親から子どもに贈与をすると、金額に応じて贈与税がかかることがあります。しかし、さまざまな制度を利用することで、税金の負担を減らすことが可能です。また、非課税で生前贈与を行うと将来の相続財産を減らすことができるため、相続税の節税効果も期待できます。
今回は、親から子どもへ贈与をした場合の贈与税について、詳しく解説します。
子どもに対する贈与はすべて贈与税がかかる?
親から子どもへの贈与では、贈与税がかかるものとかからないものがあります。また、通常は贈与税がかかる場合でも、特別な制度を利用することで贈与税がかからなくなる場合もあります。それでは、子どもに対する贈与について詳しく見ていきましょう。
日常の生活費や教育費には贈与税がかからない
親や祖父母などの「民法上の扶養義務者」は、子どもを扶養する義務があります。「日常の生活費」や「教育費(学費や教材費、文具費など)」は子どもを扶養するために必要な費用とみなされることから、贈与税はかかりません。たとえば、子どもへの仕送りや教育費の支払いなどは非課税になります。
また、非課税となる生活費や教育費には上限はありません。数百万円という大きな金額であっても、毎日の生活や学業で必要なものであれば、贈与税はかからず非課税となります。非課税になる場合は、贈与税の申告手続きも基本的には必要ありません。
ただし、親から受け取った金額を生活費や教育費などの目的に使わず、資産運用などをに使た場合は課税対象となりますので注意しましょう。
年間110万円以下なら贈与税はかからない
生前贈与では110万円の基礎控除がもうけられているため、年間110万円以下の贈与であれば、贈与税がかかりません。これを暦年課税といいます。
暦年贈与では、1人の子どもに対して、1月1日から12月31日までの1年間に贈与した金額が110万円以下であれば非課税となります。生活費や教育費はもともと非課税なので、それ以外の贈与が年間110万円までであれば贈与税はかかりません。また、110万円以下の暦年贈与であれば、申告も不要となっています。
ただし、毎年110万円以下を贈与していた場合でも、相続が発生したときに生前贈与が認められないことがあります。
このようなトラブルを防ぐには、贈与契約書を作成したり、手渡しではなく振り込みを利用したりして、贈与があったことをきちんと記録に残すことが大切です。
また、贈与者である親が死亡した時点からさかのぼって3年以内の生前贈与は、なかったとみなされて、相続財産として取り扱われることとなっています。生前贈与を考えている場合は、できるだけ早く行ったほうがよいでしょう。
暦年課税制度以外で贈与税を非課税にできるケース
暦年課税制度を活用すると年間110万円までの贈与が非課税となりますが、それ以外にも贈与税を非課税にできる制度があります。これらの制度を活用すると、大きな金額の資産であっても、贈与税なしで譲ることが可能です。それでは、二つの制度について詳しく見ていきましょう。
相続時精算課税制度による贈与
相続時精算課税制度を利用すると、最大2,500万円までの生前贈与が非課税となります。この制度の対象となるのは、贈与者が60歳以上の父母や祖父母、受贈者は20歳以上の推定相続人または孫です。
この制度を利用すると、子どもや孫がお金を必要とするタイミングに合わせて、「高校進学時に300万円」「大学進学時に500万円」というように、最大2,500万円までは何度でも贈与することができます。
ただし、税金がゼロになるわけではありません。将来相続が発生したときには、受け取った贈与財産が相続財産に加算されて相続税が再計算されます。そして、再計算された額に基づいて、相続税を納めるという仕組みになっています。
つまり、将来相続する予定の財産を、相続の発生を待たずに早めに受け取れ、税金の支払いは相続時まで先送りできる制度ということができます。
ただし、いったん相続時精算課税制度を利用すると、同じ贈与者からの贈与では、暦年課税制度が利用できなくなりますので注意してください。
教育資金の一括贈与
「教育資金の一括贈与の非課税措置」を利用すると、教育資金として子や孫に一括贈与をした場合に贈与税が非課税となります。
これは、父母や祖父母などの直系尊属が子や孫に教育資金を贈与した場合、1,500万円までが非課税となる制度です。受贈者の対象は30歳未満の子や孫で、前年の合計所得が1,000万円までの人となっています。
非課税となる贈与額は、1人につき1,500万円までです。ただし、学校等以外の者に支払われる費用については、500万円までとなっています。1,500万円受け取った場合でも塾や習い事には500万円までしか支出することができないため、注意が必要です。
「教育費」の範囲は、学校の入学金や授業料、入園料、保育料、入学試験の検定料、学用品費や修学旅行費、給食費などとなっています。また、海外の学校や、日本にあるインターナショナルスクールに対象となるものもあります。
