マンション住まいなら最低限は災害に備えてほしい5つのこと

「楽しみながら生活を豊かに」をコンセプトのウェブマガジン『REISM STYLE』より、生活の中のさりげないワンシーンやアイテムを通して自己表現できる、とっておきの楽しみ方をご紹介いたします。

首都直下地震や南海トラフ地震といった、現在想定されている大きな地震は、非常に高い確率で起こるといわれている。それが今日になるのか数年先になるのかは誰にもわからないが、いつ起こってもおかしくないのは確か。

そんな状況の中、いざというときに困らないために、普段から防災対策をしっかりとっておくことが大切だ。けれども、具体的に何をどう備えればいいかわからない人も多いのでは?特に一人暮らしの場合は、部屋のスペースの都合で水や食料などの備蓄が難しく感じることもあるだろう。

そこで今回は、防災士の吉高美帆(よしたか みほ)さんに、マンション住まいの単身者が最低限備えておきたい知識や、必要アイテムについて教えてもらった。

都心部の大地震で怖いのは「火災」と「ライフライン被害」

内閣府が発表した「首都直下地震の被害想定 対策のポイント」によると、首都直下地震で想定される地震の規模はマグニチュード7.0クラス。この数値は、2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)のマグニチュード9.0よりも小さいですが、建物や人口が密集している東京では甚大な被害が出ると予想されています。

仮に、首都直下地震が発生した場合、道路の損壊や電車の脱線のほか、木造の古い家屋は倒壊のおそれがあります。また、沿岸部には津波が押し寄せてくることも考えられるでしょう。
けれども、都心部で怖いのは火災です。住宅が密集しているため消火活動が間に合わず、何日間も延焼し続ける可能性があります。そのため、初期消火に必要な消化器や消火栓の位置を平時から確認しておきましょう。

さらに、「首都直下地震の被害想定 対策のポイント」、東京都が発表している「首都直下地震等による東京の被害想定」では、都内の各ライフラインの被害・復旧状況の想定を紹介しています。

ライフライン 被害・復旧状況
電力 5割の地域で停電が発生し、最悪の場合、1週間以上回復しない。
ガス 都市ガス設備被害の復旧に1~2ヵ月程度要する。道路が塞がれていたり、浸水・火災による被害が大きかったりする地域は、さらに長期化する場合も。
上水道 復旧に1ヵ月程度を要する。取水施設や浄水場等が被災した場合、断水被害が増大し、復旧が遅れる可能性も。
下水道 復旧に1ヵ月程度を要する。処理場・ポンプ場の被害により、機能の低下が発生する可能性も。
生活空間での汚水の滞留などにより、感染症の発生など公衆衛生上の問題が発生する場合がある。
電話 携帯電話を含めて不通の状態が1日程度続き、停電が長期化すると携帯電話の使用も不安定となる。
道路 主要道路の開通には、少なくとも1〜2日を要する。
一般道はガレキによる不通区間が大量に発生し、復旧には1ヵ月以上を要する。
鉄道 運転再開には、地下鉄で1週間、JRや私鉄では1ヵ月程度を要する。

 

防災のポイントは「地震発生時の揺れ」と「地震発生後の生活」

都心部で生活する単身者が自宅で被災すると仮定した場合、ポイントとなるのは、

・揺れに対する備え
・自宅での避難生活に対する備え

の2点です。

人口の多い都心部では圧倒的に人手が足らず、すぐに救助が来るとは限りません。そのため、地震が発生したときに、まずは自分で自分の身を守ることが重要です。

さらに、首都圏で開かれる指定避難場所は、家屋の消失や倒壊によって住居を失った市民が避難生活を送る場所であり、倒壊の可能性が少ないマンション等の住民は、自宅で避難生活を送らなければいけない可能性が高いです。そのため、電気やガス、水道がない中で、どのように生活するかを考えておく必要があります。

