所得税は年間の所得額に応じて決まります。そのため、給与所得者は通勤手当が所得に含まれるのかどうか気になる人もいるのではないでしょうか。この記事では通勤手当や出張費などの交通費が所得税の課税対象となるのかどうかについて解説します。
通勤手当とは
通勤手当は今でこそ多くの企業が取り入れていますが、導入の始まりは戦後あたりとされています。
戦後、都市部に住居を確保できず遠距離通勤を余儀なくされた労働者が増加しました。そこで、企業は通勤手当を支給することで、労働者を確保したそうです。高度経済成長期においては、労働力誘致の施策の一環として通勤手当の支給を掲げたことが、通勤圏の拡大に寄与しました。
通勤手当は企業に支払い義務はない
通勤手当に関して企業に支払い義務はなく、法令で支給を強制されたものではありません。
労働基準法上では、労働の対償として支払われるものであり、賃金のなかの一部として扱われます。そのため、企業が通勤手当を支給していなくても違反ではありません。
通勤手当と交通費・旅費の違い
通勤手当以外に、交通費や旅費が支給される企業もあるでしょう。これは、出張や得意先回りなどの際の交通費や宿泊費を指すものです。
交通費や旅費は業務遂行上必要な会社の経費ですので、通勤手当と違い雇用者側が負担しなければいけません。仮払い後に現金精算する企業や、前払いや立て替え払いの精算として給与と一緒に振り込む企業など、支払い方法は企業によってさまざまでしょう。
給与に上乗せして振り込まれている場合でも、労働の対償としての賃金の一部には当てはまりません。
所得税における通勤手当の扱い
所得が多いほど納めるべき所得税が増えるのはご存じでしょう。では、遠距離通勤などで高額の通勤費がかかる社員は、所得税を多く負担しなければならないのでしょうか。通勤手当は所得税を算出する際に、どのように扱われるのか解説します。
基本的に通勤手当は非課税
通勤手当は、出勤して業務を行う以上必ず発生する必要な費用であるため、所得税法第9条で「非課税所得」と決められています。つまり、所得税計算の対象外となるため、通勤圏なら多少遠くても税制面で不利になることはありません。
ただし、非課税対象となる額には限度があります。非課税所得と認められる通勤手当は、経済的かつ合理的な方法による最安の金額でなければなりません。また、通勤手当の限度額を超えた分は課税対象となります。
電車やバスなどの交通機関を利用している場合
通勤にかかる交通費は、社会通念上の常識的な範囲内での金額を計上しなければなりません。たとえば、グリーン車を利用したなど、通常の運賃に上乗せしてかかる料金は課税対象です。
また、最短経路でなく必要以上に遠回りする場合も課税対象となることがあります。所得税法上、非課税となる通勤手当は、通勤時間や距離、運賃などの要素を考慮したうえで、最も経済的かつ合理的な方法での金額であることが決められています。
このような条件に当てはまったとしても、通勤手当が非課税となる範囲は月々15万円までです。15万円を超えた金額分は課税対象となります。
自動車や自転車で通勤している場合
自動車や自転車を利用して通勤している人もいるでしょう。この場合、公共交通機関のように費用が明確でないため、基本的に以下の表のように勤務地までの距離で非課税限度額が決まっています。
通勤手当の支給は法律で義務付けられていないため、企業独自で自由に決められます。自動車やバイクの場合は、通勤距離、勤務日数、ガソリン単価などをもとに、社内の賃金規定に沿って算出するのが一般的です。
ただし、所得税法上は表のように片道の通勤距離(経路に沿った道のり)に応じて、1ヶ月当たりの非課税限度額が決められているわけなのです。
年俸制で給与に含まれている場合
年俸制は一般的な月給制の給与体系と異なり、残業手当などの諸手当を年俸に含む場合がほとんどです。この場合、通勤手当は賃金と認められるため、非課税にはならず所得税の課税対象となります。
年俸制などで、通勤手当として明確な額が算出できない場合は、通勤手当分も課税所得に含まれます。
テレワークの場合
新型コロナウイルス感染症の影響による突然のテレワーク導入で、ほぼ出社せず在宅勤務メインでありながら通勤手当が支給されているケースもあるかもしれません。
この状態が今後どうなるかは予測できず、企業としても先の対応を決めかねている状態でしょう。このような状況を考慮し、通勤回数が0日もしくはごくわずかという場合でも、これまでどおり通勤手当の限度額までは非課税として扱われます。
ただし、これは2021年3月現在の情報であり、社会の状況に応じて今後変わる可能性もあります。また、企業が就業規則の賃金規定を見直し、通勤手当に関する条項について変更する場合もあるでしょう。
所得税において交通費は非課税
出張などの移動にかかる交通費や旅費を、「出張経費精算分」として給与と一緒に振り込まれる場合があるでしょう。また、あらかじめ食事代などを含んだ相当額を「出張手当」として支給する場合もあります。
これらの出張にかかる交通費や宿泊費、生活費などは、業務遂行上の必要経費と認められます。所得税計算の際には課税対象にはならないため、所得税が増えることもありません。
場合によっては非課税にならないこともある
出張にかかる交通費や旅費は非課税と説明しましたが、それはあくまでも通常利用の範囲内での話です。
たとえば、飛行機のファーストクラスや、新幹線のグリーン車などを利用した場合は、非課税にならない場合があります。
旅費や交通費に関しては、具体的な金額の上限が設定されているわけではありません。企業の出張旅費規程などで、グリーン車の使用を認めるという条項が盛り込まれ、グリーン料金の実費が支給されているケースもあるかもしれません。
しかし、所得税法では状況によって課税対象とされるケースがあることを理解しておきましょう。
社会保険では通勤手当を含めて計算する
所得税を計算する際は、通勤手当は所得とはみなされず非課税扱いと説明しました。そのため、上限額ギリギリの通勤手当を受け取る人と、職住接近で通勤手当が出ていない人とで、給与額に差がなければ所得税にも差は生じません。
しかし、社会保険料を算出する際は、通勤手当の全額を所得とみなして計算に含めます。そのため、受け取る給与額が同額でも通勤手当が高額な人ほど、支払う社会保険料が高くなるため手取り額が低くなります。
ただし、支払う社会保険料が増えれば、受け取る年金の受給額が増える可能性もあります。
通勤手当が含まれるもの・含まれないもの
通勤手当が関わるのは所得税や社会保険料だけではありません。通勤手当を含んで計算するものとしないもの、上限があるものを以下の表にまとめました。
表のとおり、社会保険や労働保険など社会保障に関する保険料を算定するときは、通勤手当を含めた賃金を基準として計算します。また、休業手当が支給されるときの平均賃金を算定する場合も、通勤手当を含めます。
一方、月々の給与の所得税の算出、年末調整や確定申告の所得税の確定の際は、通勤手当を含めません。ただし、上限額を超えた分については給与に含めた課税対象額として計算します。また、残業代などの割増賃金や、地域別の最低賃金は通勤手当を含めずに計算します。
まとめ
通勤手当は基本的には非課税であり、所得税の対象にはなりません。ただし、通勤手当として認められるのは経済的かつ合理的な方法で通勤した場合に限られ、非課税の上限が15万円と定められています。
実際に会社から15万円以上の通勤手当が支給されている場合でも、15万円を差し引いた残額に所得税が課せられています。通勤手当は必ずしも全額非課税となるわけではないので、注意しましょう。