トイレが詰まったり、蛇口を閉めても水が止まらなかったりした経験のある人は少なくないでしょう。そんなとき、自分で対処できず、スマートフォンやパソコン等で専門業者を調べ、早急に対応してくれる業者に依頼しがちです。
ここ最近、水道、暖房器具、屋根など住宅関連機器の修理トラブルが増えています。
特に注意なのが毎年のように台風や豪雨による被害が出る中、住宅の修理を巡り、業者から「火災保険を使って自己負担なしで工事できる」などと勧誘を受けた住民が、トラブルを訴えるケースが相次いでいる点です。住宅修理サービスのトラブル実態についてまとめみました。
修理に関する相談は年々増えている
トイレや台所など水まわりの修理、鍵の修理や害虫の駆除等、日常生活でのトラブルに事業者が対処する、いわゆる「暮らしのレスキューサービス」は、専門的な技術や知識がない消費者が困ったときの手助けとなる一方、全国の消費生活センター等には、料金や作業内容等で事業者とトラブルになったという相談が多数寄せられています。
独立行政法人国民生活センターによると、こうした修理に関する相談は2013年度から右肩上がりで増えており、2020年度は12月時点ですでに3,263件の相談が寄せられています。まだ、年度の途中であり、今年度末には、昨年度の件数を超えそうな勢いです(※独立行政法人国民生活センター(以下、国民生活センター)は国の機関、消費生活センターは地方自治体の機関です)。
国民生活センター相談情報部の高橋捺紀さんは「『暮らしのレスキューサービス』のなかでも、水まわりの修理に関する相談が圧倒的に多い」と言います。
図表2は、PIO-NET(パイオネット:全国消費生活情報ネットワークシステム)におけるサービスごとの相談件数です(2013年4月から2020年12月7日まで)。PIO-NETは、国民生活センターと全国の消費生活センター等をオンラインネットワークで結び、消費生活に関する相談情報を蓄積しているデータベースのことです。
本格的な冬の寒さが訪れると、暖房器具や給湯器の修理トラブルに関する相談が増えるかもしれません。
「見積もり」がきっかけに…相談事例に見られる共通点
チラシ等に「見積もり無料」と記載している事業者があり、これがトラブルのきっかけになっているケースが多々あります。
来てもらって見積もりだけで作業を断ったところ、実際は費用を請求されたり、「調査費」という名目で料金を請求されたケースもあります。また、見積もりだけのつもりで呼んでも、事業者が消費者の不安をあおって、契約を急がせることもあります。
「見積もりが欲しい」と言っただけで契約の意思を明確にせずに訪問してもらった場合には訪問販売に該当します。しかし、「修理に来て欲しい」と依頼した場合は、訪問販売に該当しません。特定商取引に関する法律では、クーリング・オフは訪問販売に該当するときに使える手段です。訪問販売に該当していても、クーリング・オフに事業者が応じないというトラブルも少なくありません。
「以前はポスティングチラシが多かったのですが、最近はインターネット広告を見て依頼したときのトラブルが増えています。安いものだと数百円~と記載されているものも。しかし、実際に依頼するとオプションで料金が積み上がり、結果的に高額になるパターンが多いですね。エアコン故障で部屋が暑かったり、水漏れで床が水浸しになっていたり、消費者も焦っているので、スマホで手軽に検索しますし、料金比較もしません。よくあるパターンとしては、後からほかの業者に聞いたら『うちならもっと安くできた』とか『ほかの方法があった』などと言われるケースですね」(高橋さん)
こうしたトラブルを防ぐため、国民生活センターでは次のようにアドバイスしています。
1.広告の表示や電話で説明された料金をうのみにしないようにしましょう
2.契約する場合は複数の業者から見積もりを取り、サービス内容や料金を十分に検討しましょう
3.緊急を要するトラブルの発生に備え、事前に情報を収集しましょう
4.料金やサービス内容に納得できない場合は、きっぱりと契約を断りましょう
