住宅の購入を考えている人のなかには、「インスペクション」という言葉を耳にしたことがある人もいるのではないでしょうか。インスペクションは「住宅検査」「住宅診断」「建物状況調査」「ホームインスペクション」とも呼ばれていて、住宅を購入する際の大事な指標となるものです。そこで、インスペクションとは何かについて解説します。インスペクションを活用するメリットを知って、安心できる住まいづくりに役立てましょう。
時代が求める住宅検査(インスペクション)
インスペクションが活用される事例は、ここ数年で増えてきたものの、世間一般的にはまだあまり広く知られていません。そのため、聞いたことはあっても「誰」が「どんな検査」を行うのかよくわからないという人も多いでしょう。
インスペクションとは?
インスペクションとは、簡単にいうと、民間の第三者機関が住宅の劣化や不具合がないかどうか検査するものです。ここでいう第三者機関とは、建築士などの専門家のことを指します。住宅メーカーや不動産業者がいくら「この住宅は問題ない」と言っても、「売りたいから嘘をついているのではないか」「売り主は良いことしか言わないのでは?」という不安を持つ人も少なくありません。インスペクションは、当事者ではない第三者が客観的に欠陥や補修が必要な箇所を検査してくれる制度なので、いわば安心についてお墨付きをもらった住宅ということになるのです。
インスペクションが求められる背景
最近になってインスペクションが注目されるようになった背景には、官民による中古住宅流通の推進があります。日本では新築住宅のほうが好まれる一方で、空き家問題が深刻化しています。空き家をこれ以上増やすことなく、中古住宅を有効活用するために中古住宅市場を盛り上げようという動きがあるのです。
しかし、中古住宅の購入でネックになっているのが、住宅の安全性に対する不安です。一般社団法人不動産流通経営協会が平成28年に行ったアンケート調査によりますと、中古住宅の購入について、持ち家居住者のうち6割以上の人が「少しでも不安があれば購入しない」と回答しています。さらに掘り下げてみると、中古住宅の不安は「構造上の問題」が最も多く、約半数を占めています。中古住宅の購入においては、「欠陥住宅ではないか?」「劣化による構造上の問題がないか?」というところが一番気になる部分。その不安を払拭するため、インスペクションが実施される事例が増えているのです。
インスペクションで、建物の安全性が証明されれば、中古住宅の購入を断念する人も少なくなり、購入後のトラブルも軽減されます。そのため、インスペクションは住宅購入を考えている人に「安心」という大きなメリットがあるのです。
参照:一般社団法人 不動産流通経営協会「首都圏の住宅市場ポテンシャルに関する調査」
活用されやすくなっているインスペクション
インスペクションという制度があっても活用されなくては意味がありません。そこで、住宅を売買するときに、購入者にインスペクションについて知ってもらうため、宅地建物取引業法(以下「宅建業法」)の一部が改正されました。ここでは、宅建業法の改正や、既存住宅売買瑕疵保険法人による検査、インスペクションの実施が条件となる補助金や控除についてご説明します。
宅建業法改正でインスペクションの説明が義務化
インスペクションは、改正宅建業法では「建物状況調査」と呼ばれます。平成30年4月に改正された宅建業法が施行され、建物状況調査の説明が義務化されました。ここでの調査では、既存住宅状況調査技術者(国の登録を受けた既存住宅状況調査技術者講習を修了した建築士)が国土交通省の定める既存住宅状況調査方法基準に則った検査を実施します。
この宅建業法の改正により、建物状況調査を実施する調査者を紹介してもらったり、住宅を購入するときに建物状況調査の説明を受けたり、状況について書面で受け取ることができるようになりました。売買契約時のみならず、購入後に予期せぬトラブルがあった際も安心です。
既存住宅売買瑕疵保険法人による検査
インスペクションには、住宅瑕疵担保履行法に基づき、保険法人が行う現場検査もあります。これを既存住宅売買瑕疵保険といい、検査と保証をセットにした制度です。検査に保証が付くことで、万が一事故が発生したときも、修理や賠償をしてもらえるので安心です。この保険法人が行う検査も既存住宅状況調査技術者、もしくは既存住宅現況検査技術者である建築士によって実施されます。また、既存住宅状況調査を行っている建物は、一定の要件を満たす場合は免除されます。
インスペクションの実施が条件の補助金・控除
