予防接種は「医療費控除」の対象になる? ならない? 補助金の活用も解説

医療費控除とは、納税者やその家族が1年間に支払った医療費を確定申告することで、納付する所得税を減らすことができる制度です。申告できる医療費には診察費や入院費などいろいろなものがありますが、インフルエンザの予防接種費は医療費控除の対象とならないので注意が必要です。

この記事では、医療費控除の対象となるもの、ならないもの、注意点などを解説していきます。インフルエンザの予防接種は自治体や会社から補助金が出る場合もあるので、併せて確認していきましょう。

インフルエンザなどの予防接種は医療費控除の対象外?

インフルエンザなどの予防接種はまとまった費用がかかるものの、医療費控除の対象外となっており注意が必要です。ここでは、医療費控除の仕組みや対象となる費用、ならない費用について詳しく解説していきます。

そもそも医療費控除とは?

医療費控除とは、1年間に支払った医療費が一定額を超える場合に確定申告をすると、課税所得を減らすことができ、その結果納める税金額も減らすことができる制度です。会社員などの給与所得者の場合は、確定申告をすることでいったん支払っていた税金が「還付金」という形で戻ってきます。

所得控除できる金額は「1年間に支払った医療費−保険金などで補てんされた金額-10万円」と決められており、実質支払った医療費から10万円をひいた金額を「医療費控除」として申告することができます。
たとえば、年間の医療費に50万円かかり、医療保険などから20万円の保険金を受け取った場合は、「50万円−20万円−10万円=20万円」となり、20万円を医療費控除として申告することができます 。

医療費控除できる金額は、最高で200万円までとなっています。ただし、総所得金額が200万円未満の人の場合は、控除できる金額の上限は「総所得金額等の5%まで」となっているので注意が必要です。

課税所得金額を減らせる「所得控除」については、この記事も参考にしてください。

関連記事:申告すれば戻ってくる? 「払った税金」に関する所得控除とは

医療費控除の対象となる費用・ならない費用

医療費控除で確定申告できる医療費は以下のようになっており、申告できるものと申告できないものがあります。

〇対象となる費用
医師や歯科医師による診療費/通院費/入院時の部屋代や食事代など

✖対象とならない費用
予防接種代/自家用車で通院した場合のガソリン代/美容整形費用/医師・看護師への謝礼など

医療費控除の対象となる費用は「病気を治すための費用」と考えることができ、入院時の部屋代や食事代なども含まれます。ただし、個室を希望したときの差額ベッド代は対象外となりますので注意しましょう。

人間ドッグや健康診断などの費用は医療費控除の対象外となっています。ただし、健康診断の結果、病気が発見されて引き続き治療を受けたときや、特定健康診査を行った医師の指導に基づいて一定の特定保健指導を受けたときには、これらの費用は医療費控除の対象となり、医療費控除をすることができます。また、医療費控除では、申告する本人の分だけではなく、家族が支払った医療費もまとめて申告することができます。

医療費控除の対象となる費用については、以下の記事も参考にしてください。

関連記事:交通費で医療費控除の対象になるものは? 電車、バス、付き添いはどうなる?

予防接種代を確定申告に入れてしまったら?

医療費控除の申告は比較的簡単ですが、予防接種代を入れてしまったり、支給された入院費を差し引くのを忘れてしまったりするようなミスは誰にでも起こり得ます。そのような間違いがあったときには、できるだけ早く確定申告の修正を行うことが大切です。

確定申告の期限内であれば、改めて申告書を作成して再提出をすることができます。確定申告の期限後に間違いに気づいたときには、所定の用紙を所轄税務署長に提出して修正申告を行います。

医療費控除の対象外である予防接種代を申告してしまったということは、「税額を実際より少なく申告した」ということになります。そのため、修正後は新たな税金や延滞税を納めることになります。税務署の指摘後に修正申告をした場合は「過少申告加算税」がかかることもありますので注意しましょう。

医療費控除を受ける際の注意点を確認しよう

医療費控除は所得税を減らすための効果的な方法ですが、注意すべき点もいくつかあります。それでは、医療費控除の注意点について見ていきましょう。

保険金や給付金などがある場合は差し引く

病気やケガをしたときに支給される生命保険や損害保険の保険金、高額療養費、出産育児一時金などを受け取った場合は、医療費からそれらの補てん分を差し引き、実質かかった分のみを「医療費控除」として計算します。

支払った医療費よりも受け取った保険金が多い場合は「かかった医療費はゼロ」ということになり、医療費控除の申告をすることはできません。

ただし、保険金や給付金などによる補てん分を差し引く場合は「補てん対象となる医療費ごとに行う」というルールがあります。たとえば、入院費10万円、入院に関連して受け取った保険金が15万円、歯医者の費用などその他の医療費が15万円の場合は、入院保険金のプラス5万円分を「その他の医療費」の15万円から引く必要はありません。

