この冬「暖房・加湿・換気」を同時かつ効果的に行うテクニックとは?

寒さが本格化して、「暖房」が欠かせない季節になりました。しかし、この冬はただ部屋を暖めるだけではなく、新型コロナウイルスの感染を予防するための「換気」を行っていかなくてはなりません。

さらに、乾燥はウイルス感染のリスクを高めるということなので、同時に「加湿」もしていく必要があります。この3つを効率的に成り立たせていくにはどうすればいいのか。住宅の環境に詳しい近畿大学建築学部建築学科の岩前篤教授に伺いました。

部屋の湿度は40〜60%が最適

理化学研究所計算科学研究センターによれば、スーパーコンピュータ「富岳」のシミュレーションで、室内の空気が乾燥していると、飛沫が微粒子(エアロゾル)になる量が増えることが判明。湿度が30%のときには飛沫全体の6%近くが対面する人に到達するのに対し、湿度60%と90%のときは到達が2%前後に抑えられたといいます。ただし、90%のときは飛沫が下に落下する量が増えていて、これらの結果から、部屋の湿度は60%を目安にすること大切だという指摘がなされています。

「この結果は、あくまでも限定された環境でのシミュレーションなのでそのまま鵜呑みにすることはできませんが、空気中に障害物となる水蒸気が増えることで、ウイルスが拡散しにくくなるということはいえるでしょう。」(岩前教授)

「新型コロナウイルス感染症は、接触感染よりも感染者の呼気を直接吸い込んでしまう『飛沫感染』で重症化するともいわれているので、部屋の湿度を上げておくことで感染や、重症化のリスクを下げることが期待できそうです」(岩前教授)

「暖房&加湿」と「換気」相反する行為を効果的に行うポイント

この冬の課題に関して、「暖房&加湿」は部屋を締め切っておくことで効率が上がりますが、「換気」は反対に部屋を開放しなくてはなりません。

岩前教授は「いずれも集中して行うこと」が重要だといいます。

「どちらも、効率の高い方法で集中して行うことですね。効率をよくすることで部屋の快適性も上がりますし、電気代の節約にもつながります」(岩前教授)

暖房&加湿…「集中タイム」を作って効率的に

「まず、暖房&加湿の効率を上げるには『部屋の隙間をなくす』ことが重要です。窓まわりやドアの下の隙間をなくします。特に2003年以降に建てられた住宅には換気システムを設けることが義務化されていて、そのためにドアの下の隙間が大きめに作られていることがあります。ここを一時的にタオルなどでふさいで、『集中暖房&加湿タイム』を作ります」(岩前教授)

また、細かいところでは、コンセントの穴が外からの空気の入り口になっていることもあるので、ホームセンターなどで売っている専用キャップやテープでふさいでもよいと岩前教授はいいます。

部屋の気密性を上げておいて、集中的に部屋の温度と湿度を上げておくというわけですね。

換気…対角線上に空気の通り道を作る

「次に換気ですが、こちらは短時間で一気に行いましょう。効率よく換気するには、『部屋の対角線上に空気の通り道を作る』ことが一番です。およそ1時間に5分程度行うことで、十分に換気が行われます」(岩前教授)

効率よく換気するには、『部屋の対角線上に空気の通り道を作る』ことが一番

ここで心配になるのが、せっかく上げた温度と湿度が失われてしまうことです。

岩前教授によれば、換気をすると一時的には下がりますが、再び暖房と加湿を行えば、思った以上に早く元の状態に戻るそう。

「暖房や加湿をしながらちょっと窓を開けて同時に換気もしていく、というよりも、集中的に温度と湿度を上げ、換気するときにも一気に空気を入れ替えるというほうが結果的にどちらの効率も上がります」(岩前教授)

岩前教授によれば、部屋の家具など室内に存在している物の温度がすでに上がっているため、暖房をすれば室温もすぐに戻るとのこと。湿度も同様で、部屋に存在する家具の木材部分や本や雑誌などの紙が湿度を吸収しているので、加湿を再開すればすぐに元に戻るそうです。

「部屋の加湿に加湿器を使う方は多いと思いますが、観葉植物などを利用する方法もあります。植物に水を与えれば、それが自然と蒸散されて加湿されていきます。じょうろ1杯分の水をやればその分が室内に加湿されている、と考えればいいでしょう」(岩前教授)

部屋にグリーンを置いておけば癒し効果も期待できますし、一石二鳥かもしれません。

湿度の移動を防ぐことで「結露」「カビ」予防に

加湿した空気が家のなかを移動し「結露」「カビ」を引き起こすことも

冬の加湿で十分に注意しなくてはならないのが、「結露」「カビ」です。

「加湿するときに部屋の空気の出入り口を遮断するのは、効率を上げるだけでなく、別の部屋への湿度の移動を防ぐという意味もあります。加湿した空気が家のなかを移動し、室温の低い別の部屋に行くことで結露を起こしたり、カビにつながったりするおそれがあります。遠く離れた押し入れでカビが生えたりするのは、こうした湿度の移動が原因の場合があるのです」(岩前教授)

まとめ

冬の「暖房&加湿」と「換気」については、それぞれの効率を上げることで、部屋の快適性を損なうことなく両立させることができます。ただし、建物や部屋の環境にも左右されるので、できれば室温湿度計などを使って確認しながら取り組んでいきましょう。

お話しいただいた人

岩前 篤さん
近畿大学建築学部長・建築学科 教授
近畿大学アンチエイジングセンター(兼担)
建築物、特に住宅の省エネ化・ゼロエネ化、健康・快適化、さらなる長期耐久化を目的として、新しい材料や構法の開発と評価を行う。社会調査、実験室実験、数値シミュレーション、目的に応じてさまざまなアプローチを使い分けて取り組んでいる。

 

~こんな記事も読まれています~