できるものなら、快速や急行が停車、複数の路線を利用できるターミナル駅で、駅周辺に大型商業施設などがそろっている便利な場所に住みたいものですが、そんな場所は不動産の値段も高く、限られた予算では、狭い住まいになります。そこで、その便利さを享受できる隣駅に目を向けてみてはどうでしょうか。
コロナ禍で人気の駅にも大きな変化が
コロナ禍で、住まい探しはどう変化したのでしょうか。
株式会社リクルート住まいカンパニーでは、首都圏の駅を対象に、コロナ禍前の2019年1月~9月と、コロナ禍後の2020年1月~9月で、賃貸物件の閲覧数を駅ごとに集計、どの駅の物件が数多く閲覧されたのかをランキング化しました。そのうえで、2019年と2020年を比較してランクアップした駅をピックアップ、ランクアップ数で順位付けをしたところ、図表1のような結果になりました。
最も大きくランクアップして1位になったのは東京メトロ有楽町線などの和光市駅で、2位はJR南武線などの立川駅でした。どちらも複数路線が乗り入れるターミナル駅で、近年、再開発によって駅周辺の利便性が著しく高まっている駅という点で共通しています。
コロナ禍によって、郊外の快速・急行停車駅で、ターミナル駅が注目されているわけですが、それだけではありません。意外な変化もあります。
それが、快速・急行停車駅の隣駅の人気の高まりです。
隣接駅なら20坪換算で2,000万円以上安くなる
図表1のランキングで見ると、4位の東急東横線代官山駅は、渋谷駅の隣駅ですし、11位の東急目黒線の不動前駅も目黒駅の隣駅、14位の西武池袋線の椎名町駅も池袋駅の隣駅で、16位の東急田園都市線の池尻大橋駅もやはり渋谷駅の隣駅です。
そこで、まずは隣駅の不動産がどれくらい安くなるのかを見てみましょう。
たとえば、東急田園都市線に着目すると、民間調査機関の株式会社東京カンテイの調査では、駅別の中古マンション3.3平方メートル当たりの坪単価は、図表2のようになっています。
図表1のランキングで16位にランクインした池尻大橋駅は319万円で、隣駅の渋谷駅の438万円より119万円も安くなっています。20坪、66平方メートル換算では渋谷駅だと8,760万円の中古マンションが、池尻大橋駅であれば6,380万円にダウンします。なんと2,380万円も安く手に入る計算です。
商業施設などがそろった隣駅の利便性を活用できる
東急田園都市線の別の急行停車駅である二子玉川駅の坪単価は330万円で、20坪換算では6,600万円ですが、その隣駅である用賀駅(各駅停車駅)なら坪単価251万円なので、20坪だと5,020万円にダウンします。
同じ東急沿線では、東急目黒線の不動前駅も目黒駅の隣駅で、先のランキングでは11位にランクインしています。
図表3にあるように、不動前駅の中古マンションの3.3平方メートル当たりの坪単価は339万円です。隣駅で、ターミナル駅の目黒駅の350万円に比べて11万円安くなっています。20坪、66平方メートル換算では220万円の差ですから、決して小さな差ではありません。
それでいて、商業施設などが充実した目黒駅の利便性を利用できます。帰宅時に目黒駅周辺で買い物できますし、休日などには桜の名所でもある目黒川沿いの散歩がてら、目黒駅まで歩いてショッピングやレジャーなどを楽しむこともできます。
一つ手前の駅なら2,000万円以上安くなる
しかし、隣駅が安いといっても、坪300万円台では簡単には手が届かないという人が多いかもしれません。
そこで、再び図表3の東急目黒線の坪単価を見ると、武蔵小杉駅が大きな山になっていることがわかります。
武蔵小杉駅は東急目黒線の急行停車駅である同時に、東急東横線の特急や急行停車駅であり、JR横須賀線や南武線も乗り入れています。駅周辺には、大規模な商業施設がそろい、今や首都圏でも有数のターミナル駅の一つです。
そのため、中古マンションの坪単価は297万円まで上がっています。20坪、66平方メートルでは5,940万円と6,000万円近くに達します。