この場合の医療費控除は、入院関連の医療費はゼロ、その他医療費は15万円とします。そして「15万円−10万=5万円」を医療費控除として申告する金額とします。

家族の医療費も対象となる

医療費控除では、確定申告をする本人だけではなく、同居している家族の医療費も合計して申告することができます。生計を同一にしている家族であれば、単身赴任や1人暮らしの子どもなどの医療費も医療費控除の対象となります。

夫婦が共働きをしていてそれぞれが納税している場合は、家族全員の分をどちらかがまとめて申告することができます。このような場合は「収入が多く、所得税率が高い人」が申告をしたほうが、戻ってくる税金額が多くなるのでお得です。

たとえば、夫の課税所得が500万円で、妻の課税所得が300万円の場合を考えてみましょう。国税庁が定めた所得税率によると夫の所得税率は20%、妻の所得税率は10%になります。医療費控除で5万円を控除するときに還付される税金の額は、夫の場合は「5万円×20%=1万円」となり、妻の場合は「5万円×10%=5,000円」となり、夫のほうが多くなります。

このように、所得税率が高い人が申告をするとより多くの税金が還付されることになりますので、家族のなかで収入が高い人が申告するようにしましょう。

未払いの医療費は対象外

医療費控除の対象となるものは1月1日から12月31日までに支払った医療費です。そのため、たとえ診療が終わっている場合でも医療費の支払いが翌年になるものについては、その年の医療費控除の金額に含めることはできません。

たとえば、歯の治療費が100万円かかり、50万円を年内に支払い、残りの50万円を年明けに支払うような場合は、その年の医療費控除に含められる金額は50万円のみです。残りの50万円は、次の年に医療費控除として改めて確定申告をすることになります。

このように、未払いとなっている医療費がある場合は、治療そのものが終わっている場合でも医療費控除の対象とならないので注意しましょう。

インフルエンザの予防接種は補助が出ることもある

自治体や会社によっては予防接種代の一部を補助してくれるところも

インフルエンザなどの予防接種代は健康保険が適用されず、医療費控除として申告することもできません。そのため、接種費用の負担が大きいと感じる人も多くいます。ただ、自治体や会社によっては予防接種代の一部を補助してくれるところもあります。補助が受けられると費用負担が軽くなりますので、まずは自治体や会社の制度を確認してみることが大切です。

自治体の助成金制度を活用する

インフルエンザの予防接種にかかる費用は平均3,000円~4,000円となっています。家族全員が接種すると費用が数万円にのぼることもあり、予防接種費用が家計に与える影響は少なくありません。このようなことから、自治体のなかにはインフルエンザ予防接種の助成金制度を設けているところがあり、対象者は補助を受けることができます。助成の対象者としては、感染すると悪化しやすいお年寄りや、2回接種しなければならない子どもが多くなっています。

助成内容は「65歳以上は無料」「65歳以上は1,500円のみ自己負担」「小学校卒業まで1回の接種につき1,000円を助成」など、自治体によって異なります。予防接種の費用負担を少しでも減らすために、自分が住んでいる自治体の助成制度を一度しっかりと確認してみてください。

会社や健康保険から補助が出る場合もある

会社の組合健保や国民健康保険組合からも、自治体と同様にインフルエンザの予防接種に補助が出ることがあります。この場合も「被保険者のみ」「扶養者全員」など、条件が細かく違います。また、補助金額も健康保険組合ごとに異なりますので、しっかりと確認することが大切です。

ただし、中小企業の加入者が多い「全国健康保険協会(通称協会けんぽ)」の場合は、法律で決められた法定給付のみの実施となっているためインフルエンザの予防接種に対する補助金制度はありません。ただ、福利厚生の一環として補助金を支給している会社もあるのでここまで会社に確認してみるとよいでしょう。

医療費控除は対象外でも予防接種の領収書は保管しておこう

予防接種を受けている人は領収書を証明書として提出すれば、セルフメディケーション税制を利用することが可能

インフルエンザの予防接種費用は医療費控除の対象ではありません。しかし、予防接種の領収書はセルフメディケーション税制を利用したいときに役に立つので、念のために保管しておくことをおすすめします。

セルフメディケーション税制とは、対象となる市販の医薬品の購入額が1万2,000円を超えた場合に受けられる医療費控除の特例のことをいいます。通院ではなく、市販薬によるセルフメディケーションが中心の家庭でも税の優遇が受けられる、とてもお得な制度です。

この税制の対象者は「健康の保持増進や疾病予防の取り組みを行っている人」となっています。予防接種を受けている人は領収書を証明書として提出すれば、セルフメディケーション税制を利用することができます。

お得なセルフメディケーション税制については、以下の記事を参考にしてください。

関連記事:風邪に花粉症に…薬を買う季節、12,000円以上で税金が戻ってくる セルフメディケーション税制申請を忘れるべからず

まとめ

インフルエンザなどの予防接種代は医療費控除の対象となりませんが、自治体や会社の健康保険組合で補助金を受けられる場合があります。予防接種は1回当たりの費用が大きく、家計への負担も大きくなります。予防接種代の負担を軽くしたい場合は、補助金を受けられるかどうかをぜひ確認してみてください。

 

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