ようやく1都3県を対象とした緊急事態宣言が解除されました。国内でも早いところではすでにワクチンの2回目の接種も行われており、日常の正常化に期待する声も耳にします。しかし、一方ではコロナ禍で私たちの生活は激変し、新しい生活様式もすでに定着した印象すら受けます。
今回はコロナ禍によって変化したのは消費行動だけではなく、不動産市場でも大きな変化があったことをデータに基づいて解説していきます。
コロナ禍において変容した消費行動
コロナ禍で私たちの生活様式は大きく変わりました。そのなかでも顕著なのがEC(ネットショッピング)を利用する人が増えたということです。感染症拡大防止の観点から、不特定多数の第三者との接触は避けたいという消費者のニーズもありますし、外出自粛によって客足が遠のいたことから、時短営業に応じた企業も多くあり、その結果がECの急速な利用者の増加につながっています。
JCBグループ会員のうち、匿名加工された約100万会員のクレジットカード決済情報をもとにJCBとナウキャストが算出した消費動向指数である「JCB消費NOW」を見てみると、コロナ禍でECの利用が大きく伸びたということだけでなく、高齢者のEC利用も伸びたということがわかります。
コロナ禍においてECを利用する人が増えたということは、皆さんなんとなく感じていたことかと思います。それを上記のようにデータで確認することで、確信に変えることができたかと思います。さて、それでは本題である不動産市場にはどのような変化があったのでしょうか。
「脱・東京」の動きが見え始めた
総務省が1月に発表した住民基本台帳に基づく2020年の「人口移動報告」によると、東京都の「転入超過」は31,125人となりました。転入超過とは、東京都に転入した人の数が東京から転出した人の数を上回るということですから、これまでの東京一極集中の流れと変わらないじゃないか、と思うかもしれません。
しかし、転入超過の規模は前年の82,982人から5万人以上減少しており、かつ月別で見ると7月から6ヶ月連続で転出が上回ったのです。昨年の4月に緊急事態宣言が発令されましたが、5月には比較可能な2013年7月以降で初めて転出超過に転じ、6月は再び転入超過となったものの、7月から前述のとおり12月まで転出超過となったのです。
なぜ、このような珍しい現象が起きたのでしょうか。
背景には、外出自粛に伴う在宅勤務の普及で、わざわざ家賃の高い都内に住む必要がなくなったことから、東京の近隣県に住居を移した人が多かったという仮説が立てられます。実際に、「人口移動報告」を東京都と同様に埼玉県、千葉県、神奈川県で見てみると以下のようになっています。
このグラフを見る限り、前述の仮定は正しいと考えても問題なさそうです。
参考:株式会社ナウキャスト/株式会社ジェーシービー「JCB消費NOW」
もともと、そうなる要因は存在していた
しかし、この現象はコロナ禍がきっかけで表面化しただけであり、もともとコロナ禍の前から東京から近隣の県への移住が流行する要因は存在していました。アルヒ株式会社が保有する2020年の住宅ローンに関する匿名加工データを縦軸に「月収に占める毎月の返済額」、横軸に「住宅購入金額に占める頭金の割合」をとってマッピングすると次のようになります。
同じ南関東1都3県でも、東京だけが毎月の返済額が高く、他の3県は必要な頭金の水準はほぼ同じで、毎月の返済額に少し違いがあるだけなのがわかります。
このように、同じ南関東であっても、東京だけが住宅にかかるコストが乖離しており、都内のオフィスに毎日通わなくていいのであれば、東京から近隣3県に流出していくのは容易に想像できます。
不動産市場への影響はいかに?
さて、このようにコロナ禍における人口移動が生じたことによって、不動産市場にはどのような変化があったのでしょうか。
国土交通省が発表した「主要都市の高度利用地地価動向報告」によると、新型コロナウイルスの感染症拡大が本格化した昨年の第2四半期から、東京圏の不動産鑑定士による不動産鑑定評価が前四半期比で「横ばい」となる地区が大半を占め、その次に前四半期比で0~3%下落となっている地区が多くなっていました。
これまでは前四半期比で0~3%、または3~6%上昇している地区が大半を占めていたにもかかわらず、その傾向が変わってきたのです。
実際に同資料に掲載されている東京圏の地価動向の図を見てみましょう。いわゆる山手線の内側の東京都区部の地価は前四半期比で横ばいか下落となっている一方で、横浜や川崎、武蔵小杉などの神奈川県の大きな都市では前四半期比で上昇しています。
これから気温と湿度が上昇し、かつワクチン接種が広がっていくことで、新型コロナウイルスの問題は峠を越えていくことが期待されますが、そうであってもコロナ禍で変容した生活様式が完全にコロナ前に戻ることはなく、在宅勤務をはじめとした新しい生活様式は一部で定着し続けることでしょう。
そのように考えれば、住宅購入の際は東京都ではなく、近隣3県にも目を向けていく必要が出てきそうです。
参考:国土交通省「地価LOOKレポート」