年収の何倍でマンションを買えるかを示す年収倍率。東京都がトップであるのはいうまでもありませんが、2位には意外なところが入っています。価格は東京都を除く首都圏や近畿圏の水準とほとんど変わらないのに、平均年収があまり高くないため2位に入ってしまっているのですが、さてどの県だかわかりますか。
新築マンションのランキングは年次によるブレが大きい
不動産に関する民間調査機関の株式会社東京カンテイでは、毎年、マンションに関する年収倍率調査を行っています。都道府県別にその都道府県民の平均年収の何倍で、その都道府県内の70平方メートル換算価格のマンションを購入できるかという調査です。
都道府県別のマンションの買いやすさ、買いにくさを示すデータとして取り上げられることが多いのですが、新築マンションに関しては年次によるブレが大きくなってしまいます。
あまり新築マンションの供給がない県で、ある年、県庁所在地の駅前で再開発による高額の超高層マンションが供給されると、その年の平均価格が急騰、結果として年収倍率を大きく引き上げてしまうといったことが起こります。これはその年だけの特殊事情であり、必ずしも買いやすさ、買いにくさの実態を表しているとはいえません。
たとえば、秋田県は2018年には新築マンションの供給がなかったため、年収倍率調査の対象外でしたが、2019年には年収倍率10.06倍で、全国7位にランクされました。しかし、おそらく2021年秋に公表される見込みの2020年の調査では、大きく順位を落とすか対象外になるでしょう。
東京都が断然のトップで年収倍率は10倍を超える
新築マンションに対して、中古マンションであれば常に売り出し物件があり、価格相場は比較的安定しています。そのため、エリアの買いやすさ、買いにくさを判断するには、中古マンションの年収倍率を見るのが参考になるのではないでしょうか。
そこで、2019年版の中古マンションの年収倍率の結果を見ると、トップはいうまでもなく東京都で、年収倍率は10.96倍です。70平方メートル換算価格が6,446万円ですから、平均年収全国1位の東京都でも、10倍を超えてしまいます。一般的な会社員ではなかなか手が出せず、それなりの高額所得者でなければ購入は難しそうです。
それでも、新築マンションの東京都の70平方メートル換算価格は7,795万円で、年収倍率は13.26倍ですから、中古マンションのほうが格段に買いやすいことがわかります。
中古マンション年収倍率の2位はなんと沖縄県に!
では、東京都に次ぐ2位はどの道府県なのでしょうか。常識的に考えれば、東京都に次いで価格の高そうな神奈川県や大阪府などを思い浮かべますが、そうではありません。
実は、2位は、なんと沖縄県なのです。図表1にあるように、70平方メートル換算価格は3,698万円で、平均年収は396万円ですから、年収倍率は9.34倍に達します。3位の京都府の7.98倍より1.36ポイント、4位の大阪府の7.57倍より1.77ポイント、5位の神奈川県の7.53倍より1.81ポイントも高くなっています。
なぜこんなに年収倍率が高いのか――それは沖縄県の中古マンション価格が東京都を除く首都圏や近畿圏並みの価格に上がっているのに対して、平均年収が高くないからにほかなりません。そのため、地元に住む人たちからすれば、京都府や大阪府、神奈川県以上に買いにくくなっているわけです。
2019年の70平方メートル換算価格を見ると、トップはやはり東京都の6,446万円で、2位は神奈川県の3,855万円、3位が沖縄県の3,698万円です。沖縄県の価格は大阪府の3,689万円をも上回っています。首都圏の埼玉県、千葉県、近畿圏の京都府、兵庫県などよりも高いのです。
沖縄県の中古マンションは4年で5割以上アップ
それに対して、沖縄県の平均年収は396万円です。東京カンテイでは、都道府県別の年収を内閣府の「県民経済計算」をもとに算出しているそうですが、東京都の588万円、兵庫県の527万円、千葉県の516万円に及ばないどころか、全国平均の458万円よりかなり低い水準です。平均年数が400万円を切っているのは、鹿児島県の372万円、佐賀県の381万円、青森県の395万円と合わせて4県だけです。
70平方メートル換算価格は首都圏や近畿圏並みかそれ以上の水準なのに、年収は全国平均に及ばないのですから、年収倍率が高くなるのは当然のことでしょう。
では、なぜ沖縄県の中古マンションはこんなに高いのでしょうか。
東京カンテイによると、沖縄県の70平方メートル換算価格は図表2のように年々着実に上昇、2015年には2,415万円だったものが、2019年は3,698万円と、4年間でなんと53.1%も上がっているのです。
沖縄県の物件価格が上昇したわけとは?
2020年の新型コロナウイルス感染症拡大の影響が深刻化するまでは、沖縄県は中国、韓国、東南アジアなどの観光客でにぎわい、観光産業を中心に経済も活況で、さらに大規模な金融緩和が継続され、投資資金が沖縄県に集中しました。
また首都圏のマンション価格が上がりすぎたこともあり、将来性の高そうな沖縄県に関心を高める人が増えました。投資用としてだけではなく、リゾートや迎賓館的に活用するために購入する人も増えたといわれています。
現実問題として、東京都に住む人が沖縄県のマンションを買う場合には、平均年収が588万円に対して、平均価格が3,698万円ですから、年収倍率は6.29倍に下がります。全国平均の5.52倍に比べると高いのですが、それでも首都圏の物件を買う場合の年収倍率に比べると格段に買いやすくなります。リゾートとしても、投資としても魅力的に見えるのではないでしょうか。
沖縄県の中古マンションには築浅物件が多い
沖縄県のマンション価格上昇の要因のもうひとつの理由として、県内でマンションが本格的に建設されるようになってから、まださほどの年月が経過していないという点があげられます。結果、首都圏などに比べて築浅の物件が多く、それが平均価格を引き上げている面があるようです。
東京カンテイの調査によると、沖縄県のマンションストックは3万8,925戸ですが、そのうち築10年以内の築浅物件が1万3,654戸と35.1%を占めています。全国平均では築10年以内の割合は16.3%ですから、沖縄県の築浅物件の比率は2倍以上に達しています。
コロナ禍が長期化すると沖縄県の物件価格に影響も?
それは、図表3を見てもわかります。これは中古マンションの年収倍率の推移をグラフにしたものですが、ブルーの折れ線グラフは全国平均で、この10年間一貫して緩やかな右肩上がりのカーブを描いており、ジワジワと年収倍率が高くなっています。
それに対して、オレンジの折れ線の東京都や、グレーの沖縄県の動きには大きな上下動があります。東京都は2013年から2015年にかけて大きくジャンプし、沖縄県ではそれに遅れて2016年から2018年にかけての上昇率が高くなっています。先に触れたように、この時期の価格上昇率が高かったため、それが年収倍率に反映された形です。
2020年に入ってからは新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、沖縄経済は停滞色が強まっており、中古マンション価格の上昇も一服、相場価格には下落の兆しが見られるようになっているそうです。
東京圏からすれば、年収倍率がさほどではないため買いやすいといっても、今後の資産価値にはやや不安も残ります。もちろん、コロナ禍しだいではありますが、コロナ禍が長期化すると下落に拍車がかかる可能性があるので注意が必要です。