和風住宅では、必ずといっていいほど設えられている床の間は、古くから日本人の生活にとけ込んできた大事な伝統の一つです。
とはいえ床の間とは何のためにあるのかや、種類をわかっている方は少数派のようです。
そこで、この記事では床の間の使い方や、種類、マナーなどをわかりやすく解説します。
中古住宅を購入したり、今の家にある床の間をうまく活用しにくい人向けにはリフォームアイデアも紹介しますのでご覧ください。
床の間とはどこのこと? 意味や起源
床の間とは、古くは「床(とこ)」と呼ばれており、「床」を持つ格式のある和室を「床の間」といいます。
本来は部屋全体を指して、床の間という言葉が使われていたました。
現在では一般的に和室の奥(入口から離れた場所)をさし、畳より一段高く、四角く引っ込んだ形で作られます。
主に生け花や壺、掛け軸などが飾られる場所です。
床の間の起源は室町時代だといわれます。東向きか南向きにするのが一般的です。
起源については、高貴な人が座る一段高い場所だったという説や仏壇だったという説、お客さんをもてなすために絵を飾る場所だったという説など諸説あり定まっていません。
特に茶道では欠かせない空間となり、やがて庶民にも広まりました。
一段高く設えられ美しいものや大切なものを飾る床の間は、日本人にとって昔から「特別な場所」です。
床の間を背にして座る場所は一番の上座(かみざ)にあたり、家の主人や客人のための場所として重視されました。
和室の床の間の役割・使い方
床の間の主な役割・使い方は、次の2つがあります。
・掛け軸や書画、花などで飾る
・客人をもてなす
掛け軸や書画、花などで飾る
床の間には、掛け軸や書画、花などを飾るのが一般的です。
特に茶道では、四季折々の季節を感じさせる掛け軸や花を飾る大切な場所とされています。
仏教では仏具や宗教画を飾っていたともされるほか、「時代劇で刀が飾られているのを見た」という人も多いかもしれません。
いずれにしても、床の間は大切なものや美しいもの、神聖なものを飾るのにふさわしい場所。
畳より一段高くなっていることで、雑多な日常とは切り離された清浄さも感じさせてくれます。
客人をもてなす
床の間(床がある部屋)には「客人をもてなす」という大切な役割があります。
床に季節の花や掛け軸、書画を飾ることは、お客様への大切なおもてなし心のあらわれです。
「あなたのために用意した飾りを見ながら、ゆっくりとくつろいでください」という思いが込められています。
床のあるかしこまった部屋にお通しするという行為が、お客様への歓迎と敬意を表わすものです。
床の間の種類
一言で「床の間」といってもその種類はさまざま。
長い歴史を持つ床の間は茶道や仏教、武家社会などさまざまな社会で愛され、多様な形に進化していったのです。
床の間の種類には主に次のようなものがあります。
・本床
・蹴込床
・踏込床
・袋床
・洞床
・釣床
・織部床
・置き床
では、それぞれの床の間の特徴をイラストとともに見ていきましょう。
本床(ほんどこ)
床の間として最もポピュラーな形式が「本床(ほんどこ)」です。
「書院造り」という室町時代に始まった建築様式でよくみられるものです。
床柱には角を削り、丸みを持たせる面取りを施し、畳から床の間への立ち上がりを床框(とこがまち)で覆って、上部には落し掛け(おとしがけ)を配し、落し掛けの上は小壁、となっています。
床框は木目を生かした化粧横木のほか、黒塗りにすることもあります。
床板は畳とするのが高い格式ですが、板を使うこともあります。
蹴込床(けこみどこ)
本床に似た造りの蹴込床(けこみどこ)。
本床と蹴込床の違いは、本床が化粧板などを使った床框(とこがまち)を施すのに対し、蹴込床では蹴込板(けこみいた)と呼ばれる板をはめ込みます。
蹴込板には床板と同じ素材を使うことが多いですが、丸太や竹をはめ込んで風合いの違いを楽しむものもあります。
踏込床(ふみこみどこ)
踏込床(ふみこみどこ、ふみこみゆか、ふんごみゆか)とは、高さを作らずあえて畳と同じ高さにしたものです。
ふんごみと呼ばれることもあります。
床の間には、床板として地板が張られます。
床板が一段高くなっているほかのタイプと比べて、ややカジュアルな床の間です。
袋床(ふくろどこ)
袋床(ふくろどこ)とは、床の間前方の一部に、袖壁(そでかべ)という壁を付けたものです。
床の間の間口より、奥の方が広いことから「袋」という名前が付いています。
袖壁は、床の間の右に付けることも左に付けることもあります。下地窓(したじまど)という小窓を取り付けたものも多く見られます。
床框や蹴込板を付けたり、踏込板にしたり、袖壁の下半分を抜いたり…など、さまざまな趣向を凝らしたバリエーションがあります。