教育資金の一括贈与については、以下の記事も参考にしてください。
関連記事:教育資金の一括贈与が1,500万円まで非課税に。改定内容まとめ
結婚・子育て資金の一括贈与
「父母などから結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度」では、前年の合計所得が1,000万円以下で20歳以上50歳未満の子や孫に対して、結婚や子育て資金の贈与が行われた場合に、一定額が非課税となります。
子育てに関する資金は最大1,000万円までが非課税です。子育て費用として認められるものとしては、不妊治療や妊婦健診に要する費用、分娩費や産後ケアに要する費用が挙げられます。また、未就学児の医療費や幼稚園・保育所等の保育料も対象です。
結婚費用に関する支出では、1,000万円のうち300万円までが非課税となります。対象となるのは、挙式費用や衣装代等の婚礼費用、家賃や敷金などの新居費用、転居費用などです。
この制度は2021年3月31日までに贈与を受けることが条件となっています。また、教育資金の一括贈与と同じように、金融機関に専用の口座を開設することが必要です。
住宅取得等資金の贈与
直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合も、条件を満たしていれば一定額が非課税となります。
この制度の受贈者の条件は「20歳以上の子や孫」で、「贈与を受けた年の合計所得が2,000万円以下の人」です。
取得する住宅についても要件があり、「登記簿上の床面積が50平方メートル以上240平方メートル以下の住宅で、かつ床面積の2分の1が居住用であること」と定められています。
マンションの場合は共用部分は含まず、専有部分の床面積で判断します。また、新築の物件だけでなく、条件を満たした中古物件にも適用できます。
非課税額は最大で1,500万円となっており、省エネ等基準を満たした「省エネ等住宅」の場合のほうが、非課税額が大きくなります。
住宅取得等資金贈与の非課税枠については、以下の記事も参考にしてください。
関連記事:住宅資金贈与は相続税対策になる! 非課税枠で節税しよう!
子どもへの贈与で贈与税がかかるケースとは?
親から子への贈与では、いろいろな方法を活用して非課税にすることができますが、贈与税がかかってしまうケースもあります。ここでは、子どもへの贈与で贈与税がかかる場合について、詳しく説明します。
親が保険料を負担した場合
子ども名義の生命保険や損害保険で、子ども本人が保険料を支払っている場合は、満期保険金や解約返戻金に対して贈与税はかかりません。このような場合は、保険金を受け取った本人が「所得税」を支払います。
しかし、子どもではなく親が保険料を支払っていた場合は、「保険料を支払っていた人から、子どもに生前贈与があった」とみなされ、贈与税がかかるので注意が必要です。
ただし、ケガや病気などに対して支払われた保険金は非課税となり、贈与税はかかりませんので安心してください。
親が借金の肩代わりをした場合
親が子どもの借金の肩代わりをした場合、「贈与があった」とみなされ、贈与税がかかるケースがあります。
特に住宅ローンは滞納すると立ち退きをしなければならなくなるため、親が返済の援助をするというケースも多くあります。しかし、返済を立て替えた額が年間で110万円を超えた場合、「贈与があった」とみなされることがあるので注意が必要です。
借金を肩代わりする場合は、金銭貸し付けの契約書をきちんと作成して「お金を貸した」という形にしましょう。そうすると贈与とみなされず、贈与税がかかることもありません。
ただ、親が子にお金を貸していて「もう返済しなくてよい」と債務免除をした場合は、贈与とみなされる場合があるので注意してください。
相場よりも安い価額で譲渡を受けた場合
親から子へ、相場よりも安い価格で財産を譲渡したときも、贈与税の対象となることがあります。たとえば、市場価格が200万円相当の車を子どもに50万円で譲った場合、「差額の150万円が贈与された」とみなされて課税されることがあるので、注意が必要です。
また、親が会社経営で株を保有していて、株を割安な価格で子どもに譲渡した場合や、高価な宝飾品を安価で譲った場合なども、贈与税がかかることがあります。
親子間でこのような譲渡が行われることもありますが、市場価格と大きく離れた価格で譲渡をすると、贈与税の対象になるということを覚えておきましょう。
まとめ
親から子への贈与であっても、生活費や教育費以外は贈与税の対象となる場合があります。
贈与をするときには、年間110万円までの非課税枠を利用したり、さまざまな制度を活用したりして、贈与税がかからないように工夫することが大切です。
贈与を活用すると将来の相続財産を減らすことができますし、子どもがお金を必要としているときに、援助をすることができます。贈与税がかからない贈与をぜひ検討してみてください。