日常生活において、物をどけるように歩かなければいけない、通路が狭くて不便に感じるといった事例は数多くあり、家事の効率が悪いというケースは多々あります。だからといって「うちは狭いから」「機能的な造りではないから」と諦めるのは少し早いかもしれません。なぜなら、家事動線の悪さが家事を非効率的にしている可能性があるからです。
この記事では、家事動線の改善につながる部屋の模様替えについて解説します。
動線の基本
生活を営む際の、人の動きや移動を表す線のことを「生活動線」と言います。その中でも、炊事や洗濯など家事に際して発生する動線が「家事動線」です。家事は日常生活の中でも大きな割合を占めるため、家事動線は生活の質に大きく影響します。ここでは、動線の基本について解説します。
人が動くとき必要なスペース
・人が通る…60cm~
・横を向いて通る場合…45cm~
・ふたりがすれ違う…90~120cm
人が動く際に必要なスペースは60cmといわれています。これはあくまでも、ひとりの人間が正面を向いてゆったりと通ることを想定したスペースです。また、横歩きでは45cm、ふたりですれ違うには90~120cmの幅が必要とされています。
一方、日常生活で横歩きを強いられるのは快適とはいえません。「通れるから」という理由で通路を狭めてしまうと、非常に不便な動線になってしまいます。反対に、ふたりですれ違うことが多いからといって、120cmの幅の通路を設けるのは特別な場合を除いて難しいのが実情です。
日本の家屋は910mmを基本単位とする尺モジュールのものが多く、通路の幅もそれに準じたものになります。一般的に、通路はすれ違いに必要な最低限の幅であると考えましょう。
ソファからテレビまでの距離
ソファからテレビまでの距離…画面の高さの3倍
ソファからテレビまでの距離は、画面の高さの3倍が基本です。50インチのテレビであれば画面の高さは約62cm、基本距離は約186cmになります。
そうはいっても、2m近い距離をソファとテレビの間に確保するのは簡単ではありません。特に狭小住宅や賃貸住宅などでは難しいと考えましょう。近年は大画面のテレビが主流ではあるものの、十分な距離が確保できない空間では圧迫感の原因となり得ます。あまり大きなテレビを設置しないことも動線確保のためには有効です。
それでも距離の確保が難しい場合は、テレビを壁掛けにしてテレビ台を置かないという方法もあります。テレビ台のスペースが空くことで、部屋自体は広くなくても圧迫感のない空間が実現できます。
ソファからローテーブルまでの距離
ローテーブルとソファとの間隔…30cm
ローテーブルを置く場合は、ソファとの間隔も重要です。テーブルの高さが45cm、ソファの座面が35~42cmの場合で、30cmの距離を基本に考えましょう。膝を軽く曲げてリラックスして座るには、ある程度のゆとりが必要です。
一方、ソファに人が座った状態で、ローテーブルとソファの間を人が通る場合は、さらに広いスペースが必要です。洗濯物を干すためや隣の部屋へ移動するためにどうしてもリビングを横切らなければならないといった事情があるのなら、30cmでは狭いと感じるかもしれません。
また、小柄な人が座る分には問題なくても、大柄な人が座るには狭すぎるというケースもあります。ソファは大型家具であり、ソファそのものが床を大きく占有することを認識しておきましょう。
家事動線を考えた模様替えの手順
模様替えはイメージを具現化することから始めます。まずは自分が理想とする部屋をイメージしてみましょう。ここで大切なのは「炊事」「掃除」「洗濯」といった家事を念頭に置くことです。モデルハウスをイメージするのではなく、実際の生活パターンに沿った理想の部屋を描いていきましょう。ここでは、模様替えの3つの手順を解説します。
部屋の見取り図を描く
まずは部屋の平面図を描いていきます。建築時に渡された資料がある場合は、そのまま活用しましょう。資料がない場合は、計測しながら見取り図を描いていくことになります。
そうはいっても、一般的な家屋はそれほど複雑な構造ではありません。リビング〇畳、和室〇畳といった基本的な単位で設計されていることがほとんどです。そのため、計測は大まかにどの程度の広さがあるのかわかる程度で問題ありません。
近年ではクリック&ドラッグで間取りを自動的に作成するソフトもあります。3Dシミュレーションが可能なものも多いので活用を検討してもいいでしょう。
家事動線を念頭に家具を配置
