業者に相談し、きちんと魂抜きをしたうえで撤去したのかどうか確認してみることをおすすめします。

現存している祠については売買契約前に説明を受ける重要事項説明書に明記されます。

ただし、祠が現存しない土地に関して祠の存在を疑わせる事情がなければ不動産会社に調査する義務はありません。

よって、祠の存在を疑わせる事情がなく、かつ、買主側から尋ねない場合には、かつて祠が存在していたことは前もって知らされないことになります。

祠の存在を疑わせる事情がある場合には、不動産会社に対し、これまで祠が建っていた経緯はないかどうか尋ねておきましょう。祠が建っていたと知った場合、気になる方は神社や寺などに「魂抜き」をすべきかどうかを相談することをおすすめします。対処法は状況に応じて個別に判断するようにしてください。

なお、更地に住宅を新築する場合、工事の安全を願う儀式として「地鎮祭」を行うのが一般的です。地鎮祭は工事の無事を祈願するための儀式ですので、かつてあった祠の「魂抜き」とは別の扱いとされることが考えられます。

関連記事:地鎮祭とはどんな行事? 費用、のし袋の書き方、当日の服装などを解説

土地購入金額や売却金額への影響

祠が建っている住宅用地を購入または売却する場合、土地の購入金額や売却金額に影響はあるのでしょうか。土地の購入・売却価格が相場より安くなる原因は複数存在します。

例えば、土地の形が悪い、土地が傾いている(傾斜地)など、土地自体に物理的に使いにくい要因があるケースでは、相場より価格が安くなる傾向にあります。

また、土地利用に関する規制により、住宅の建築に何らかの制限がかかるケースも土地価格は下がります。さらに、心理的に本来あるべき住み心地を欠く状態の物件も価格が下がるケースがあります。

例えば、その土地で事故や事件があった場合や、近場に嫌悪施設がある場合は、心理的要因のある土地とみなされ、相場より価格が安くなるケースが多いようです。

敷地内にいて過去に自殺や事件があった物件は心理的瑕疵(読み方:しんりてきかし)物件と呼ばれます。それに対して、敷地外における周辺環境の嫌悪施設は環境的瑕疵物件です。祠は敷地内に存在するため、敷地外における周辺環境の嫌悪施設には該当しません。では、心理的瑕疵物件に該当するかというと、判断は分かれる余地があります。

心理的瑕疵は、通常一般人においてそのような事由があれば住み心地の良さを欠くと感じることに合理性があると判断される場合に該当します。祠が心理的瑕疵に該当するか否かは、社会生活上、我慢すべき程度を超えて平穏に日常生活を送るという利益を侵害しているかどうかで判断されます。

祠は一般人の我慢を超えるほどの住み心地を欠いていると言い切れないものが多く、心理的瑕疵に該当する可能性は低いと考えられます。ただし、祠があれば、買主には「魂抜き」や「撤去費用」等の余計なコストがかかることが一般的です。したがって、祠がある土地は買主に費用負担が発生することから、通常の土地よりも安く取引されることが多いといえます。

売主として土地の価格が下がってしまうことに抵抗のある方は、あらかじめ祠を移設または撤去し、更地にしてから売りに出すのがいいでしょう。

祠を残したまま土地を売りに出した場合でも、買主側から祠の移設や撤去を購入の条件とされることもあります。移設・撤去する際は、魂抜きも実施する等の買主が納得する方法で対応しておくことが適切です。祠を残したままにすると、買主に価格交渉の余地を与えてしまい、実際の撤去費用以上に値引きされてしまうこともあります。

相続税評価額に差が付くのか

相続税評価額とは、相続税や贈与税を計算する際、基準となる課税価格のことです。

被相続人(亡くなった人)が基礎控除額を超える財産を保有している場合には、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内に相続税の申告と納税をする必要があります。

ただし、相続税法第12条に定められた「相続税の非課税財産」に該当する場合、財産の価額は相続税の課税価格に算入しないという決まりがあります。[注1]

相続税の非課税財産となるケースはいろいろありますが、屋敷内にある神の社や祠などの御神体を祀る「庭内神し(ていないしんし)」については、相続税の非課税財産に該当する可能性があります。[注2]

ただし、祠の建っている土地が相続税の非課税財産に該当する庭内神しとみなされるかどうかは、「庭内神しの設備とその敷地、附属設備との位置関係やその設備の敷地への定着性その他それらの現況等といった外形」や「その設備及びその附属設備等の建立の経緯・目的」、「現在の礼拝の態様等も踏まえた上でのその設備及び附属設備等の機能の面」から総合的に判断されることになります。

まとめ

昔からある住宅用地には、まれに神様を祀る祠が建てられている場合があります。

土地の購入後、祠をどうするかは買主の判断に委ねられますが、気になる方は売買契約を締結するにあたり、売主側に祠の移設や撤去を購入の条件とするのが適切です。

祠を残したまま売ることになった場合、なかなか買い手が見つからないおそれがありますので、あらかじめ移設や撤去を行い、更地にして売りに出すことも検討してみましょう。

【監修者】
竹内 英二さん

不動産鑑定事務所および宅地建物取引業者の代表取締役。不動産鑑定士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、公認不動産コンサルティングマスター(相続対策専門士)、中小企業診断士の資格を保有。大阪大学出身。

[注1]e-Gov法令検索「相続税法」

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC0000000073

[注2]国税庁「庭内神しの敷地等」

https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/sozoku/04/02.htm

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