大学や専門学校などの学費を賄うために、奨学金の利用を検討している人も多いのではないでしょうか。奨学金にはさまざまな種類があります。仕組みや申込方法などが異なるため、事前にどのような奨学金があるのかを調べ、自分に合ったものを選ぶことが大切です。今回は、奨学金制度についての仕組みや種類などを解説します。
奨学金制度とは?種類や仕組みなどを解説
まずは奨学金制度の概要を把握しておきましょう。奨学金は学びたい学生を助ける制度です。必要なときに慌てることのないよう、奨学金制度と教育ローンの違いについても事前に押さえておく必要があります。
奨学金制度とは?
奨学金制度とは、経済的な理由により大学や専門学校などへの進学が困難な学生に、国や自治体あるいは民間が進学費用を給付・貸与する制度です。
奨学金制度が始まったのは1943(昭和18)年のことになります。戦時中、学生の学費負担が増大していたことや小学校教員の待遇が悪かったことなどが問題視され、国家的な育英制度として「大日本育英会」が設立されました。現在の日本学生支援機構(JASSO)の前身です。
日本学生支援機構は文部科学省所管の独立行政法人で、奨学金制度の主体でもあり、最も多くの学生に利用されています。そのほかにも地方自治体・民間団体・大学などが独自に提供している奨学金制度があり、複数を併用することも可能です。
同じく教育を目的とした支援制度に「教育ローン」があります。奨学金と教育ローンとでは、借り主(契約者)と返済開始の時期が異なることに注意してください。奨学金は学生本人が契約し、卒業後に本人が返済していきます。一方の教育ローンは親が契約し、直後から返済が始まります。
教育ローンにも国が運営するものや民間の金融機関によるものがありますので、いろいろ調べてみるとよいでしょう。
奨学金の種類や仕組み
奨学金には、主に「貸与型」と「給付型」の2種類があります。貸与型は卒業後に返済しなくてはなりませんが、給付型には返済義務はありません。また、進学時だけでなく在学中の申し込みも可能です。ただし、いずれも学力や家計などを基準とした審査があることに注意してください。
貸与型奨学金は提供している団体が多く、採用される人数も多めです。お金を借りる際には基本的に利息が発生しますが、貸与型奨学金には無利子のものもあります。
ただし、利子付きの奨学金よりも審査は厳しくなります。返済しなくてもよい給付型奨学金はさらに受給条件が厳しく、採用される人数は貸与型に比べるとぐっと少なくなります。
奨学金で受け取れる金額や使い途は?
奨学金の仕組みや金額は、提供する団体によって異なります。たとえば、最も利用者の多い日本学生支援機構の奨学金でも、進学先、世帯年収、自宅から通うのか1人暮らしなのかによって金額が細かく分かれています。
なお、使いみちには制限がなく、授業料や教科書代などのほか1人暮らしの家賃や生活費にあてることも可能とされています。
ただし、奨学金がいつ受け取れるのかは必ず確認してください。振り込み開始時期が入学後であれば、入学金は別途準備しなくてはなりません。入学金の支払いが困難な場合は、各都道府県の社会福祉協議会による「生活福祉資金貸付制度(教育支援資金)」や労働金庫の「入学時必要資金融資」、日本政策金融公庫の「国の教育ローン」などを利用するのがよいでしょう。
申し込みにはそれぞれ条件があり、手続きにもある程度の日数がかかるため、早めに検討することをおすすめします。
日本学生支援機構(JASSO)の奨学金の種類
日本学生支援機構(JASSO)の奨学金は、日本国内で学ぶ学生のほか、海外に留学する学生も利用することができます。ここでは国内進学向け・海外留学向けの奨学金の種類について解説します。
国内の大学や専門学校などへ進学する場合
国内の大学院・大学・短期大学・高等専門学校・専修学校(専門課程)に進学・在学する学生は、返済を前提とした「第一種」または「第二種」の奨学金を利用できます。第一種は無利子で借りられる奨学金で、特に学業に優れ、かつ経済的理由により修学が困難な人を対象としています。
第二種は年3%を上限とする利子付きの奨学金ですが、第一種よりも選考基準は緩めです。なお、在学中は無利子で借りられます。
また、一時金として「入学時特別増額」を申し込むことも可能です。入学時特別増額とは、第一種あるいは第二種の奨学金に加えて入学した月のみ増額して借りられる利子付きの奨学金です。ただし、入学前には受け取れないので、入学金を賄うことはできません。
また、対象者が日本政策金融公庫の「国の教育ローン」に申し込み、低所得であることなどを理由に教育ローンを利用できなかった世帯の学生に限定されていることに注意してください。
海外の大学などへ留学する場合
海外留学のための奨学金には、国内での進学と同じく無利子の「第一種」と利子付きの「第二種」があります。留学の目的や期間などに応じて、次のように利用できる制度が異なることに注意してください。
・第二種奨学金(海外):海外の大学や大学院で学位を取得したい人
・第二種奨学金(短期留学):海外の大学や大学院へ3ヶ月以上1年以内の短期留学を希望する人
・第一種奨学金(海外協定派遣対象):海外留学支援制度(協定派遣)に採用された人で、支援を受けても修学困難な場合
・第一種奨学金(海外大学院学位取得型対象):海外留学支援制度(大学院学位取得型)に採用された人で、支援を受けても修学困難な場合