次に家具を配置していきます。ポイントは大型家具から配置することです。冷蔵庫、食器棚などは炊事の動線を確保すること、ソファや収納棚などは掃除の動線を確保すること、洗濯機や乾燥機などは洗濯の動線を確保することを念頭に置いて配置しましょう。
見取り図上に家具を配置した、動線を計測します。先述のテレビとソファ、ローテーブルとの距離が十分に確保できているか、キッチンと冷蔵庫との間は動きやすい距離であるかなどを確認します。場合によっては、家具の配置を変える、大型家具を置かない、大きな家具を小さな家具に変えるといった思い切った変更も検討しましょう。
実際に家具を移動させる
最後に、見取り図に沿って家具を動かしていきます。基本的には大型家具から移動したほうがレイアウトしやすいでしょう。実際の配置では、作成した見取り図通りにはいかないことも少なくありません。想像していたよりも狭い、見た目の圧迫感があるといった場合は、見取り図にこだわらずに微調整を行うことも大切です。
その後は小型の家具を配置していきます。ここで大切なのは、小型の家具で部屋を埋めないようにすることです。インテリア上は必要だと感じていても実生活では必要のないものもあります。小型の家具は厳選して配置しましょう。
部屋を広く見せる模様替えテクニック
家事動線を重視して模様替えを行っていくと、確実に家の中は動きやすくなります。一方、実用性のみを考えるあまり、見た目の美しさやすっきりとした清潔感などが損なわれるのは避けたいところです。ここでは、家事動線の確保とともに、部屋を広く見せるテクニックについて解説します。
視線の「抜け」をつくる
視線の「抜け」とは、人が正面を向いたときに物と対面しないことです。そのためには、なるべく目線の高さに物を置かない工夫が必要です。一般的に、家具は高さが低いほうが、圧迫感がないとされています。収納性を重視するあまり、壁の大部分を棚として使用するのは避けたほうがいいでしょう。
現代では、テーブルと椅子の生活が定着しています。一方、日本の住宅は、欧米と比較すると尺モジュールであることに加えて、狭く間取りを仕切っているケースが多いのが実情です。目線に「抜け」がないと感じたら、ローテーブルに着座で食事をとるといった日本古来のスタイルに目を向けてみるのもいいでしょう。
床を見せる
床の面積は目に見える範囲が広いほどすっきりとした印象になります。たとえば、ボックス型のテレビボードよりも脚つきのテーブルにテレビを置いたほうが、同じスペースを使用していても軽やかな雰囲気を演出できます。
同様に、食器棚やチェストなども脚つきのものを配置することで部屋全体が広く感じられるようになります。部屋自体が狭い場合は、必要に応じて設置できる折り畳み式のテーブルや椅子を使用するのも有効です。
床に直接物を置かないことは掃除のしやすさにもつながります。底が床につく家具はどうしても家具の裏側が掃除しにくくなります。床を見せる家具を選ぶことで部屋全体を清潔に保てるでしょう。
鏡を活用する
ミラーマジックとは、鏡に床や壁を映し込むことで部屋に奥行きがあるように感じさせるテクニックです。姿見など床に直接置くタイプの鏡であれば、床がより広く感じられます。寝室などでは、向かい側の壁面に鏡を設置することで視線の「抜け」が生まれます。置き方によっては、向こう側にもう一部屋あるように感じさせることも可能です。
注意点としては、太陽光が反射する場所には鏡を配置しないことです。家事の危険性が上がるため、配置場所には気をつけましょう。
フォーカルポイントをつくる
フォーカルポイントとは、部屋の中で視線が集中する箇所のことです。部屋に入ったときに、入口から遠い場所に観葉植物があったとします。すると、人の目線は足元から遠くに移り、部屋が広く感じるという仕組みです。
フォーカルポイントに使えるアイテムとしては、観葉植物や絵画などがあります。個性的な照明やロッキングチェアなどインパクトのある家具もフォーカルポイントになり得るでしょう。また、入口からもっとも遠い壁面のみにアクセントカラーのクロスを貼るのも有効です。
まとめ
家事動線を考えた模様替えは、動きやすさや家事の効率を上げ、生活の質を向上させます。人の生活スタイルは生涯同じというわけではなく、変化していくものです。家事動線も生活スタイルの変化に伴って変えていくことで、利便性を確保できます。
また、部屋の模様替えは気分転換にもなります。何度か模様替えを行っていくことで、必要なものと不要なものが明確になり、自分に合う部屋づくりが可能になります。上手に模様替えを行って、より快適に過ごしましょう。