洞床(ほらどこ)
洞床(ほらどこ)とは袖壁で前面を大きく壁で覆って、上部に丸みを帯びた開口部を作る方法が一般的な床の間です。
袋床の進化系といえます。外からは「洞穴(ほらあな)」のように見えることから、この名前が付きました。
壁の存在によって床の間の奥が見えにくいのが特徴です。床の間奥の柱を、壁で塗り回して隠したものが多く見られます。
「見えない空間の趣」を楽しむという、和の遊び心を感じさせる造りです。一般的な住まいというよりも、茶室などで見られます。
床は、畳と同じ高さの踏込床とするのが一般的です。
釣床(つりどこ)
釣床(つりどこ)とは、部屋に対してのへこみがない床の間です。
床柱や床框、床板もなく、下は畳のまま。床の間の位置に当たる部分に天井から釣束(つりづか)と呼ばれる出っ張りを下ろし、小壁と落し掛けを入れた簡単なもの。吊床とも書きます。
「これも床の間っていうの?」と驚く人も多いのですが、壁に掛け軸などを飾ることで「床の間らしさ」が出てきます。
釣床は、床の間の床部分を省略したともいえるタイプ。下に可動式の置床(おきどこ)を置くこともあります。
織部床(おりべどこ)
織部床(おりべどこ)も釣床同様に床柱や床板などがなく、そぎ落としたようにシンプルなのが特徴です。
部屋に対してのへこみは設けず、天井の廻縁(まわりぶち)の下に織部板(おりべいた。または雲板、幕板)という化粧板を取り付けます。床も畳のままです。
織部というのは千利休の弟子で、有名な茶人・戦国武将でもある古田織部(ふるたおりべ、1543~1615年)のこと。織部床は古田織部が好んだとされています。
置き床(おきどこ)
置き床は、床板にあたる台座部分が取り外して動かせるものです。床部分だけを指す場合と、床の間にあたる空間全体を指す場合あります。
造り付けになっているものは、附床(つけどこ)と呼びます。
最近の和ブームに合わせ、見直されているのがこの置床。マンションなどの小さめ和室やちょっとした畳スペースにも、気軽に楽しめます。
大小さまざま、テーブル状の和モダンタイプなどもネットで販売されています。
床の間の主な構成要素
床の間にはさまざまな種類がありますが、正式で格式の高い形式では、脇に「違い棚」「付け書院」というものが作り付けられています。
広い意味での「床の間」は、いわゆる床の間部分に加え、違い棚、付書院を合わせたものをいうこともあるのです。
ここからは(狭い意味での)床の間のほか、違い棚、付書院それぞれ、細かい造りや役割などを見ていきましょう。
【「床の間」の主要構成要素】
・床の間
・違い棚
・付書院
床の間
狭い意味での「床の間」、いわゆる「床の間」は「柱があって一段高くなっていて…」という、あのイメージの空間です。床の間は下記要素で構成されています。
・床柱
床柱は、床の間の脇に建てる柱のことで、室内のほかの柱とは木の種類や形状を変えるのが一般的です。
柾目(まさめ。木の中心付近を木材にしたもので、平行に近い模様を持つ)のヒノキ角材を面取りして用いるのが正式です。
・床板
床の間に敷く地板。正式には畳を使い、床畳(とこだだみ)とも呼ばれます。
・床框(とこがまち)
畳・前板から床板へと立ち上がる垂直部分です。
構造によって蹴込み板であったり、丸太や竹などをはめ込むこともあります。
・前板
部屋の畳部分と床の間との間をつなぐ板畳を指します。
・小壁
鴨居(かもい。ふすまや障子など、開口部上部の横材)と天井の間、長押(なげし。柱と柱をつなぐ横材)と天井の間などにある、小さな壁。床の間の場合は、落し掛けと天井の間の壁を指します。
・落し掛け
床の間の上部、小壁の下に横にわたす木材。桐、杉、竹などがよく使われます。
・廻縁(まわりぶち)
天井と壁の接点に張りつける板や飾り。接点をきれいに見せてデザイン性を高めるほか、隙間隠しの役目をすることもあります。
違い棚
違い棚とは、床の間の横、床脇(とこわき)に付けらえた段違いの飾り棚を指します。床の間同様、書院造りの建物では大切な存在です。
本来は、上の棚には香炉や筆、下の棚には書物やすずり、ハンコなどを置くものと決められていました。
違い棚は、次のような部位で構成されています。
・筆返し
かつて上の棚に置くとされていた物のなかに「筆」があり、筆が転がり落ちないように取り付けたのが筆返しです。
・海老束(えびづか)
上の棚板と棚板をつなぐもの。角に三角形の切込みを入れる「几帳面」という面取りが施されています。
几帳面とは、正確で真面目な性格を表わす「几帳面」という言葉の語源となった建築用語です。
・天袋(てんぶくろ)
棚上部の物入れで、小さなふすまを取り付けます。ふすまに絵を描くなどして、デザイン性を高めることも。
・地袋(じぶくろ)
