2020年(令和2年)4月の税制改正により、所得税の基礎控除額が変更になりました。それまでは納税者に一律の基礎控除が認められ、38万円分が非課税とされていましたが、改正後は納税者の所得金額に応じて段階的に控除額が決められています。所得額や世帯の状況により、税制改正の影響を受けない人もいれば、増税や減税になる人もいます。そこで、今回は所得税の基礎控除やその他の控除の変更点について解説します。
所得税の基礎控除とは?
所得税の基礎控除とは何か、控除金額や控除の条件、税制改正で基礎控除額が変更になったことでどのような影響があるのかなどについて解説します。
基礎控除は無条件で差し引ける所得控除の一種
企業に勤務する会社員などの給与所得者は年末調整で、個人事業主やフリーランスは確定申告で所得税額が決定します。その際に、扶養家族の人数、年間の医療費、支払った保険料の額など各自の状況に応じて所得税が減額されます。これらを「所得控除」といい、一定の基準を満たすことにより所得税の軽減措置が受けられる制度です。
「控除」には差し引くという意味があります。前述のケースでは、扶養控除、配偶者控除、医療費控除、生命保険料控除などの名目で、所得金額から一定額を差し引いたうえで所得税額を計算するため減税が可能です。一方、「基礎控除」は、家族の状況などの個別の要件を加味することなく、一定の所得内であれば誰でも控除が受けられます。住民税にも基礎控除があり、税制改正により控除額が引き上げられました。
2020年の税制改正で基礎控除額が変更された
2020年の税制改正以前は、所得金額にかかわらず基礎控除として、誰でも一律38万円の金額が差し引かれていました。しかし、税制改正以降は、基礎控除が38万円から48万円に引き上げられています。つまり、所得から差し引ける金額が増えたことにより課税対象額が減るため、所得税が安くなる仕組みです。
ただし、基礎控除として48万円が差し引けるのは、所得金額が2,400万円以下の場合に限られます。所得金額が2,400万円を超える場合は、超える金額が50万円ごとに段階的に基礎控除額が引き下げられています。2,500万円を超える所得がある場合は、基礎控除額が0円となり控除が適用されません。住民税についても同様に、段階的に控除額が変更になっています。
税制改正で基礎控除以外の控除も見直しに…
そもそも税制改正は、社会の経済状況や家計調査などに応じて、税負担が過度とならないよう毎年見直しが行われています。税制改正により、基礎控除以外に見直された所得控除の変更点について解説します。
給与所得控除が引き下げとなった
給与所得控除とは、会社員などの給料や賃金、賞与などがある給与所得者に対して適用される所得控除のことです。個人事業主のように会社員には必要経費が認められていませんが、給与を得るためには散髪などの美容代、通勤のための被服費など何らかの経費がかかっているものです。給与所得控除は、それらの必要経費のような意味合いを持つ控除です。
2020年の税制改正では、それまでの給与所得控除額の65万円から55万円へ、10万円引き下げられました。さらに、下図のとおり、給与所得控除額の上限も220万円から195万円に引き下げられ、上限が適用される給与収入も1,000万円超から850万円超に変更になっています。一見すると増税のように感じられるかもしれませんが、子育て世帯や介護世帯などには負担が増えないような配慮がされています。そのからくりは以下で説明します。
所得金額調整控除が新たに設けられた
税制改正により、前述の給与所得控除の引き下げに伴い、新たに「所得金額調整控除」が設けられました。所得金額調整控除とは、一定の要件を満たす場合に、給与所得から一定の金額を控除できる仕組みのことです。給与等の収入が850万円を超えた場合でも、納税者本人が特別障害者、23歳未満の扶養親族がいる、同一生計の配偶者や扶養親族に特別障害者がいるなどの場合に所得金額調整控除が適用されます。