しかし、その一つ手前の新丸子駅は坪単価192万円です。20坪、66平方メートル換算でも3,840万円ですから、武蔵小杉駅より2,000万円以上安くなる計算です。
広いすまいを買ってワークスペースを確保できる
これだけの差があるのですから、ひと回り広い住まいを手に入れることができます。
たとえば、新丸子駅の坪単価192万円だと30坪、99平方メートルの中古マンションでも、価格は5,760万円。武蔵小杉駅の20坪、66平方メートルの5,940万円より180万円安く手に入ります。
10坪、33平方メートルの差は、1畳を1.62平方メートルとすればおよそ20畳分です。広いリビングを確保したうえで、ワークスペースとして一部屋取ることが可能でしょうし、共働き夫婦であれば、それぞれにスペースを確保することができるかもしれません。
新型コロナウイルス感染症拡大が収束して、通勤が復活したときには、書斎や趣味の部屋などにすれば、生活が充実します。
ターミナル駅の利便性を日常使いできるメリット
もう一つ、西武池袋線の例を見てみましょう。
先のランキング(図表1)で14位に挙がっている椎名町駅は、西武池袋線の始発駅である池袋駅の隣駅です。やはり株式会社東京カンテイの調査から、西武池袋線各駅の中古マンションの、3.3平方メートル当たりの坪単価を見ると図表4のようになっています。
池袋駅の坪単価269万円に対して、椎名町駅は249万円です。20万円の差ですが、20坪、66平方メートルに換算すると、池袋駅は5,380万円で、椎名町駅は4,980万円と400万円の差になります。池袋駅と同じ予算を出せるのなら、5平方メートルほど広い住まいが手に入ります。
しかも椎名町駅に降りたことがある人ならご存じでしょうが、駅周辺の雰囲気は池袋駅とはまったく異なります。池袋駅の隣駅とは思えないような静かさで、落ち着いた雰囲気があります。その分、大規模商業施設などはないのですが、池袋駅は十分徒歩圏ですから、池袋の利便性を日常使いできます。
隣駅なら同じ広さでも600万円安くなる
坪単価249万円台では高すぎるというのであれば、少し郊外に目を向けてみましょう。
西武池袋線の池袋駅から次の快速停車駅は練馬駅で、株式会社東京カンテイの調査では、坪単価220万円です。しかし、その手前の桜台駅は190万円で、二つ手前の江古田駅は181万円と200万円を切ります。
練馬駅で20坪、66平方メートルの中古マンションを求めると4,400万円に対して、桜台駅なら3,800万円です。4,400万円の予算があれば、桜台では約23.1坪、76.4平方メートルの住まいが手に入ります。10.4平方メートルほど広くなり、畳数に換算すると6畳強の部屋を一部屋増やすことができます。
コロナ禍の時代、在宅勤務が増えていますから、ワークスペースにすれば、仕事に集中できそうです。
隣駅なら“密”を避けやすい安心感もある
急行・快速が停車するターミナル駅だと生活は便利ですが、駅周辺はいつも混雑していますし、コロナ禍が続くなかでは何かと不安が多いのではないでしょうか。
それに比べると、急行・快速が停車しない隣駅であれば、それほどの混雑はなく、比較的閑静な住宅地が多いはずです。コロナ禍で最も懸念されるさまざまなシーンでの“密”を避けることができる安心感があります。
駅周辺などにはそれほどのお店はないでしょうから、多少不便ではありますが、逆にいえば、お店の人たちやお客同士のコミュニケーションが取りやすいというメリットがあります。新型コロナウイルス感染症の影響が続いている間は、地域の交流もさほど進められないかもしれませんが、コロナ禍もいつまでも続くものではないでしょう。
その意味では、急行・快速停車駅の隣駅は、コロナ禍での安心があると同時に、ポストコロナでも住みやすい街になるのではないでしょうか。誰もが住みたがる駅ではなく、その隣に目を向ければ、意外な発見があるかもしれません。