津波にも耐えた「家」の構造とは? 災害から命と財産を守る防災住宅

3月11日、東日本大震災から10年が経ちました。警察庁は2020年12月10日時点で、全壊12万1992戸、半壊28万2920戸、全半焼297戸、床上浸水1628戸、床下浸水1万0076戸、一部破損73万0392戸の被害が出たと発表しています。

地震だけでなく大雨洪水による土砂災害など、自然災害のたびに「災害に強い住宅」について議論が起きます。災害から命と財産を守る防災住宅の研究を行っている一般社団法人防災住宅研究所の 代表理事、児玉猛治さんに話を聞きました。

声が出なかった災害現場は初めて

児玉さんは阪神淡路大震災以降のほとんどの大きな自然災害現場を調査しています。東日本大震災のときは、福島第一原発の事故の影響で、9日後の3月20日に被災地入りしました。

「まず、唯一最大震度7だった栗原市に行きましたが、プレート境界型(海溝型)地震だったせいか、住宅被害自体はそれほどでもなかったですね。そして、名取市の閖上からどんどん北上して仙台市若林区や多賀城市へ。気仙沼市から岩手県陸前高田市など、その辺りを3日間ぐらいで周りました」(児玉さん)

「閖上などは家屋の97%が流されてしまいました。これまで多くの災害現場に行きましたが、声が出なかった災害現場というのは閖上が初めてだったかもしれません。津波が起こる直前まで、例えば、公園で子どもたちが遊んでいたような光景があったのでしょうが、一瞬にしてすべてが奪われてしまった恐ろしさを痛感しました。阪神淡路や熊本のような直下型地震とはまったく違う、水の怖さというものを見ました」(児玉さん)

WPC工法の住宅は津波でも流されない

児玉さんはもともと映像ディレクターとして災害現場を取材していました。その被災地調査・撮影をする中で、日本の住宅が災害の前にあまりにも無力で、住む人の命を守ることができないという現状を目の当たりにしました。「防災住宅」の必要性を実感し、どのような住宅工法が災害に強いのか、現地調査を重ねてきました。

法人名にもなっている「防災住宅」とは下記のように独自に定義しています。

防災住宅…最長の住宅ローンが終わる35年間は地震、津波、台風、ゲリラ豪雨、土砂災害、竜巻、シロアリなど、住宅を襲う様々な災害に対し、全壊・半壊は当然のこと、一部損壊さえもなく「家族の安全を確保」し、災害後も避難所に行くことなく、自宅でストレスのない生活環境が得られる住宅とする

 

画像提供:防災住宅研究所

参考:防災住宅研究所「防災住宅とは 私たちの考える防災住宅の定義」

児玉さんは、WPC 工法(=Wall Precast Concrete)という鉄筋コンクリートパネル住宅 について、阪神淡路の被災地に建つ495棟が一部損壊もなく無傷だったことを知りました。

WPC工法は、規格化された鉄筋コンクリートの壁部材をあらかじめ工場で量産し、現地で組み立てる工法です。この規格化された壁などはPCパネルとも呼ばれます。

児玉さんは阪神淡路後の巨大災害でWPC工法の住宅損傷について調査を続け、東日本大震災でも確認しました。

左側の建物がWPC工法住宅(画像提供:一般社団法人防災住宅研究所、宮城県仙台市若林区にて2012年5月9日撮影)

「WPC工法住宅は重量があるので流されていませんでした。例えば、仙台市若林区のSさん宅は大成建設のパルコンで、Sさんとご家族は地震が起きた時間は家にいらっしゃらず、猫4匹だけだったのですが、その猫も2階の押入れに上がって助かっています。海岸から700メートルぐらいのところにあった防風林が流れてきて、窓を突き破って家の中に30本ぐらい入ってきたりしていました。住宅の外壁には車が3台流れ着いてぶつかっていましたが、損傷なしでした」(児玉さん)

さらに、Sさん宅の後ろにあった木造住宅も流されなかったそうで、Sさん宅が“防波堤”になったとか。住人の方は屋根の上に上がってヘリコプターで助けられたそうです。
閖上地区にはWPC工法で建てられた築40年の公営住宅も何棟かありました。

「流されてきた漁船がぶつかり、一番端の住宅はちょっと損壊していました。それから、水がぶつかってくると、地面を掘るのですが、それで傾いたというケースもありました。しかし、WBC工法住宅の損壊はそれ以外では見られませんでした」(児玉さん)

南海トラフ地震でもWPC工法が津波対策となる?

2月には、東日本大震災の余震とされる最大震度6強の地震が福島県沖で発生するなど、震災の影響はいまもなお、続いています。

日本列島付近では、ユーラシアプレートとフィリピン海プレートの境界線である南海トラフを震源として、マグニチュード8~9クラスの「南海トラフ地震」が70~80%の確率で、30年以内に発生するといわれます。そして、関東地方から九州地方にかけての太平洋沿岸の広い地域に10mを超える大津波の襲来が想定されています。政府の想定によれば、最悪の場合、犠牲者は32万人超と推定されています。

「大半が津波被害による犠牲者数ですね。ここ数年の豪雨を受けて、住宅メーカー各社が水害対策の住宅を発表していますが、東日本大震災の津波の現場に行ってみると、構造的には木造も鉄骨系も、残念ながら、あの津波の前には原型を留めていません。そういう中で唯一、津波対策ができる一戸建てとしては、WPC工法なのかなという気がします」(児玉さん)

児玉さんは「地震にも火災にも強い住宅であるのに、まだまだ知られていない」と話します。

四季による温度・湿度の変化が激しい日本では、木造住宅に古くから馴染みが深く、日本人は「木の温もり」を理屈抜きで好みます。そのことが、非木造住宅が苦戦する一因かもしれません。
とはいえ、住宅には住む人の命も懸かっています。将来的にも自然災害が多発するであろうと予測されるだけに、感情より理屈で住宅工法を選ぶ時代になるかもしれません。

【取材協力】
一般社団法人防災住宅研究所

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