給与等の収入金額が1,000万円以下の場合は、「(給与等の収入金額-850万円)×10%」が所得金額調整控除額となり、給与所得から控除されます。給与等の収入金額が1,000万円を超える場合は、「(1,000万円-850万円)×10%」が給与所得から控除されます。つまり、前述の子育て世帯や介護世帯に対する軽減措置となるわけです。
青色申告特別控除の65万円控除の要件が見直しになった
個人事業主やフリーランス、会社員で確定申告を行う必要がある人は、青色申告をすることで「青色申告特別控除」が適用されます。「青色申告」とは、取引の都度決められた書式(複式簿記)で記帳して税額計算を行い、確定申告する方法です。
青色申告に対して白色申告がありますが、白色申告は青色申告よりも簡易的な方法で記帳します。つまり、青色申告は手間暇がかかる分、税法上の特典が受けられるわけです。その一つに「青色申告特別控除」があります。2019年分の申告までは、控除額が65万円だったのに対し、2020年分からは55万円に引き下げられています。
ただし、e-Tax(国税電子申告・納税システム)を利用して申告するか、必要帳簿を電子データで保存していれば、従来どおり65万円の控除を受けることが可能です。青色申告を行うには、事前に納税地を管轄する税務署長へ青色申告の承認申請書の届け出が必要です。
2021年度から住宅ローン控除の期間や要件が変わる
従来の住宅ローン控除は最長10年間の適用に限られていましたが、2021年の年末までに住宅ローンを組めば、住宅ローン控除の適用期間が13年間となる特例措置が延長されるため、減税効果が大きくかなりの節税になります。
また、以前よりも住宅ローン控除対象となる住宅の要件が緩和され、今までの床面積50平方メートル以上の規定が、床面積が40平方メートル以上50平方メートル未満の住宅についても適用となりました。その場合は、所得1,000万円以下の場合に限定されます。
2020年の税制改正で減税になる人・増税になる人
2020年の税制改正では、控除額が増えて減税になる人がいる一方で、高額所得者の控除額が引き下げられていて増税となっています。減税と増税の分岐点はどの程度の金額なのか、気になる人は多いのではないでしょうか。次に、増税、減税が決まる要件について説明します。
減税になる人
個人事業主、自営業、フリーランスなどで課税所得が2,400万円以下の人は、基礎控除が10万円引き上げられたため減税となります。e-Taxで青色申告したり、手書きから電子帳簿保存に切り替えたりした人も、青色申告控除の65万円が適用されるため減税が可能です。
増税になる人
給与所得者のうち所得金額が850万円を超え、所得金額調整控除の要件に当てはまらない、独身や扶養する23歳未満の子どものいない人は増税となります。仮に、年収1,000万円の給与所得者は、基礎控除が10万円引き上げられても、給与所得控除が25万円引き下げられることになります。つまり、控除できる金額が15万円少なくなり、課税対象額が15万円増えるため、以前と比べれば増税になるのです。
税制改正の影響を受けない人
給与所得者のうち所得金額が850万円以下の場合は、基礎控除が10万円引き上げられましたが、給与所得控除が10万円引き下げられました。10万円分が相互に相殺されるため、実質的に減税にも増税にもなりません。青色申告を行う人で、e-Taxを利用せず、電子帳簿保存もせず、手書きで記帳している場合も増税にも減税にもなりません。
まとめ
所得税の基礎控除は、納税者本人の合計所得金額が2,400万円以下の場合に限り、無条件で48万円の控除が可能です。2020年以降は基礎控除が10万円引き上げられた一方で、合計所得金額が2,400万円を超える場合は、段階的に引き下げられています。
今回の税制改正では、子育て世帯や介護世帯にとっては所得税の負担軽減となる減税措置が講じられ、個人事業主やフリーランスも減税となりました。850万円を超える給与所得者の独身者や子どもが独立した世帯などが増税となっています。
昨今の社会経済は厳しい局面にあるといわざるを得ません。税金の仕組みについてよく知り、節税対策や将来への備えが重要といえるでしょう。