こうした、都市部ならではの状況を踏まえて、最低限、備えをしておいてほしいことが5つあります。

備え1:家具の転倒防止対策

鉄筋コンクリート造りのマンションであれば、建物が一気に倒壊することはあまり考えられません。それよりも危険なのは、室内にある家具の転倒です。
倒れてきた家具の下敷きとなって身動きがとれなくなったり、ケガをしたりするリスクを軽減するためにも、大きな家具には転倒防止対策を施しましょう。

壁にネジなどで固定するのが一般的な方法ですが、賃貸住宅の場合は難しいこともあります。その場合は、

・(就寝時の被災に備えて)ベッドの周りには背の高い家具や倒れやすい物を置かない
・「なるべく物を置かない安全スペース」といえる場所を住居内に作っておく

といった対策をとるといいでしょう。また、ネジなどを使用しない固定具も増えていますので、賃貸住宅でもぜひ活用ください。
なお、公営住宅においては、港区や世田谷区などで「家具転倒防止器具設置による原状回復義務」を条件付きで一部免除するなど、自治体にも動きが出ています。詳しくは、各自治体へお問い合わせください。

家具の転倒防止対策については、東京消防庁が作成した次の資料に詳しく載っています。こちらも参考にしてみてください。

家具類の転倒・落下・移動防止対策ハンドブック

備え2:災害用トイレの準備

停電が起きた場合、マンションでは電気によって給水をしている場合が多く、水道も止まるため、トイレは使えなくなります。そこで役立つのが災害用トイレ。現在ではさまざまなタイプの物が販売されていますが、抗菌・消臭効果のある吸水シートが付いた袋を便器に取り付ける物が一般的です。

災害用トイレがなくても、お風呂に張っていた水を使って流せば…と考えがちですが、それはNGです。大きな揺れによって下水管が破損している可能性もあるため、たとえ汲み置きの水があったとしても、トイレには流さないようにしてください。

避難所や公園のトイレであっても状況は変わりませんし、多くの人が利用する公共のトイレは、衛生面でも厳しくなることが予想されます。そのため、自宅で落ち着いて用が足せるように、災害用トイレを準備しておくほうが安心です。また、女性の場合は防犯の意味でもメリットが大きいですね。

備え3:常時「1人1日3L×1週間分」の飲料水の備蓄

飲料水は、1人1日3L程度必要だと考えられています。そのため、

3L×1週間分=21L(1.5Lペットボトル14本分)

程度を備蓄しておくといいでしょう。

収納スペースの都合で備蓄用だけでそこまでできない…という場合は、「ローリングストック」がおすすめ。ローリングストックとは、普段使っている食料品を少し多めに買い置きし、消費した分だけ買い足して、一定の量を備蓄しておく方法のこと。

水でもお茶でも、普段飲んでいる物で構いませんので、それを多めに買っておき、日常で消費しながら買い足していってください。

備え4:ビタミンやミネラルを摂取できる食料の備蓄

災害時は、パンやご飯といった炭水化物が配給されることが多いもの。もちろん、エネルギーを補給するには炭水化物も重要ですが、ライフラインが止まった状態での生活が長期間続くと、ビタミンやミネラルなど炭水化物以外の栄養素が不足しがちになり、風邪や感染症の原因になります。

そこで、それらを補えるように、

・ドライフルーツや野菜チップス
・レトルトの野菜スープ
・野菜ジュース
・ビタミンのサプリメント

などを備蓄しておくのがおすすめです。

また、災害時の不便な生活によるストレスや恐怖で、ナーバスになりやすいため、チョコレートや飴といった甘い物も用意しておくと、精神的に大きな助けになると思います。

備え5:他人に借りられないパーソナルなアイテムの用意

普段から片頭痛や生理痛になりやすい人は、症状が出たときのために、いつも飲んでいる薬を用意しておくことが重要です。ほかにも、普段使っているコンタクトレンズや持病の薬、アレルギー対応食など、ほかの人に借りられないアイテムは、必ず準備しておきましょう。