第二種奨学金(海外)では、留学前に申し込みを行う「予約採用」、留学後に申し込む「在学採用」が利用できます。そのほかの海外留学向け奨学金では、留学時の一時金として利子付きの「特別増額貸与奨学金」も利用可能です。
日本学生支援機構以外の奨学金の種類
日本学生支援機構以外にも、自治体や民間団体などで奨学金制度を設けています。条件的に自分に合うものを利用してみてはいかがでしょうか。ここからは、具体的にどのような奨学金制度があるのかを紹介します。
地方自治体が実施している奨学金制度
都道府県や各市町村で独自の奨学金制度を設けていることがあります。たとえば、東京都では公益財団法人である「東京都私学財団」が、都内在住の高等学校・高等専門学校・専修学校(高等課程・専門課程)に通う学生に対して無利子の貸与型奨学金を提供しています。また、大阪市には、市民税非課税世帯の高校生や高等専門学校生などへの奨学金支給制度があります。
貸与型か給付型かといった奨学金の種類や選考基準などは、各自治体で異なります。ただし、すべての自治体に奨学金制度があるわけではありません。まずは自分の住む自治体に奨学金制度があるかどうかを確認してみてください。
民間育英団体の奨学金制度
民間企業や個人が設立した奨学金制度もあります。たとえば、「あしなが育英会」では親が病気や事故などで亡くなったり重い障害を負ったりしたために進学をあきらめようとしている子どもを支援している団体です。また、交通事故の被害家庭を対象とした「交通遺児育英会」などもあります。
そのほかにも、日本たばこ産業株式会社(ジェイティ財団)、株式会社電通(電通育英会)、日本コカ・コーラ株式会社(コカ・コーラ教育・環境財団)など多くの企業が奨学金制度を設けています。
対象者や応募条件、奨学金の額などは団体によってさまざまです。返済義務のない給付型奨学金を提供する団体もありますし、貸与型でも条件によっては返済免除としている団体もあります。自分が利用できそうな奨学金制度がないか、いろいろ調べてみるとよいでしょう。
大学独自の奨学金制度
私立大学や私立高校では、学校独自の奨学金制度を設けていることも珍しくありません。多くは成績優秀者を対象に学費の免除・減免という形で行われていますが、クラブ活動で優秀な結果を残した学生を対象とした特待生制度もあります。
そのほか、兄弟姉妹が同時に在籍する際の学費減免や1人暮らしをする学生へのサポート制度など、学校によってさまざまな取り組みを行っています。自分が通っている学校にはどのような奨学金制度があるのか、チェックしてみてください。
新聞奨学金
新聞奨学金は、新聞社が学費の一部もしくは全額の貸与・給付を行う奨学金制度です。奨学金を受ける学生は新聞奨学会に加入し、系列の販売店で新聞配達やチラシ折込などの業務を行います。つまり、大手新聞社から学費を借り、働くことによって返済していくという仕組みです。一方で販売店とは雇用関係が発生するため、給与やボーナスが支給されます。
住居や食事が提供されることもあるので、経済的に困っている人にとってはうれしい制度ともいえます。
ただし、働きながら学ぶのは大変なことです。もし途中で挫折して奨学会を退会すれば、残った期間の奨学金を一括返済しなくてはなりません。新聞奨学金を利用するには強い意志と忍耐力が必要とされることを覚えておいてください。
大学院の奨学金には返還免除制度や返還支援制度もある
日本学生支援機構では、第一種奨学金を受けた大学院生を対象とした奨学金の返済免除制度を設けています。制度が受けられるのは、特に優れた業績を挙げたと認められた学生です。学問のほか、文化・芸術・スポーツ分野での活躍やボランティア活動なども評価の対象となります。
返済免除を受けるには、大学への申請および大学長の推薦が必要です。さらに、日本学生支援機構の認定委員会の審議を経て、免除の可否が決定されます。
また、定住や就業などを条件とした独自の返還支援制度を行っている地方自治体や民間団体もあるので、チェックしてみましょう。条件に合えば学費の心配をすることなく学業に打ち込めます。奨学金を申し込む前にいろいろ調べてみることが大切です。
2020年4月からは高等教育の修学支援新制度もスタート
国の機関である日本学生支援機構では、長らく貸与型の奨学金制度を行っていましたが、2017年度に返済義務のない給付型奨学金を創設しました。さらに、2020年4月からは「高等教育の修学支援新制度」として、給付型奨学金の受給対象者の枠が拡充されています。
これまでの給付型奨学金を申し込めるのは、生活保護世帯や住民税非課税世帯であることに加え、優秀な成績を納めている学生に限られていました。
新たな制度では世帯収入や成績に関する選考基準が緩やかになっています。給付額も増額されたうえ、入学金・授業料の減免も受けられることになりました。詳しくは文部科学省のWebサイトをチェックしてみてください。
まとめ
学生の「学びたい」という気持ちを支援するために、国や地方公共団体、民間団体などがさまざまな奨学金や支援を提供しています。奨学金の多くは返済不要な給付型と返済義務のある貸与型に大別されますが、授業料の全額あるいは一部免除などの形で支援を受けられることもあります。
奨学金の利用には選考条件や申し込み期限があるため、どのような奨学金制度があるのかをあらかじめ知っておくことが大切です。返済義務のある奨学金を利用する場合には、返済できるかどうかも考えなくてはなりません。じっくりと調べて、自分に合った奨学金や支援制度を選ぶようにしてください。