家族がいる場合、パートを始めるときに気になるのは扶養についてではないでしょうか。「103万円の壁」「130万円の壁」「150万円の壁」などの言葉もあり、どのくらい働くのが最適なのか、わからない人も多いかもしれません。
そこで、所得税と社会保険料には扶養がどのように関係してくるのか、扶養内で働くためにはどうすればいいのか、それぞれの方法について解説します。
扶養内とはどういうことか
扶養内で働くということは、税制や社会保険において優遇される範囲の年収で働くことを指します。納税者の配偶者は一定基準以内の年収であれば、税金や社会保険料の負担が軽くなります。税金と社会保険では優遇される内容が異なるため、それぞれについて具体的に解説します。
税金における扶養
納税者は、配偶者の年収が103万円以内であれば配偶者控除、年収が201万6,000円以内であれば配偶者特別控除が受けられます。配偶者控除の分だけ課税所得金額が減り、納税者の所得税負担額は軽くなります。
また、パートなどの給与所得の場合、年収103万円以内であれば、給与所得控除と基礎控除で年収が0円と同じになります。そのため、所得税の納税は必要ありません。所得税には配偶者控除以外にもさまざまな控除があります。所得控除についてはこちらの記事を参考にしてください。
関連記事:所得税の控除(所得控除)って何? 15種類の内容と控除額の計算方法
社会保険における扶養
社会保険とは健康保険、厚生年金、介護保険、労働保険などを指します。
被保険者に生計を維持されている人の場合、年収130万円未満であれば社会保険料を支払う必要はありません。被保険者の配偶者であれば、社会保険料を支払わなくても被保険者の所属企業の健康保険を使用でき、国民年金を満額受給できるといったメリットがあります。
ただし、自営業やフリーランスの人が加入する国民健康保険にはそもそも扶養がなく、加入する家族の数だけ保険料がかかります。そのため、夫が自営業の場合、妻の収入が扶養内の金額であっても国民健康保険料は支払わなければなりません。
所得税と扶養内の関係とは
配偶者が扶養内で働けば納税者は配偶者控除が受けられます。所得税は課税所得金額に応じて決まるもので、所得が多ければ多いほど納める税額が高くなります。
配偶者控除を受けられれば、その分課税対象となる課税所得金額を減らせます。結果として、支払う所得税額も減るので、扶養内で働けば節税につながります。
また、所得税には基礎控除と給与所得控除があり、103万円を超えなければ所得税の支払い義務は発生しません。これは、次項で詳しく解説します。
年収103万円を超えると自分の所得税が発生する
年収103万円の壁というのは、働く本人の所得税に関係します。
給与所得控除55万円と基礎控除48万円を合計した103万円以下であれは、課税所得金額が0円となり所得税は発生しません。
ただ、所得税は超過分にだけ課せられるため、もし年収105万円だった場合、所得税は超過分の2万円だけが課税対象となります。
また、年収103万円以下は配偶者控除、年収103万円超は配偶者特別控除の対象となるため、年収103万円は配偶者控除の壁ともいえるかもしれません。しかし、年収150万円を超えないと控除額は変わりません。
そのため、配偶者控除を満額受けるための壁として年収150万円の壁があります。
年収150万円を超えると納税者の所得税支払額が上がる
配偶者の年収が150万円を超えると、納税者の配偶者特別控除額が徐々に減っていきます。控除額が減っていくということは納めなければならない所得税が増えていくということです。年収150万円以下の控除額は以下の表のようになります。
しかし、年収150万円を超えると配偶者の所得によって徐々に配偶者特別控除額が減っていきます。控除額は以下の表のとおりです。
配偶者特別控除は配偶者の年収が高くなるにつれて徐々に控除額が減っていく仕組みです。配偶者の年収が150万円の人と201万円の人では、最大35万円も控除額に差が出ます。
年収150万円の壁についてより詳しく知りたい人は下記の関連記事をご覧ください。
関連記事:配偶者控除と配偶者特別控除の改定。150万円の壁に注意すれば大丈夫?
年収201万円の壁を超えると配偶者特別控除額が0になる
上の表では年収201万6,000円未満までしか記載されていませんが、それより収入が増えると配偶者特別控除はなくなります。いわゆる「年収201万円の壁」とは、正確にいうと年収201万6,000円の壁であり、納税者が配偶者特別控除を受けるための年収制限のことをいいます。
そのほかの年収の壁とは
所得税が関係する年収の壁は103万円、150万円、201万円です。しかし、そのほかにも年収100万円、130万円の壁があります。この二つの壁はどのようなことに影響するのか解説します。
年収100万円の壁
年収100万円の壁はいくつかある壁のなかで最も年収額が低く、最初にぶつかる壁だといえます。この年収100万円の壁では、本人が支払う個人住民税が関係してきます。
個人住民税とは居住している地域に対して支払う税金で、市民税や県民税がそれに該当します。一般的には年収100万円以下なら個人住民税はかかりません。
ただし、この基準は市や県によっても変わるため、居住する自治体に確認しましょう。
年収130万円の壁
年収130万円の壁は社会保険料に影響します。社会保険料では、年収130万円未満かつ、被保険者の年収2分の1未満もしくは被扶養者よりも少ない年収の場合は社会保険の被扶養者となります。
そのため、被扶養者となれば社会保険料を納めていなくても保険給付を受給可能です。配偶者の場合は国民年金を支払わなくても、満額受給できるというメリットもあります。
もし、この扶養から外れてしまうと、自分で保険料を納めなければいけません。したがって、年収130万円を超えるか超えないかぐらいの収入であれば、年収は130万円未満に抑えたいという人も多いでしょう。
所得税を考えると扶養内で働いたほうがいい?
扶養してくれる家族がいる人は、扶養内で働くように気をつけている人も多いでしょう。扶養内で働くか、扶養から外れて働くかによって、所得税や社会保険料にも違いが出てきます。そこで、扶養内で働くメリットとデメリットについて解説します。
扶養内で働くメリット
扶養内で働くと、納税者の支払う所得税額が減ります。さらに、場合によっては配偶者本人も所得税や社会保険料を支払わなくても済みます。
仮に、夫が会社員で妻が年収103万円以下のパート勤務の場合、夫は配偶者控除を満額受けられ、妻の所得税や社会保険料も0円です。
配偶者は社会保険料を支払わなくても国民年金を満額受給できますし、納税者が企業に勤めているのであれば、その企業の健康保険も利用できます。勤務先から扶養手当を受け取れる場合もあるので、扶養内で働くメリットは大きいでしょう。
扶養を外れるメリット
社会保険における扶養から外れると、夫の企業ではなく自分が働く企業の厚生年金に加入することになります。国民年金だけの扶養内の状態よりも老後の収入は多くなるでしょう。
また、所得税や社会保険料の負担は増えますが、世帯年収も多くなるため、その分貯蓄額も増やせます。貯蓄額や将来の年金が増えれば、老後の不安も少なくなるでしょう。
住宅購入や子どもの進路などで選択肢を増やせるようになりますし、扶養を意識せず働くメリットもたくさんあります。
まとめ
扶養に入れば、税制や社会保険においてさまざまな優遇措置を受けられます。納税者は配偶者控除を受けられるため支払う所得税額は減りますし、配偶者本人も所得税や社会保険料を支払わずに済みます。
今の仕事が年収の壁を超えるか超えないかのギリギリのラインであれば、働き方を調整するのも一つの方法でしょう。
ただ、年収の壁を超えて働けば、総合的に家計に入る金額を増やせます。思い切って扶養内かどうかを気にせずに働いてもいいでしょう。