世帯年収は、生計を一にする人の年間の合計収入のことです。世帯年収が同じでも、共働きと片働きでは所得税額にかなりの差が生じることがあります。共働きでも、お互いの収入のバランスによって所得税の負担率が変わるため、世帯の手取り金額も違ってきます。今回は、世帯年収と所得税の関係性について解説します。
世帯年収が同じでも手取り金額は違う
所得税は、生計を一にする家族に収入があっても、個人それぞれの所得に応じてかかる税金です。所得税は、超過累進税率方式で計算されるため、所得が多くなるほど高い税率が適用されます。超過累進税率は、納税者の支払い能力に応じて税負担の公平性を満たす課税方法として採用されました。
つまり、個人の収入が多いほど所得税の負担率が高くなる仕組みです。この仕組みにより、片働きの場合、所得税の適用税率そのままの負担率となりますが、共働きの場合、それぞれの所得金額が異なれば、世帯収入が同じでも世帯全体の負担率が変わってきます。
世帯年収1,000万円の場合で共働きと片働きを比較
所得税額の差が一番大きいケースを見てみましょう。世帯年収1,000万円の場合の共働きと片働きでは、どのくらい所得税が違うのか比較します。
夫婦のうちどちらかが年収1,000万円のケース
会社員の夫の年収が1,000万円、妻は専業主婦、子どもがいないケースで説明します。
A.世帯年収:夫1,000万円、妻0円
B.社会保険料控除:150万円
C.配偶者控除:13万円
D.基礎控除:48万円
E.給与所得控除:195万円
F.課税所得金額:A-(B+C+D+E)=594万円
G.所得税:F×税率20%-42万7,500円=【76万500円】
Gの42万7,500円は、所得税の速算表による控除額を表しています。超過累進税率による段階的な複数の計算を簡単にするために使う数字です。この場合、夫1人の片働きで世帯年収が1,000万円の場合の所得税は76万500円となります。
夫の年収500万円、妻の年収500万円のケース
会社員の夫と妻の年収がそれぞれ500万円ずつ、子どもがいないケースで説明します。
夫の所得税
A.年収:500万円
B.社会保険料控除:75万円
C.基礎控除:48万円
D.給与所得控除:144万円
E.課税所得金額:A-(B+C+D)=233万円
F.所得税:E×税率10%-9万7,500円=13万5,500円
妻の所得税もすべて夫と同額の計算となります。よって、
G.世帯全体の所得税:F×2=【27万1,000円】
Fの9万7,500円は、所得税の速算表による控除額です。この場合、夫と妻がそれぞれ年収500万円の共働き、世帯年収が1,000万円の場合の所得税は、27万1,000円となります。
夫の年収900万円、妻の年収100万円のケース
会社員の夫の年収が900万円、妻の年収が100万円、子どもがいないケースで説明します。
夫の所得税
A.年収:900万円
B.社会保険料控除:135万円
C.配偶者控除:38万円
D.基礎控除:48万円
E.給与所得控除:195万円
F.課税所得金額:A-(B+C+D+E)=484万円
G.所得税:F×税率20%-42万7,500円=54万500円
妻の所得税
H.年収:100万円
I.基礎控除48万円
J.給与所得控除:55万円
K.課税所得金額:0円
L.所得税:0円
M.世帯全体の所得税:G+L=【54万500円】
Gの42万7,500円は、所得税の速算表による控除額です。ここでは、妻は基礎控除と給与所得控除を足すと103万円になります。年収より控除額が多くなり課税対象である所得金額が0円となるため、妻の所得税は発生しません。これがいわゆる「103万円の壁」というものです。
以上を整理すると、夫の年収が900万円、妻が100万円の共働き、世帯年収が1,000万円の場合の所得税は、54万500円となります。
3つのパターンを比較してみると?
以上の世帯年収が1,000万円の三つのパターンを比較すると、夫婦のうちどちらか1人の片働き世帯が、最も所得税が高くなるということがわかります。三つのうち一番所得税が低い、夫婦で500万円ずつの共働き世帯と比べると、76万500円-27万1,000円=48万9,500円となります。同じ世帯年収1,000万円でも、働き方やお互いの年収により、1年だけで最大48万9,500円もの差が生じるのです。
妻が扶養控除内で働き100万円の収入がある場合は、76万500円-54万500円=22万円で、ここでもかなりの開きがあります。所得が多くなるほど高い税率が適用されるため、世帯年収が同額の場合、共働き世帯のほうが所得税の負担が軽減できるのです。
出典:国税庁「令和2年分の年末調整のための算出所得税額の速算表」
共働きと片働きではどちらが得なのか
所得税の税率は一定ではなく超過累進税率であり、年収が高いほど税率は上がると説明しました。共働きと片働きでは、所得税の金額にこれだけの差があることを考えれば、共働きのほうが得とも感じられるでしょう。
特に、子育て世帯では、世帯主の年収がおおむね960万円を超える場合は、児童手当も特例給付となり減額されます。そのため、世帯年収が同じでも、共働きで世帯主の年収が960万円を超えていないほうがお得といえます。
一方で、高等学校等就学支援金制度、いわゆる高校無償化は、世帯主だけの年収ではなく、世帯全員の年収の合計が約910万円未満の場合に対象となるため注意しましょう。
まとめ
所得税は個人それぞれの収入に対して超過累進税率が適用されるため、収入が多いほど税の負担率が大きくなります。そのため、世帯年収で見ると、共働きか片働きかによって所得税の負担率が大きく変わるのです。世帯年収が同じ金額だった場合、片働きよりも共働きのほうが所得税の負担が軽減され、各種の行政サービスが受けられる可能性も高くなります。