福岡県は待機児童数全国ワースト4位
2020年4月1日の時点で、福岡県の待機児童数は1,189人。全国ワースト4位です。ちなみに、前年度も同様にワースト4位でした。今年度の上位6都県は、それぞれ前年度より待機児童の人数は減っているものの、顔ぶれは変わりません。
待機児童数と同時に気になるのは、待機児童率です。福岡県は人数としては東京都の約半分であるものの、待機児童率は東京都を上回る結果となっています。
県内待機児童数推移
福岡県全体の待機児童数の推移を見ると、総数は増加傾向にあります。毎年保育所定員の拡充を図り、受け入れ数を増やしているものの、待機児童をゼロにするまでには至っていません。
県全体の2020年度の申込者人数は、12万6,785人。受け入れ定員は12万8,229人を準備しており、数字の上では需要を供給が上回っているのですが、市町村ごとのミスマッチが生じており、結果的に待機児童が増えているという状況です。
福岡県は、施設整備の進捗や保育ニーズの増大、保育士の充足等の状況に差があることが原因だと分析しています。そのため、2020年8月に各市町村への聞き取り調査を行い、待機児童政策について現状把握に努めました。
そのうえで、各市町村に状況に応じた働きかけを行うことを決定しています。今後は、筑紫地区(筑紫野市・春日市・大野城市・太宰府市・那珂川市)・糟屋地区(宇美町、篠栗町、 志免町、須恵町、新宮町、久山町、粕屋町)に重点的に働きかけを実施する予定です。
ワースト10の市町村のうち8市町で、待機児童の数が前年度より増加しました。なかでも、6位の篠栗町は59人増と突出しています。また、宗像市は前年度待機児童ゼロからの急増です。ほかにも、前年度待機児童がゼロだった宇美町、桂川町でそれぞれ26人、9人の増加がありました。そのなかで、大野城市、春日市、宮若市、粕屋町などは大きく人数を削減し、健闘しています。
待機児童ゼロから急増の宗像市・宇美町
宗像市と宇美町は、2020年に待機児童が急増した地域です。宗像市は、厚生労働省が発表した「保育所等関連状況取りまとめ(令和2年4月1日)」によれば、全国の統計で待機児童の増加数第9位にランクされてます。待機児童が増加した背景と、それぞれの地域の子育て事情について調べました。
2019年10月からの幼児教育・保育無償化が影響か?
待機児童が急増した背景には、2019年(令和元年)10月に開始された、幼児教育・保育無償化の影響があると考えられます。幼児教育・保育無償化は、3~5歳児クラスの幼稚園・保育所などの利用料が無料になる、という制度です。
この制度により、これまで保育所等に子どもを預けることを躊躇していた層が、積極的に子どもを預けるようになったことで、保育の需要が高まったと考えられます。全国の待機児童の約9割が低年齢児(0~2歳)であることを踏まえると、直接の影響は少ないともいえますが、住民税非課税世帯は低年齢児でも保育料が無料になります。また、上の子どもを無償で預けられることで下の子どもの保育ニーズが喚起されるといったケースもあります。
ほかにも、長引く景気低迷、災害による家計のひっ迫など、女性が働きに出る必要が高まっている社会背景も、待機児童が増える要因の一つとされています。
宗像市の子どもを取り巻く現状
宗像市は、福岡県の南側、玄界灘に面した都市です。北九州市と福岡市という二つの政令指定都市にはさまれており、住宅も多く、両市のベッドタウンとして機能しています。公共交通機関や国道の整備により、都心へのアクセスも良く、生活しやすい地域となっています。そのため、人口は9万7,000人前後で推移しており、人口減少が進む時代においても、人の流入が一定程度確保されている状況です。世界遺産の沖ノ島を有し、歴史的、文化的にも魅力のある土地柄です。
「第2期宗像市子ども・子育て支援事業計画」によると、宗像市では、全国の動向と同じく、ひとり親世帯が増加し、女性の就労意欲も高くなっています。0~5歳児の人口は2021年から徐々に減り始める試算ですが、大きな減少はなく、子どもを預けて働きたい母親のニーズは今後も高まる予測です。
