「長期優良住宅」という言葉を聞いたことがあっても、具体的にどのような住宅を指すのか知らない人は少なくないのではないでしょうか。
住宅を建てるときに長期優良住宅にするには、認定基準を満たしたうえで、認定申請を行う必要があります。
長期優良住宅の認定基準やメリット、デメリットなどを紹介していきます。
長期優良住宅とは?
日本は建物を造って老朽化したら、壊して新しい建物を建てる、スクラップアンドビルド型の社会でした。
良質な住宅を適切な維持管理を行って長期間使用する、ストック型の社会への転換を促すことを目的に、2009年に「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」が施行され、長期優良住宅認定制度が創設されました。
国土交通省によれば長期優良住宅とは、「長期にわたり良好な状態で使用するための措置がその構造及び設備に講じられた優良な住宅」と定義されています。
長期優良住宅認定制度の基準にもとづいて、長期優良住宅の建築および維持保全の計画を行政官庁に申請して、認定を受けた住宅が長期優良住宅になります。
長期優良住宅は何年住める?
一般の住宅の耐用年数は25年~30年とされています。これに対して、長期優良住宅の耐用年数は75年~100年とされ、適切な維持管理を行うことで長期にわたって住むことができます。
長期優良住宅の認定基準
長期優良住宅の新築戸建ての場合の認定基準は、次の7つの項目があります。
・劣化対策
・耐震性
・維持管理・更新の容易性
・省エネルギー対策
・住戸面積
・居住環境への配慮
・維持保全計画
長期優良住宅の認定基準は住宅性能表示の評価基準が用いられているほか、項目によっては独自の評価基準も設けられています。
劣化対策
劣化対策として、「数世代にわたり住宅の構造躯体が使用できること」が求められます。住宅性能表示制度の劣化対策等級3を満たすほか、構造によって以下の基準が設けられています。
・木造…床下・小屋根裏に換気口を設置、床下の有効高さ330mmを確保
・鉄骨造…柱・梁・筋交いに使用する鋼材の防錆措置、または木造と同様の措置
・RC造…コンクリートの水セメント比を5%低減、またはかぶり厚さを1cm増加
耐震性
耐震性では、「極めて稀に発生する地震に対し、継続利用のための改修の容易化を図るため、損傷のレベルの低減を図ること」とされています。次の3つのいずれかを満たすことが必要です。
・耐震等級1で、限界耐力計算で安全限界変形1/100(木造は1/40)以下であることを確認
・耐震等級2
・品確法に定める免震建築物
限界耐力計算とは、地震が発生したときに建築物がどこまで地震力に耐えられるかの指標となるものです。
維持管理・更新の容易性
維持管理・更新の容易性として、「構造躯体に比べて耐用年数が短い内装・設備について、維持管理(清掃・点検・補修・更新)を容易に行うために必要な措置が講じられていること」が求められます。
住宅性能表示制度の維持管理対策等級3を満たすことが要件です。
維持管理対策等級3は、点検口が設けられているなど、仕上げ材や躯体を傷めずに、給排水管や給湯管、ガス管の清掃や点検、補修などの維持管理が行える対策をとることが必要です。
省エネルギー対策
省エネルギー対策では、「必要な断熱性能等の省エネルギー性能が確保されていること」が求められます。
住宅性能表示制度の断熱等性能等級4に該当することが要件です。
省エネルギー基準はたびたび改正されており、断熱等性能等級4は、2016年(平成28年)に制定された28年基準と呼ばれる省エネルギー基準に適合する対策を講じることが必要です。
住戸面積
住戸面積は「良好な居住水準を確保するために必要な規模を有すること」とされています。
新築戸建てでは、住戸面積の基準は75平方メートル以上で、少なくとも一つの階の床面積が40平方メートル以上あることが基準となります。
居住環境への配慮
居住環境への配慮では、「良好な景観の形成その他の地域における居住環境の維持および向上に配慮されたものであること」とされています。
住宅を建てる土地が、地区計画や景観計画、条例によるまちなみ等の計画、建築協定、景観協定等などの区域内にある場合には、適合することが求められます。そのため、計画段階で行政官庁への確認が必要です。
維持保全計画
維持保全計画で求められているのは、「建築時から将来を見据えて、定期的な点検・補修等に関する計画が策定されていること」です。
以下の部分や設備に関する定期的な点検や補修の計画を策定に加え、地震時や台風時に臨時点検を行う、維持保全の実施期間が30年以上であることが必要です。