高血圧や糖尿病といった持病がある人は、お薬手帳を見せることで迅速な支援につながる可能性があります。コピーでも構いませんので、用意しておくと◎。

以上5つが、最低限備えておいていただきたいことです。また、被災時にあると役立つ物も、いくつかあります。

・ラジオ

地震による停電や携帯電話会社の基地局の損壊などで、携帯電話が使えなくなることが想定されます。そのようなときに情報を得るためにも、携帯ラジオがあると便利です。
チャンネルは防災情報の豊富な地域のコミュニティFMに合わせておくことをお忘れなく。

・現金

近年は、キャッスレス化が進んでいますが、電気が止まるとそれらは使えなくなってしまうことがあります。そうした事態に備え、現金を用意しておきましょう。

首都直下地震クラスの大きな地震に対しては、被災した状態での生活が長く続くことを念頭に入れて備えることが大切です。

揺れを感じたら、まずは「自分の身の安全を確保する」

首都直下地震クラスの揺れともなると、そのあいだは歩くことはおろか、立っているのも難しく、その場にしゃがんだまま動けない可能性があります。そうした中でも、できる限り家具が倒れてこない場所、上から物が落ちてこない場所で身の安全を確保しましょう。
このとき、物が落ちてこなくて安全そうだからといって、トイレやお風呂場などの個室に逃げ込むのはあまりおすすめできません。特に単身者の場合は、ドアが開かなくなると、そのまま閉じ込められてしまうリスクがあります。

そして、揺れが収まったとしても、首都直下地震で怖いのは火災です。沿岸部では、津波が来る可能性もあります。まずは、近隣の状況を確認し、近くで火災が起きていたり、津波の危険性があったりする場合は、ただちに避難を開始してください。

避難で重要なのはスピード。通帳や印鑑、免許証等はあとで再発行できるので、1分1秒を争う際は速やかに避難してください。その際に忘れがちなのが、自宅のブレーカーを落とすこと。電力が復旧した際の通電火災を防ぐため、できる限りブレーカーを落として避難しましょう。

地震が起きたときの状況をイメージして準備しよう

いつか必ず起こるといわれている首都直下地震ですが、いつ、どれくらいの規模の地震が起きるかはわかりません。だからこそ、いざというときのために日頃から備えておくことが重要です。

そして、自分にとって必要な備えをするためには、地震が起きたときの状況をイメージしながら準備することが大事。

「自分が住んでいる地域にはどのようなリスクがある?」
「冬場のみならず夏場の被災に必要な物は?」

といったことをイメージすることで、「何が必要で何が不要か」が見えてきます。
特に、一人暮らしの限られたスペースを備蓄にあてる場合は、重要な物だけを厳選したいので、この「イメージ」がいっそう大切になってくるでしょう。
1週間ほど海外旅行へ行くようなイメージで準備してみると、わかりやすいかもしれません。

また、事前にハザードマップを確認したり、半年に一度は防災備蓄品の衣替えを意識したりしてみるのも◎。そして、ご近所の方々と挨拶を交わす程度でも交流があれば、きっと避難生活において大きな力となるでしょう。

何も起こっていないうちは、イメージしようと思ってもなかなか難しいかもしれませんが、近いうちに「必ず起こる」と思って行動する――これが被害を最小限にとどめ、避難時もなるべく快適に過ごすための近道です。

お話しいただいた人
吉高 美帆さん
防災士・ファシリテーター・環境教育講師
1983年生まれ、福島県出身。環境教育の有識者として企業や大学での研修や環境関連イベントの企画・運営などに携わり、環境省の「今後の環境教育・普及啓発の在り方を考える検討チーム」に参画。東日本大震災後は共助の防災減災を行い、「よき避難者」を育てるプロジェクト「Community Crossing Japan」の立ち上げに参画。災害時に住民が主体的に行動できるよう、避難生活までを視野に入れた防災減災研修やワークショップを全国各地で開催している。
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※この記事はREISM株式会社が運営するREISM Styleの記事を一部編集、転載しています。

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