「家計の金融行動に関する世論調査」(2020年)の調査結果から、老後の生活に不安を感じている人が多いことが明らかになりました。
どのようなことに不安を感じているのか、ゆとりある老後の生活のためにどうすべきかを知ることで、将来に向けた長期の生活設計や貯蓄計画が立てやすくなります。
今回は、二人以上世帯のデータをもとに、老後の生活と年金について解説しますので参考にしてください。
老後の生活に不安を感じている世帯は全体の8割近く
調査結果によると、老後の生活に何らかの不安を感じている世帯は、全体の8割近くにのぼっています。それでは、どういったところに不安を感じているのでしょうか。詳しく解説していきます。
老後の生活を心配している世帯は多い
日本では女性の平均寿命が87.45歳、男性が81.41歳となっており、老後のスタートといわれる65歳から数えると、約20年間の老後を過ごす計算になります。
「家計の金融行動に関する世論調査」(2020年)では、「老後の生活が心配かどうか」という問いに対して、以下のような回答となっています。
このように、「非常に心配である」と「多少心配である」と感じている人は78%にのぼっています。前年度よりは多少減少しているものの、老後への不安を心配している世帯が多いことがわかります。
それでは、老後の生活について、どのようなところに不安に感じているのでしょうか。
老後の生活で具体的に心配なこと
老後の生活が心配な理由は以下のようになっており、金銭的な不安が大部分を占めています。
特に、「年金や保険が十分ではないから」「十分な金融資産がないから」と感じる人が多く、老後のためのお金を十分に用意できていない人が多いということがうかがえます。
年金支給額は掛け金などに応じて決定されるため、受給額が急に増えるといったような急激な変化は望めません。
ただし、「金融資産」は、努力と工夫次第でコツコツと増やしていくことが可能です。老後への不安をできるだけ減らすためには、早い時期から計画的に老後に向けて資産をつくることが効果的です。
多くの人は、「老後を健康に楽しく、余裕をもって過ごしたい」という希望を持っています。その希望を実現させるためにも、計画的にお金を貯めていきましょう。
年金だけではゆとりのある生活は難しい?
年金は老後の生活を送るうえで必要不可欠なものですが、年金だけでゆとりある生活ができるのでしょうか。それとも、生活はかなり厳しいのでしょうか。ここでは、年金に対する考え方について解説します。
二人以上世帯の年金に対する考え方
二人以上世帯の年金に対する考え方の調査では、「日常生活費程度もまかなうのが難しい」は44.1%、「ゆとりはないが、日常生活費程度はまかなえる」という人が49.3%となっています。
逆に「年金でさほど不自由なく暮らせる」と回答した人は5.4%で、ごく少数にとどまっています。
この結果から「年金だけでゆとりをもって、安心して暮らしていける」と感じる人は約1割以下で、ほとんどいないと判断することができます。
近年「老後2,000万円問題」が大きく報道されましたが、これは「年金だけでは毎月50,000円ほど足りず、それが30年続くと約2,000万円になる」という政府機関の試算から来ています。
このように、政府が「年金だけでは足りない」と考え、実際に多くの人も「年金だけで老後を過ごすのは厳しい」と感じています。このようなことから、老後の生活資金について、より真剣に考えるべき時期に来ていると考えることができます。
老後の収入源はどうなる?
老後における収入源は年金だけではありません。調査による収入源の内訳は「公的年金」が80.8%(前年度より上昇)、「就業による収入」が49.8%(前年より上昇)、「企業年金、個人年金、保険金」が40.5%(前年より上昇)「金融資産の取り崩し」が29.5%(前年より上昇)となっており、どれも前年のよりも割合が増えています。
一方で、「不動産収入(家賃、地代等)」が4.6%、「こどもなどからの援助」は2.4%となっており、前年よりも減少しています。
また、老後の収入源では公的年金が大部分を占めていますが、「就業による収入」も約5割と大きいことも特徴です。
2021年4月からは、「70歳就業法」(高年齢者雇用安定法の改正)が施行されます。企業は労働者を70歳まで雇用する努力義務が発生するため、70歳まで働きやすい環境が整えられ「就業による収入」が今後も増えていくと考えることができます。
出典:「家計の金融行動に関する世論調査」〔二人以上世帯調査〕(2020年)|金融広報中央委員会
老後の生活費はいくら必要?