インスペクションの実施によって補助金を受け取ることができる場合があります。たとえば、「令和2年度長期優良住宅化リフォーム推進事業」です(2021年1月現在)。内容は、リフォーム工事前にインスペクションを実施することを要件に、工事費用の1/3までを補助するというもの。限度額は住宅性能に応じて100万〜300万円となっています。
さらに、インスペクションの実施は税制面でも優遇されます。先ほどご紹介した、既存住宅売買瑕疵保険に加入すると、保険付保証明書を取得できます。これは耐震基準の証明書類になり、住宅ローン控除や中古住宅購入時の登録免許税・不動産取得税が減額されます。住宅ローン控除は10年間で最大400万円(一般住宅の場合)と大きな額です。インスペクションの費用相場は5万〜7万円前後といわれているので、補助金や控除の額を考慮すると、インスペクションを実施するメリットは十分にあるといえます。
新築住宅の検査の種類
インスペクションは中古住宅を前提として整備されてきた検査ですが、新築住宅にも援用されています。新築住宅の場合はどのような検査が行われるのか、検査内容をご紹介します。
新築住宅の基本検査
新築住宅を購入者に引き渡す前に最低限しておかなければならない検査が基本検査。基本検査は以下の3つです。
(1)建築基準法に基づく完了検査
建築基準法に則って施工されているかどうか判断するもので、法律で義務化されています。検査は、中間検査と完了検査の2回。確認申請書の図面と建物を現場で照らし合わせ、差異がないか確認します。
(2)住宅瑕疵担保履行法に基づく保険法人による検査
ハウスメーカーが「住宅瑕疵担保責任保険」に申し込むために実施する検査です。ハウスメーカーには構造欠陥などの重大欠陥を10年間補償する義務があり、その資金を確保するために保険に加入します。
(3)ハウスメーカー(工務店)自身の検査
ハウスメーカーや工務店は、購入者に発注された通りの品質で引き渡しができるか、独自のルールによって検査を行います。基準はメーカーによってさまざまで、職人や下請け業者にまで徹底した管理を行っているところは、安心できるメーカーだといえるでしょう。
新築住宅の任意検査
任意検査は購入者が希望すると追加で受けられる検査です。代表的な検査は2つです。
(1)第三者による検査
施工したメーカーと提携していない独立性の高い検査会社に依頼して行う検査です。客観的な視点から検査をしてくれるので安心です。第三者による検査は義務ではなく任意の検査になりますが、ハウスメーカーによってはこの検査を標準で導入している場合もあります。
(2)住宅性能表示制度にもとづく検査
住宅性能評価書の交付を受ける場合、国土交通大臣が定める第三者機関の検査が必要になります。この検査のメリットは住宅性能が公的に証明されることで、トラブル時には専門機関に対応してもらえたり、地震保険料の割引が受けられたりします。
アパートなど収益物件の検査
インスペクションはマイホームを購入するときに実施されると思われがちですが、収益物件(新築・中古)の任意検査も存在します。投資家のなかには、インスペクションを積極的に活用している人もいます。というのも、購入してから思わぬ欠陥があり大規模な補修工事が必要になったら、マイホームと同様に大きく損をしてしまう危険性があるからです。マイホームと違うところは、物件の規模です。1つの物件のなかに同じような部屋が複数あるため、検査の対象を全部屋にするか、2、3部屋にするか判断する必要があります。全部屋を検査するのが理想的ではありますが、その分費用もかさんでしまうので注意が必要です。
また、既存アパートの場合は居住者への気遣いが大切です。たとえ外観の調査だとしても、居住者を不安にさせてしまう恐れがあります。トラブルを避けるためにも、居住者に検査日を通知してから検査を進めていきましょう。さらに、居住者が使用している部屋を検査対象とすると、立ち入り許可をもらったり、負担をかけないように短時間で済ませたりと細やかな配慮が必要です。そのため、室内調査は基本的に空室のみで行います。その場で調査内容や不明点を聞くことができるので、検査のときには立ち会うのがおすすめです。
まとめ
インスペクションは、主に中古住宅の流通促進のために整備されてきました。
購入者にとって安全性に対する不安が中古住宅を買うときのネックになっていましたが、施工業者とは関係性のない第三者機関が検査をするので、安心してマイホームを購入することができます。
中古・新築問わず、住宅を購入するときにはインスペクションを賢く活用しましょう。