・構造耐力上の主要な部分
・雨水の侵入を防ぐ部分
・給水や排水のための設備
長期優良住宅で受けられる税制の特例措置などのメリット
長期優良住宅として認定を受けると、大きく分けて次の3点の優遇を受けられることがメリットです。
・税制の特例措置
・補助金
・住宅ローンの金利
長期優良住宅は所得税に関しては、一般住宅よりも住宅ローン減税が拡充され、投資減税型の特別控除の適用の対象となります。
また、不動産取得税や登録免許税、固定資産税で、長期優良住宅は一般住宅よりも軽減措置が優遇されています。
このほかにも、長期優良住宅は地域型住宅グリーン化事業(長寿命型)の補助金の対象です。
住宅ローンで【フラット35】を利用する場合は、長期優良住宅は【フラット35】Sによる優遇金利の適用を受けられます。
所得税
長期優良住宅に対する所得税の優遇制度として、住宅ローン減税の拡充と投資減税型の特別控除の2つがあります。
住宅ローン減税は住宅ローンを利用して住宅を取得し、2021年12月末までに入居するケースで、主に以下の要件を満たす場合、10年間、年末の住宅ローン残高または住宅の取得対価のうち少ない方の金額の1%が所得税から控除される制度です。
・購入者の居住用の住宅であること
・住宅の引渡しまたは工事完了から6ヶ月以内に居住すること
・床面積50平方メートル以上
・店舗等併用住宅の場合は床面積の1/2以上が居住用
・住宅ローンによる借入金の償還期間が10年以上
・購入者の合計所得金額が3,000万円以下であること
住宅ローン減税の対象となる借入限度額は一般の住宅は4,000万円ですが、長期優良住宅は5,000万円に拡充されています。
投資減税型特別控除は住宅ローンを利用せずに、長期優良住宅を取得した際などに利用できる制度で、主に以下の要件を満たしていて、2021年12月末までに入居するケースが対象です。
・購入者の居住用の住宅であること
・住宅の引渡しまたは工事完了から6ヶ月以内に居住すること
・床面積50平方メートル以上
・店舗等併用住宅の場合は床面積の1/2以上が居住用
・購入者の合計所得金額が3,000万円以下であること
控除対象額「43,800円×床面積」の10%が所得税から控除され、控除対象限度額は650万円となっています。
不動産取得税の軽減
不動産取得税は土地や家屋を取得したときにかかる税金です。不動産取得税は2022年3月末までに新築した床面積が50平方メートル以上240平方メートル以下の住宅を対象に、課税標準から控除する優遇措置が設けられています。
控除額は、一般住宅は1,200万円なのに対して、長期優良住宅は1,300万円と優遇されています。
登録免許税の軽減
登録免許税は2022年3月末までに住宅を取得した場合、軽減措置が設けられています。
居住用に取得した床面積50平方メートル以上の住宅で、新築または取得から1年以内に登記を行うことが要件です。
所有権保存登記の税率は0.4%のところ、一般住宅は0.15%、長期優良住宅は0.1%に軽減されます。
所有権移転登記は税率が2%ですが、一般住宅は0.3%、戸建ての長期優良住宅は0.2%に軽減され、いずれも長期優良住宅は一般住宅よりも軽減される幅が大きいです。
固定資産税の軽減
固定資産税、は2022年3月31日までに新築された住宅を対象に軽減措置が設けられています。
床面積が50平方メートル以上280平方メートル以下などの要件を満たす場合、1/2に減額される期間は、一般の戸建ては3年間ですが、長期優良住宅の戸建ては5年間に延長されます。
地域型住宅グリーン化事業(長寿命型)の補助金を受けられる
地域型住宅グリーン化事業とは、地域の木造住宅に関連する中小企業の工務店などの施工業者や木材の製材業者、建材の流通業者などがグループをつくり、省エネルギー性能や耐久性などに優れた木造住宅の新築や改修に対して補助金の支給を受けられる事業です。
木造の長期優良住宅の新築は長寿命型として、地域型住宅グリーン化事業の対象になり、補助上限額は110万円です。
ただし、国土交通省によって採択されたグループに所属する施工業者に依頼して、長期優良住宅を新築する場合に、補助金を活用することができます。
【フラット35】Sの金利優遇
【フラット35】は、住宅金融支援機構と民間金融機関の提携による最長で35年の借入期間の間、固定金利となる住宅ローンです。
長期優良住宅は質の高い住宅を対象とした【フラット35】Sの適用対象となり、【フラット35】の借入金利から-0.25%の金利の優遇を受けられます。
長期優良住宅のデメリット
長期優良住宅は認定を受けるために時間やコストがかかるなど、次に挙げるデメリットもあります。
