いま、過疎化や少子高齢化に悩む自治体の多くが移住・定住支援策を講じています。ただ、その多くは、「移住してきたら1世帯100万円、単身者60万円を支給する」と横並びで、あまり代わり映えしません。そんななか、2020年6月末に東京都奥多摩町がスタートさせた、「0円空家バンク」が大きな話題を呼びました。そこで今回は、奥多摩町が本気で取り組む、実践的な移住・定住対策事業についてご紹介します!
急激な人口減少を食い止める奥多摩町の『元気づくり計画』
今回お話を伺ったのは、0円空家バンクをスタートさせてから取材が殺到しているという奥多摩町役場 若者定住推進課の弦巻智也さんです。
奥多摩町では、2016年に「元気づくり計画」を策定。その内容は、196ページにもなる長大なもので、子育て支援から高齢者支援、定住応援まで多岐にわたります。この「元気づくり計画」はどのようなきっかけで策定されたのでしょうか。
弦巻さん
「奥多摩町では2014年12月27日に閣議決定された『まち・ひとしごと創生成長ビジョン』の内容を勘案し、人口減少と地方創生に向けた具体的な施策をまとめた『奥多摩町まち・ひと・しごと創生総合戦略』を策定いたしました。その流れで立てられたのが『元気づくり計画』です。当時の推計では、2010年に6,000人余りだった人口が、2020年には約4,500人まで減少するとされていました。そのような急激な人口減少を食い止めるために、役場を挙げて多角的な取り組みを考えたわけです。なかでも、空家を活用した15年以上定住すると土地と建物を譲渡する『いなか暮らし支援住宅』や『若者定住応援住宅』などは、奥多摩町独自の行政サービスだと思っています。また、奥多摩町に定住するための第一歩として月額約2万~3万円で借りられる町営若者住宅も建設しました。現在、58世帯210人がこの町営若者住宅に住んでいます。このほか、『子育て応援住宅』『町営住宅・公営住宅』『地域おこし協力隊住宅』、さらに『空家バンク』『若者用空家バンク』、話題となった『0円空家バンク』など、さまざまな移住・定住対策事業を実施しています」
2020年に4,500人まで減少すると推計されていた奥多摩町の人口は、2020年11月1日時点で5,004人とかなり減少幅を抑えることに成功しています。移住・定住対策事業により557人が転入し、人口の約1割を移住者が占めているのも驚きです。
また、65歳以上の高齢者率が50%を超えているとはいえ、子どもの数も多く14歳以下の年少者数は350人。そのうち約半数が移住者(移住・定住対策事業人口)だといいます。少子高齢化に悩む全国の自治体のなかでも、際立った成果を上げているのです。
住宅の購入・リフォームで最大220万円の補助金を支給!
奥多摩町の移住・定住補助金は、最大で200万円(※条件によって金額が異なります)。2020年度からは、地場産材を使った場合や町内事業者を使って住宅を建てたり改修した場合、それぞれ10万円加算されるため、合計で220万円の補助金が交付されるようになりました。
弦巻さん
「加算部分は、奥多摩町の町内で使える商品券になるのですが、この加算金制度を設けることで、町内事業者の活性化と地場産材のアピールにつなげたいと思っています。また、これまで『長期総合計画』の前期計画として、奥多摩町に定住する第一歩として安く住める賃貸物件をつくっていきましたが、今年度から後期計画がスタートして、分譲地や各種住宅などを整備しています。新築物件に住みたいというご要望や転職に伴う場合、金融機関の審査が通らないなどの問題も多いので、新築物件に22年間住んだら土地と建物を譲渡する『子育て応援住宅』も2棟ご用意しました。さらに、現在2棟建築中なので、年度内に4棟になる予定です。この『子育て応援住宅』はプロポーザル方式といって、建設業者から子育てをしやすい住宅をご提案いただいて、そのなかから気に入った設計の物件を建てることができるため、人気が高まっています。さらに、町が管理する建物となるため、給湯器などの設備が故障した場合の修理費も町の負担です。ただし、建物の使用料として1ヶ月5万円(中学生以下の子ども1人につき5,000円減額)かかります」
つまり、月々5万円の家賃の新築住宅に22年間住めば、その土地と建物がもらえるというわけです。5万円×12ヶ月×22年=1,320万円ですから、かなりお得な物件といえるのではないでしょうか。
住宅購入・リフォームのための借入金に対する利子補給も!