宗像市には、「宗像市子ども基本条例」があり、子どもの権利を保障しています。子どもの生育環境をより良くしていくという理念のもと、子育て世代に手厚い支援を計画しています。2021年にも、定員20人の小規模保育所が2園増設され、待機児童解消のための政策が進んでいます。今後、待機児童数がどのように変動するのか注目です。
宇美町の保育園事情
宇美町は、福岡県の東南東にある、人口約3万7,000人の町です。町制100年を超える歴史のある地域で、かつては炭鉱町として栄えました。現在は、福岡市のベッドタウンとして機能し、大きな人口減もなく、軽工業地帯として発展しています。宇美町の約6割は森林地帯となっており、子どもがのびのび遊べる自然がいっぱい。隣接する志免町には福岡最大の商業施設があり、生活も便利です。
宇美町には、こどもみらい課という窓口があり、子育て支援と保育・幼稚園関連の業務を行なっています。2018年には、2020年度から24年度にかけての保育所整備計画を策定し、受け入れ態勢を整えています。3歳未満の入所希望者が多いのは、全国の特徴と同じです。近年、保育士不足が課題でしたが、私立保育所等の整備を進めることで対処してきました。2020年度の入所希望者急増については、想定外のようですが、引き続き民間と協力して環境整備が行われる計画です。
また、宇美町保育所等利用者支援事業として、子育てコンシェルジュという専任のスタッフを配置しています。妊娠中の女性、就学前の子どもがいる保護者からのちょっとした相談や、悩み事などを受け付けてくれます。子育て中の保護者にとっては心強い存在です。
受け皿1,500人分を増設した福岡市
福岡市は、人口約160万人の政令指定都市です。毎年保育所定員を拡充し続けており、2020年度には受け皿1,500人分を増設して、待機児童対策を行いました。
待機児童5人は本当?
対策の効果で、福岡市の待機児童は年々減少しています。2020年度の待機児童は5人という結果になりました。しかし、注目すべきは「未入所児童数」です。申し込みをしたものの、入所に至らなかった児童の家庭には、事情があります。
たとえば、「兄弟が別々の離れた区域にある保育所に通わなければならないため、入所をあきらめた」「延長保育を希望しているが、適切な時間対応がないため、認可外保育所に入所した」など、未入所の理由はさまざまです。
国の待機児童の定義では、このような理由の未入所時を待機児童数に数えないことになっているため、表面上の待機児童数は、5人と低く抑えられています。しかし、現実には福岡市は保活激戦区であり、毎年1,000人を超える「未入所児童」が発生する状況が続いています。
福岡方式を脱却した新たな視点の施策が必要
福岡市は、1960年代後半から70年代にかけて、「福岡方式」と呼ばれる方法で保育所の整備を進めていました。福岡方式とは、民間保育園に市有地を無償で貸し付けるというもので、民間の参入が相次ぎ、保育所整備は成功します。ところが、2002年度以降、無償貸し付けを止めたため、土地の確保が困難になり、新たな民間保育施設はできにくくなりました。もともと民間の参入が多かったため、市が運営する保育所は数が少なく、老朽化も進んでいます。長年、改築、整備等で定員を増やしてきましたが、これには限界があり、今後は新たな視点の施策が必要です。
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都市部の「保活」は十分な準備が必要
福岡市は、統計上は待機児童が少ない地域に見えます。しかし、大都市の例に漏れず、隠れ待機児童が多く存在する保活激戦区です。都市部の待機児童情報を知るには、自治体が発表する資料をしっかり読み込むことが大切です。気になる地域があれば、十分な下調べと準備をしておくことをおすすめします。
(最終更新日:2024.04.19)