杜の都(もりのみやこ)仙台市を抱える宮城県は、畜産、農業、漁業など、豊かな土地の恵みを生かした産業が盛んな地域です。今回は、女性の就労が増加した同県の待機児童事情について調べました。
【宮城県】待機児童が多い市町村ランキング
2020年4月1日時点の待機児童数を見てみましょう。35市町村のうち、待機児童が10人以上いる市町村が11ありました。最も待機児童数が多いのは、政令指定都市でもある仙台市です。仙台市の人口は約109万人。次に待機児童が多い大崎市は、約13万人の都市です。石巻市は約14万人を抱える都市ですが、待機児童は比較的少なくなっています。
県全体の待機児童数は大幅減少
宮城県全体の待機児童数の推移を見ると、待機児童数は大幅に減少していることがわかります。2018年から2019年にかけては、30人減にとどまっていたものが、2019年から2020年にかけて、243人も減少しています。
県内で最も待機児童数の多い仙台市は、2019年の121人から91人に減少。大きく減ってはいますが、減少数全体の12%程度です。この数字から、待機児童数の減少は、宮城県全体の取り組みの成果だということがわかります。
県は、待機児童減少の要因として、保育所の整備を挙げています。保育所整備に関しては国からの援助がありますが、宮城県は県独自の補助制度を採用。国からの補助額に対して実費が上回った場合の資金補助を行っています。また、東日本大震災で被災した沿岸部には、より手厚い支援を行っています。
20市町で待機児童が減少
県内で待機児童が減少しているのは、20市町です。特に、気仙沼市、多賀城市、富谷市、柴田町などで減少幅が大きくなっています。
2020年4月時点で、待機児童がゼロになっている市町村は、角田市、富谷市、蔵王町、七ヶ宿町、川崎町、丸森町、利府町、大衡村、色麻町、涌谷町の10市町村です。
待機児童数トップの政令指定都市「仙台市」
宮城県のなかでも、待機児童数トップは仙台市です。大学や高等専門学校など、教育機関も多く、若い人が多く活気がある町です。首都圏からのアクセスも容易で、転勤族をはじめとする流入人口も多いという特徴があります。
仙台市の隠れ待機児童問題
ほかの大都市と同様に、仙台市にも「隠れ待機児童」問題が存在します。
仙台市は、2011年以降、保育施設などを増やし続け、定員数の拡充に努めてきました。その結果、待機児童数は年々減少傾向にありますが、注目したいのは「入所保留児童数」です。
これは、入所を申し込んだものの、保留になった子どもの数です。表中の「待機児童数」は、「入所保留児童数」から、国が定めた待機児童の定義に当てはまらないケースを除いた数値になります。
定義から外れるケースは、特定の保育所を希望していたり、保護者が求職活動を停止していたりするケースです。そのなかには、「兄弟と同じ保育所に入れたい」「なるべく家か勤務先に近いところがよい」「預けられないので就職活動ができない」などの事情を持った人が含まれます。
つまり、待機児童の実際のニーズを表しているのは、「入所保留児童数」だということがわかります。「入所保留児童数」も減少傾向にありますが、年々入所希望者数が増えているため、微減にとどまっています。
0~1歳の待機児童が全体の7割を占める
仙台市の待機児童数を年齢別で見ると、0~1歳児の待機児童が全体の約7割を占めています。一般企業で働いている場合、育休期間は原則として1年ですので、この年代に入所希望者が集中します。仙台市のなかでは、マンションが多く建設され、子育て世代が増えている太白区の長町、富沢の両地区で、待機児童が増えています。
保育士確保のための独自政策を実施
待機児童数ゼロを目指し、仙台市では保育士確保のための独自政策を実施しています。経験年数が3年未満の若い保育士に対する助成、保育士用の宿舎借り上げの補助、潜在保育士のためのリターンセミナーの開催など、マンパワーを確保するための取り組みです。
減少幅の大きい「気仙沼市」の取り組み
気仙沼市は、宮城県の北東端にある自治体で、海に面しています。三陸のリアス式海岸が有名です。主な産業は、漁業を中心とした水産業と観光業です。この気仙沼市は、2020年4月の待機児童数が6人。前年度より31人も減少しています。
震災後に女性の就労が増加
気仙沼市では、震災後に女性の就労が増加しました。被災によって家族が亡くなったり、住宅を建て直すための資金が必要だったり、経済活動を必要とする女性が増えたそうです。
かつては、祖父母が孫の面倒を見るという慣習も多かった地域ですが、年金支給年齢の繰り上げ、定年延長などで、祖父母世代も現役で働いているケースが増えています。こうした背景から、全体では少子化が進んでいても、待機児童が増えるという状況が続いていたと考えられます。
保育事業を民間にシフト
待機児童解消は、住民の生活復興に大きく寄与します。気仙沼市は、2014年度に「児童福祉施設等再編整備計画」を策定しました。当初は、老朽化した保育所を再整備し、認定こども園を開設していく予定でしたが、2019年度にこの計画を見直す動きが起こります。
新たな方針は、民間企業の参入を促し、幼保事業を行政と分担するというものです。0~3歳までの保育ニーズが高まっている背景を冷静に分析し、行政は認可保育所を増やすことに主軸を置き、満3歳以降の保育は民営の幼稚園に担ってもらいます。
そのほか、小規模保育所を認可保育所に編入するなどの計画見直しが功を奏し、待機児童の減少につながっています。
待機児童ゼロの「富谷市」
富谷市は、宮城県の中心部に位置する自治体です。仙台市の北側にある郊外地区であり、いわゆるベッドタウンとして機能しています。2019年4月には27人だった待機児童が、2020年にはゼロになりました。
しかし、女性の就労希望者は年々増加しており、入所を希望する児童数も今後増え続けると予測されます。そのため、富谷市では、「第二期子ども・子育て支援事業計画」を策定し、2020年度から2024年度までの5年間を、新たな子育て支援の期間と定めました。
2019年5月に実施された住民アンケートは、子育て世帯の状況や母親の就労状況について細かい設問が設定されており、こうした調査が新しい事業計画に反映されています。今後の計画実施に期待したいところです。
住民ニーズに応える地域選択を
宮城県では、多賀城市、富谷市、名取市は、住みやすい街としても人気があり、待機児童減少数も多くなっています。住まい探しをするときは、交通の便、学校や医院など公的機関の充実度も気になりますが、住民のニーズを捉え、適切に対応する柔軟性のある行政区域を選ぶことも、一つの視点として必要ではないでしょうか。待機児童解消に積極的な施策を実施している自治体を探してみましょう。