このほか、定住を目的とした住宅を購入・リフォームするために融資を受けた場合、利子の補給も受けられます(※45歳以下の夫婦、もしくは高校生以下の子どもがいる世帯、あるいは35歳以下の単身者という、年齢条件を満たす必要あり)。
この利子補給は年額33万円×3年なので、最大で99万円にもなります。(町内金融機関の利用の場合)
さらに、【フラット35】子育て支援型を活用すれば、借入金利を一定期間下げることも可能です。
参考:奥多摩町/定住支援サイト
空家バンクの成約件数は10年で38件
空き家の賃貸・売却を希望する所有者から提供された情報を集約し、空き家をこれから利用・活用したいと希望する人に紹介する制度「空家バンク」。
奥多摩町が2010年にスタートした、この「空家バンク」を活用した転入者はこれまで45人にのぼります。これは住民票を移動した人の数で、別荘や多拠点居住の方などは含まれません。ですから、実際の利用者はもっと多いと思われます。
奥多摩町の空家バンクのこれまでの登録戸数は64件で、そのうち成約件数は38件。途中で登録を取り下げるケースもあるため、現在、公表している物件数は15件程度とのことですが、他の自治体から、どうやって登録数を増やしているのか問い合わせを受けることもあるそうです。
弦巻さん
「奥多摩町の場合、『空家調査・活用システム』というのがあり、住民票が抜けた段階で空家認定をしています。2015年度で440件の空家があり、その中から様々な条件をクリアしたうえで『空家バンク』に登録されたのが64件というわけです。2020年にスタートした『0円空家バンク』は空家バンクとは別事業となっていて、現在登録数は3件です。建物の損傷がひどくて売り物にならないような物件を『空家バンク』から誘導して、お客様と所有者に直接取引してもらうのが『0円空家バンク』制度です」
2020年、「0円空家」バンクが話題になったことに加えコロナ禍の影響もあってか、ずっと売れなかった「空家バンク」の物件が成約に至るケースも出てきているそうです。
アウトドア人気や子育て支援も移住の後押しに
ここ5年くらいで、レンタサイクルショップや、川下りを提供するレジャー企業が増え、アウトドア人気の高まりとともに、奥多摩町の観光人気も高まってきています。現地に足を運んでみるとオシャレなショップや飲食店が点在していました。また、2019年春にオープンした氷川食堂に伺ったところ、2020年はGo Toトラベルの東京除外の影響もあって夏から秋にかけての人出は例年以上だったといいます。
弦巻さん
「アウトドア人気もあって観光需要は高まっていますが、それが移住促進に直結しているかどうかはわかりません。でも、町の94%が森林のため自然が豊かなうえ、気温も東京区部と比べるとマイナス3度と夏は涼しくて過ごしやすい。冬になると雪が降りますが、災害対策がしっかりしているので除雪も早くかえって安心です。始発駅で都心まで1本で行けるのも大きなメリットだと思います」
手厚い移住・定住支援事業に加え、子育て支援もゼロ歳児から保育料全額補助、小中高学生の給食(高校生除く)・通学費・医療費を全額助成。さらに入園・入学・進学等の支援、制服代等支援など至れり尽くせりの奥多摩町。夫婦2人で3人の子どもを育てた場合、町独自の支援策をフル活用すると20年間で596万円もの助成を受けられるという試算(※2020年度見込)もあります。
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まとめ
とにかく、移住・定住支援事業への本気度が高い奥多摩町。支援策や助成制度の多さはご紹介しきれなかったほどです。保育園の待機児童もゼロですし、これから家を建てて子育てをしようと思っている人は、ぜひ一度じっくりと奥多摩町の支援制度を調べてみてください。
お話しいただいた人
弦巻 智也さん
奥多摩町 若者定住推進課
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(最終更新日:2021.12.08)