・申請から認定まで手間と期間がかかる
・建築費用や申請コストがかかる
・認定後も維持保全と記録が必要
申請から認定まで手間と期間がかかる
長期優良住宅に認定を受けるには、評価機関に相談を行ったうえで、申請書類を作成して審査を依頼するなどの手続きが必要になり、手間がかかります。
ハウスメーカーや工務店などに申請の代行を依頼することもできますが、後述する手数料に加えて手間賃が上乗せされることが多く、20万円~30万円程度が一般的です。
また、長期優良住宅の申請から認定にかかるまでの期間は自治体にもよりますが、戸建ての場合で最低でも土日祝日を除いて7~14日のため、2~3週間程度はかかり、2~3ヶ月程度の期間となるケースもあります。
また、申請書類に不備がある場合には、さらに認定までの日数を要します。
建築費用や申請コストがかかる
ハウスメーカーの多くは長期優良住宅の仕様がほぼ標準仕様になっているため、長期優良住宅にしても、建築費用はあまり変わらないことが多いです。
ただし、工務店やハウスメーカーによっては長期優良住宅の認定基準を満たすために、建築費用がアップすることがあります。
また、長期優良住宅の技術審査や申請にかかる手数料は自治体によって異なりますが、5万円程度が目安です。
事前に行政官庁や登録住宅性能評価機関に、申請費用を確認しておきましょう。
認定後も維持保全と記録が必要
長期優良認定住宅に認定されると、維持保全計画に従ってメンテナンスを行い、記録の作成と保存を行うことが必要です。
計画に沿ってメンテナンスを行わない場合は、行政官庁から改善を求められることがあり、従わない場合には認定を取り消されることがあります。
また、増築やリフォームを行うときには行政官庁から計画変更の認定を受けることが必要です。
長期優良認定住宅は認定を受けた後も、メンテナンスコストがかかり、煩雑な手続きが発生することがあるのです。
長期優良住宅の申請方法
長期優良認定住宅の申請を行う際には、施主や施工業者などの申請者が登録住宅性能評価機関に技術的審査を依頼して、適合証の交付を受けた後、行政官庁に認定申請を行う流れです。
申請者が行政官庁に認定申請を行い、行政官庁から登録住宅性能評価機関に技術的審査を依頼する方法もありますが、認定審査にかかる期間が長くなるのが一般的です。
一般的な長期優良認定住宅申請の流れ
申請者が登録住宅性能評価機関に技術的審査を依頼する場合は、まずはスムーズに審査を進めるために、事前相談を行うことが必要です。
次に、施工業者に長期優良住宅の認定申請に関わる設計図書を依頼し、申請書類を作成した後、登録住宅性能評価機関に技術的審査を依頼します。
審査では質疑問合わせがあった場合には質疑回答をします。登録住宅性能評価機関から認定証の交付を受けた後、行政官庁へ認定申請を行います。
長期優良住宅の認定申請書は以下からダウンロードできます。
ダウンロード:認定申請書(第一号様式)(Word)
長期優良住宅を建てる際の注意点
長期優良住宅を建てる際には、次の2つの注意点があります。
・建築実績の豊富な建築会社・設計事務所に依頼する
・着工前に申請する
建築実績の豊富な建築会社・設計事務所に依頼する
長期優良住宅を建てるには、認定基準を満たす設計を行い、認定申請を行う必要があります。
そのため、設計や施工の実績の豊富なハウスメーカーや工務店、設計事務所に依頼するのが望ましいです。
これまでの経験から、長期優良住宅のノウハウがある会社のほうが、設計や認定申請の手続きをスムーズに進められることが期待できます。
反対に不慣れな会社の場合は、技術的審査の段階で図面に修正が多く発生したり、書類に不備があったりするといった事態が危惧されます。
着工前に申請する
長期優良住宅の認定申請は、工事の着工前に行う必要があります。
認定申請が受け付けられた後に着工することになります。着工してから、「長期優良住宅の認定申請を行えばよかった」と思っても、建設中や竣工した後のタイミングでは申請ができないという点に注意が必要です。
長期優良住宅の認定基準を満たす住宅を新築して、認定を受けたい場合は、認定申請にかかる期間を考慮して計画的に進めることが大切です。
まとめ
長期優良住宅は適切な維持管理を行うことで、一般住宅より長い期間にわたって快適に安心して暮らせる住宅です。
長期優良住宅として認定を受けることで、税制面や住宅ローンなどで優遇されるといったメリットがあります。
ただし、長期優良住宅の申請を受けるには、手続きに費用や時間がかかり、認定を受けた後も、メンテナンス記録の作成や保存が必要なことを踏まえておきましょう。