個人事業主のなかには法人化を視野に入れている人もいることでしょう。今回はそうした人に向けて、所得税と法人税の違いを詳しく説明します。
同程度の売り上げがあった場合、個人事業主と法人とでは支払う税金がどのくらい違うのか、どちらがお得なのかといったことも解説しますので、ぜひ参考にしてください。
所得税とは
所得税は個人の所得に課せられる税金で、会社員・公務員・パートやアルバイトの給与、個人事業主の事業収入などが対象となります。
所得税の対象となる課税所得とは、給与・賞与を合わせた年収あるいは総売り上げから必要経費(給与所得者の場合は給与所得控除)を引き、さらに基礎控除や配偶者控除、社会保険料控除など、それぞれの状況に応じた控除額を差し引いた金額のことです。
所得控除の種類や控除額の計算方法はこちらの記事を参考にしてください。
関連記事:所得税の控除(所得控除)って何? 15種類の内容と控除額の計算方法
法人税とは
法人税は企業や組合などの法人に対して課せられる税金です。
個人に対する所得税と同様に法人の所得が課税対象となりますが、個人と法人とでは所得の算出方法が異なります。
個人の所得が収入から必要経費や各種控除を差し引いたものであるのに対し、法人の所得は会計上の収益・経費に法人税法上の調整を加えた「益金・損金」をもとに算出します。
法人といっても地方公共団体や日本政策金融公庫などの公共法人、公益社団法人や宗教法人、学校法人などの公益法人は法人税の対象にはなりません。ただし、公益目的以外の収益事業から得た所得には法人税が課税されます。
所得税と法人税の違いとは
所得税と法人税はいずれも所得に対する税金ですが、所得税は個人が対象、法人税は法人が対象という違いがあります。両者の違いはそれだけではありません。ここからは所得税と法人税の違いについて、さらに詳しく説明します。
税率
所得税と法人税の税率はそれぞれ次のとおりです。なお、法人税は普通法人についての税率を記載しています。協同組合や公益法人の法人税の場合には異なる税率が適用されます。
表からわかるとおり、所得税の税率は所得に応じて細かく設定されているのに対し、法人税の税率は基本的には資本金に応じて一律となっています。また、所得金額が年間330万円以上であれば、法人税(資本金1億円以下かつ年間所得800万円以下の企業)よりも所得税のほうが高い税率が課せられていることがわかります。
年間所得が330万円以上になった時点で個人事業から法人化したほうがお得かといえば、そうとは限りません。法人税は一定税率であり、実際に所得330万円で試算してみると所得税よりも高額になることがわかります。
所得税額:330万円×20%-42万7,500円=23万2,500円
法人税額:330万円×15%=49万5,000円
所得税は超過累進課税で、下図が示すように基準を超えた部分に対して段階的に税率が上がっていきます。
上図の縦軸は年収です。縦軸に表記された数値は所得税の税率が変わる数値となっています。つまり、給与所得1,500万円のうち、195万円分は5%、135万円分は10%、365万円分は20%、205万円分は23%、600万円分は33%の所得税がかかります。
それぞれの税率を掛けた額を合わせると所得税額は341万4,000円となります。
はじめに記載した速算表を利用して、次のように算出することも可能です。
1,500万円×33%-153万6,000円=341万4,000円
経費にできる項目
給与所得者は所得から給与所得控除を差し引けます。個人事業主などの自営業は利益から経費を引いた額から所得税を計算します。
一方、法人は経費のほかに役員報酬も利益から控除可能です。自分が受け取る役員報酬も控除できるため、個人事業主と比べると法人税の課税分をコントロールしやすいという特徴があります。
また、法人は個人事業主よりも経費にできる範囲が広くなっています。個人事業主ではプライベートな支出とみなされる慶弔費も、法人では経費扱いにできます。出張した際には出張手当の支給も可能です。
そのほかにも、自宅兼事務所を社宅扱いにすれば家賃の50%を経費にできる、生命保険料控除の上限がないなど、法人化によって得られる税制上のメリットはかなり多いといえるでしょう。
交際費
経費や税率において基本的には法人のほうが優遇されていますが、交際費については個人事業主のほうが有利です。
法人は、接待にかかる飲食代や贈答品などの交際費に上限が設けられていますが、個人事業主は無制限に経費として認められます。ただし、上限があるとはいえ、中小法人の交際費の限度額は年間800万円までと多額です。
いずれにしても、家族旅行や友人との飲食などのプライベートな支出は交際費にはできません。経費にする場合には内容をきちんと説明できるようにしておきましょう。
所得税と法人税、節税効果が高いのはどっち?
ここまでの説明で、法人税のほうが節税しやすいと感じた人も多いことでしょう。しかし、所得税や法人税は税率や経費にできる項目が異なるため、一概にどちらがよいとはいえません。ここからは、法人化する際の注意点も踏まえ、所得税と法人税の節税効果について解説します。
法人は節税効果が高いが諸費用がかかる
法人は節税効果が高いものの、設立・運営に手間と費用がかかることに注意してください。
個人事業主として開業する場合は特別な費用はかかりません。管轄の税務署へ開業届を提出するだけで手続きは終わります。
法人設立には最低300万円からの資本金が必要でしたが、2006年5月に施行された新会社法により、株式会社でも資本金1円からの設立が可能になりました。ただし、法人登記が必要で、そのための手間と費用が発生します。法人登記にかかる費用の目安は、株式会社は20万~25万円ほど、合同会社は最低6万円です。
また、法人化すると、利益に関係なく法人住民税の支払い義務が発生します。従業員を雇えば、厚生年金保険や健康保険などの社会保険料も考えなくてはなりません。
財務会計処理も複雑になるため、税理士や公認会計士などの専門家に依頼するケースがほとんどです。人件費にかかるコストも上昇するでしょう。
明確な基準はない
所得税と法人税にかかる税金は、それぞれ下図のとおりです。
上図は1人の人間が個人事業主として働く場合と、法人で働く場合を比較したものです。
個人事業主は売り上げから費用を引いた額に所得税などがかかります。
一方、法人のときにかかる税金は、売り上げから費用を引いた額から、さらに自分への給与を引いた部分にかかる法人税と、自分への給与から給与所得控除を引いた額にかかる所得税です。
こうして比べてみると、法人税のほうが課税対象となる部分をコントロールしやすく節税効果が高いように思えます。ただし、事業によっては経費にできる費用が少ないこともありますし、雇う人数や個人のお金の使い方などによっても課税額は変化します。
「年収〇百万円を超えたら法人化すべき」といった意見を見かけることがありますが、そのような明確な基準はありません。
個人事業主と法人、節税効果が期待できるのはどちらなのかは、税理士などと相談のうえ慎重に判断することが大切です。
まとめ
所得税と法人税は税率や控除できる費用・金額に違いがあります。法人の場合は税率が低く、経費にできる項目も多いですが、法人化することでかかる費用も出てきます。その事業によってかかる経費も変わってきますし、一概に法人のほうがいいとはいえません。
個人事業主が法人化を検討する際には税理士などの専門家に相談し、最適なタイミングでの法人化を目指すようにしてください。