5.トラブルになったときには消費生活センター等に相談しましょう
消費生活センターや国民生活センターでは、法律的なことも含めて相談者に助言をしています。そのうえで相談者が自分で事業者と交渉するのが基本ですが、なかには話を聞こうとしない悪質事業者もあります。そのときは、センターがあっせん仲介に入ります。
「火災保険の保険金が使える」の手口に注意
住宅修理などに関し、「保険金を使って自己負担なく住宅修理できる」と言って勧誘する事業者とのトラブルが急増しています。全国の消費生活センター等には、こうした相談が多く寄せられおり、2019年度は2,684件と、2010年度(111件)の約24倍に達しています。また、2020年度は12月8日時点で3,090件にのぼり、すでに前年度を上回っています(前年度同期1,620件)。
事業者による勧誘・契約は例年10月前後の秋台風シーズンに増える傾向にあります。
しかし、今年の秋は台風の接近・上陸がなかったにもかかわらず、相談件数は増えています。これから冬に入って、東京や大阪などの太平洋側が雪害に襲われる可能性はかなり低いと思われますが、この手口が減ることはないでしょう。
【参考事例】(60代女性)
事業者から電話があり、「昨年の大型台風や数年前の大雪被害で破損している箇所は火災保険で修繕できる。当社にて保険申請のサポートができる」と勧誘され、無料で修理できるならと思い、来訪を受けた。家をくまなく診断され、屋根、雨どい、外壁、外溝など合計で約200万円の見積書が出てきた。事業者の指示に従い保険金の申請をしたが、保険会社の調査による提示額は14万円。「見積額には経年劣化の部分が多く、見積もりは信用性に欠ける」と言われた。この事業者を信用できなくなり工事を断ると、診断費用を請求すると強く言われた。
工事を断っても保険金から3~5割の手数料を請求!?
「保険金で修理」の勧誘手口にはいくつかの共通点が見られます。まず、事業者は日常的に住宅街を見回りながら、屋根や雨どいなど外から破損が目視できる家を探しています。対象の家を見つけると、訪問や電話で、保険金請求のサポート契約を勧誘します。
保険金請求サポートと工事が一体になった契約では、その事業者に工事を依頼しない場合は、支払われた保険金の3~5割の手数料等を事業者に支払うと定められているケースがあります。こうした手数料等の支払いに関する説明が十分になされない場合はトラブルになります。
多くの人が契約している火災保険は、火災だけでなく風水災などの自然災害や盗難などによる損害も補償するタイプが一般的です。経年劣化による損傷は保険金支払いの対象外です。しかし、「自然災害で壊れたことにすればいい」と入れ知恵したり、わざわざ自然災害に見せかけるような細工をする事業者がいます。
契約する前に保険会社や保険代理店に相談を
国民生活センター相談情報部の小池輝明さんは次のようにアドバイスします。
「昔から巡回して屋根などの工事の訪問販売をする手法はありましたが、最近はそれに保険金の口実が加わった形です。この手口がない頃から、訪問販売への苦情・相談はたくさんありました。すぐには契約せずに、保険会社に相談したり、複数の工事会社から相見積もりを取りましょう」
屋根が壊れていると指摘されれば、高齢者などは特に焦ってしまうかもしれません。それでも、実際に保険金が出た後は冷静になって、相見積もりを取って信頼できるところに発注したいと思うようになるでしょう。
「工事を断っても3~5割の手数料や違約金を保険金から払わせようとする契約はかなり問題があります。ただ、3~5割というのは確かに高額ですが、ただちにそれが違法かといえば、そうとは断定できません。そこが巧妙なところです」(小池さん)
新しい手口としては、アンケートサイトやポイントサイトを利用したものも見られるとのこと。アンケートに回答していくと、名前や連絡先を記入するページが出てきて、勧誘のきっかけを与えることになります。戸建てに住んでいる人は日頃から住宅のメンテナンスを考えて、情報収集しておくことが大切です。
<取材協力>
独立行政法人国民生活センター