棚下部の物入れ。天袋と同じくふすま扉で、絵を描くなどして装飾するケースが多くあります。
・長押(なげし)
柱と柱を水平につなぐ木材。ほとんどの場合は飾りです。
・無目(むめ)
溝のない鴨居。溝のない敷居を指すこともあります。
付書院(つけしょいん)
付書院(つけしょいん)とは、床の間の脇、外に面して作られた開口部です。
縁側(えんがわ)に沿って造られ、外の明かりを取り入れます。
原型となったのは、満足な明かりのない時代に、本などを読むためなどに造られた出窓兼机のようなもの。その後、床の間飾りの一部へと変化していきました。
付書院は次のような部分で構成されています。
・書院欄間(しょいんらんま)
採光と換気のため、書院上部に取り付けられた欄間(らんま)。菱形の組子模様がよくあるケースです。
・書院障子
単純な格子状ではなく、繊細な彫刻を施したり組子模様にしたりするなど、趣向を凝らしたものが多くあります。
・書院甲板(しょいんこういた)
もともとは書物を広げたり、書き物などをしたりする机にあたる部分です。
現代での書院甲板は、実際に書物を広げることはなく、装飾的なものとなっています。
書院甲板がなく、書院障子だけを備えたものは「平書院」といいます。
床の間の飾り方
「家に床の間があるけれど、何をどう飾ったらよいか分からない」「マイホーム建築にあたって親に床の間を作るように言われたけれど、いったいどう活用すればよいのか分からない」といった悩みを耳にすることがあります。
本来、床の間には掛け軸や生け花、書画などを飾る場所です。茶道では壺、香炉などを飾ります。
季節の花々のほか、お正月は鏡餅、春は五月人形やひな人形など季節感ある飾り物を置くのもおすすめです。
仏壇は置いてもいい?
本来仏壇は仏間に置くのが好ましいですが、今の時代に仏間を備えた住宅はほとんどありません。
床の間は、大切なものを飾る場所。「僧侶が仏具や経典を置いていたのが起源」という説もあるくらいですから、床の間に仏壇を置いても問題ありません。
床の間のタブー
やってはいけない床の間のタブーとは、荷物置き場にすることです。
そもそも床の間は、客人をもてなすための大切な空間です。
荷物を床の間に置くことは、おもてなしから大きくかけ離れるだけでなく、一気に家の中がだらしない印象になってしまいます。
もうひとつの床の間のタブ―は、床の間の上に上がることです。
掃除など必要なとき以外は、床の間に入ったり、座らないようにしましょう。
使わない床の間はリフォームで有効活用できる
「床の間スペースがもったいない。有効活用したい」という場合には、思い切ってリフォームしてしまうという方法もあります。
収納スペースとして生まれ変わらせたり、部屋全体の雰囲気をガラリと変えたりすることで、別の空間へと変えることができるのです。
リフォームのアイデアを何点か、紹介していきましょう。
棚や扉をつけて収納スペースとして活用する
床の間リフォームとして人気なのが収納スペースにすることです。
一般的な床の間は四角くくぼんだ形状であるため、リフォームがしやすいのです。
扉を付け、棚やパイプをわたすだけで、ちょうどいいサイズのクローゼットか物入れになります。
広さや材質、工法にもよりますが、プロに頼んだ場合の費用相場は20~40万円程度。自分でDIYにチャレンジしてみたという人も多いようです。
大きさによっては、書斎にするという方法もあります。カウンターと本棚のみの簡単なものならば、10~20万円ほどで済む施工ケースもあります。
壁紙を変えて和モダンなテイストに
和室を来客スペースとして使う機会が多い場合は、普段使いもできる和モダン空間へ、リフォームを考えるのも一つの方法です。
例えば床の間の床柱を隠すように壁紙を貼れば、ガラリと雰囲気の違うしゃれた空間になります。壁紙はDIYで替える方も多く、チャレンジしやすいかもしれません。
本格的リフォームで床柱を取り除けば、さらに可能性は広がります。
奥まった空間をディスプレイスペースとして、テレビを置いたり、家族の写真や子どもの絵などを飾るのも素敵ですね。
床の間をうまく活用しよう
床の間は、昔から日本人にとっては大切な空間です。四季を感じる季節の花や小物を飾ることで、ホッとひと息つける癒しの空間になります。
ゆっくりくつろいだり、お客様をお通しするのにふさわしい場所があると、家で過ごす時間も晴れやかな気持ちになれるかもしれません。
もちろんうまく活用しきれないと感じた場合には、思い切ったリフォームで別空間へと生まれ変わらせると、より一層住みやすくなります。
せっかくの大切な空間をムダにせず、自分に合った形で生かしてあげましょう。
【参考】
(株)ありがとうの家「リフォーム施工事例」
リフォームのひろば「施工事例」