年金だけでは老後の生活は不十分とされていますが、老後の生活費はいったいどれくらいかかるのでしょうか。必要な生活費がわかると、どれくらいのお金が必要かも把握しやすくなります。それでは、老後にかかる平均的な生活費について、詳しく解説していきます。
世帯主が65歳以上の老後の生活費
総務省の統計結果によると、世帯主が65歳以上の二人以上世帯の1ヶ月の支出は以下のようになっており、まとまった生活費が必要となっています。
家計収支の内訳は、「食料」が27.7%、「交通・通信」が11.8%、「教養娯楽」が10.3%、「交際費」が10.7%、「光熱・水道」が8.3%、「保険医療」が6.6%、「住居」が5.7%などとなっています。娯楽費や交際費が約10%と比較的高いことが特徴です。
老後の生活費が足りなくなると、娯楽費や交際費など「楽しみの部分」から減らさなければならなくなります。老後の生活を充実させるためにも、早い時期から老後資金を確保しておくようにしましょう。
出典:家計調査報告 [家計収支編] 2019年(令和元年)平均結果の概要|総務省統計局
老後に受け取れる年金はどのくらい?
老後の収入源で一番大きな割合を占めるのが「年金」ですが、受け取れる年金はどのくらいなのでしょうか。
国民年金のみの場合は、平均受給額は5万6,000円、満額でも約6万6,000円となっています。厚生年金の場合は、男性が約16万6,000円、女性は約10万3,000円となっており、平均は約14万6,000円です。
夫婦で厚生年金に加入していた場合は、受給額は合計で26万9,000円となることから、年金である程度生活費を賄えると判断することができます。
ただ、夫婦二人とも国民年金のみの場合、もしくはどちらかが国民年金の場合は、年金受給だけでは足りない可能性が高くなっています。
老後の生活費について考えるときには、自分がどの年金に加入しているか、どれくらいの額を受け取れるのかということもしっかりと把握しておくようにしましょう。
出典:平成30年度厚生年金保険・国民年金事業の概況|厚生労働省年金局
老後の生活費を確保するには?
不安のない老後を送るためには、公的年金以外の収入源を確保しておくことが大切です。公的年金は一番大きな老後の収入源ですが、それ以外の収入源を作る効果的な方法として、「個人年金」や「iDeCo」、「小規模企業共済」が挙げられます。
個人年金は、契約時に設定した期間(保険料払込期間)に保険料を払い込むことで、「5年」「10年」など、一定期間年金を受け取れる貯蓄型保険です。この個人年金に加入しておくと、年金で足りない部分を補うことができます。
iDeCoは個人型年金制度とも呼ばれており、自分で掛け金を拠出して運用しながら老後資金を貯める方法です。60歳になるまで掛け金を拠出し、60歳以降に老齢給付金として運用資金を受け取ることができます。
小規模企業共済は、自営業者もしくは経営者のための退職金制度で、廃業や退職時に備えて積み立てができます。月々の掛け金は1,000円から7万円まで自由に決めることができ、掛け金は全額控除できます。共済金を受け取るときには退職所得控除や公的年金控除が適用されるため、節税効果もあります。
このように、老後の生活費を確保するためにさまざまな制度を活用することができますので、積極的に利用を検討するようにしましょう。
まとめ
「家計の金融行動に関する世論調査」の調査結果から、老後の生活に不安を感じている世帯が多いことがわかりました。老後の資金を十分に確保できていないということが、不安の主な原因となっています。
老後にゆとりある生活を送るためには、年金以外にも就業や個人年金、iDeCoなどさまざまな収入源を確保することが大切です。安心して老後の生活を楽しむためにも、老後のお金について真剣に考え、早めに対策を立てるようにしましょう。