マンションやオフィスビルといえば鉄筋コンクリート造の建物をイメージしますが、最近は木造のものがジワジワと増えています。木造でも耐震性や耐久性、耐火性などを確保できるようになって、木の良さが改めて見直されているようです。木造の建物に暮らすことのメリットはどんな点なのでしょうか。
なぜ今、木造の高層マンションなのか?
2020年2月、野村不動産が日本初の木質系構造部材を使った高層分譲マンション、「プラウド神田駿河台」(東京都千代田区)計画を発表して話題になりました。設計・施工は木造ビルの実績が豊富な竹中工務店で、柱や壁などの構造部や内装材に国産木材を使用しています。完成予想図にあるように、都心でも比較的緑の豊かな場所に、木質感を生かした外観デザインが溶け込んでいます。
竹中工務店が開発した「CLT(直交集成板)耐震壁」「LVL(単板積層材)ハイブリッド耐震壁」を採用して高耐震性を確保すると同時に、木材であるため、鉄筋コンクリートに比べて軽量で、コストダウンが図れるというメリットもあります。
この「プラウド神田駿河台」は、JR中央線・総武線の御茶ノ水駅から徒歩5分の場所にあって、地上14階建てで、総戸数が36戸となっています。
参考サイト
プラウド神田駿河台公式ホームページ
住む人も外を歩く人にも心身を癒すリラックス効果
では、なぜ今、木造の高層マンションなのでしょうか――野村不動産では、鉄筋コンクリート造にない木造のメリットについて、次のような点を挙げています。
1.内装の木質化を高めた部屋は、リラックス効果により良質な睡眠をもたらす
2.スギなどの針葉樹には血圧低下の機能があり、リラックスできる
3.木材の活用で、山林の活力を取り戻し、CO2削減につながり、土砂崩れなどの自然災害の防止にも役立つ
4.断熱効果と吸熱効果により、建物を支える柱を火災の熱から守る
5. 「CLT耐震壁」「LVLハイブリッド耐震壁」で高耐震性、高生産性を確保できる
6.木が醸し出す温もりと上質感、癒し効果がある
以上のような点から、住む人にさまざまな安全・安心や癒し効果が期待できると同時に、木質感のある外観デザインから周辺に住む人、働く人にもやすらぎを与える効果が期待できるのではないでしょうか。
5階建ての木造マンションでも耐震性能向上
2×4(ツーバイフォー)工法の大手住宅メーカー・三井ホームは、2020年11月から東京都稲城市で、木造大規模中層マンション「(仮称)稲城プロジェクト」に着手しました。
最寄り駅は京王相模原線の稲城駅で、徒歩4分の場所にあります。建物は5階建てで、1階が鉄筋コンクリート造、2階から5階が木造になっています。総戸数は51戸です。
三井ホームは、注文住宅だけではなく、保育園、老人ホームなどの住宅以外の施設系建物にも力を入れています。木造ですから、子どもたちやお年寄りが転倒しても木材のクッション効果で重大な事故になりにくいというメリットがありますし、何より小さな子どもたちやお年寄りにとっては、木の持つ癒しや健康などへの効果が期待できます。
すでに施設系では1階が鉄筋コンクリート造、2階から上が木造の4階建て、5階建てを多数手がけています。木造による高層ビルやマンションなどの建築が法律で認められているアメリカやカナダでは、7階建てのマンションなどを手がけてきた実績もあるそうです。それが今回の計画に生かされるわけです。
地震の揺れに強い壁を開発しつつ、環境にも貢献
1階は鉄筋コンクリート造とはいえ、2階以上が木造となると、地震への備えが心配ですが、三井ホームでは、木造中層建築物で耐震等級3を実現する高強度耐力壁を開発しています。
耐震等級3というのは、住宅性能表示制度の最高等級で、建築基準法では震度7程度の大地震でも倒壊しないことが条件となっています。
2×4工法と呼ばれる枠組壁工法においては、国内最高レベルの壁倍率30倍を実現しました。壁倍率というのは、壁の強さを表す単位で、建築基準法に定められた通常の木造住宅では、壁倍率は3倍から5倍ですから、その10倍程度の強さがあるということになります。
注文住宅のコマーシャルで、「震度7に60回耐えた家。」と地震に対する強さを前面に打ち出しているだけのことはありそうです。それが中層マンションにも生かされているということでしょう。
そうした技術力の高さが認められて、「国土交通省令和2年度サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)」に採択されています。
先の「プラウド神田駿河台」でも触れましたが、マンションやビルにも木材が利用されるようになれば、地球環境の維持にも貢献しますし、同社としては今後も木造中層建築物の普及にさらに力を入れていきたい方針です。
国内最大・最高層の木造オフィスビル計画も!
マンションや各種施設だけではなく、オフィスにも本格的な木造化の波が訪れようとしています。
2020年9月、三井不動産と竹中工務店が、東京都中央区日本橋1丁目において、木造高層建築物としては国内最大、最高層となる木造賃貸オフィスビルの建設計画を発表しました。地上17階建てで、高さは約70メートル、延床面積は約2万6,000平方メートルです。
使用する木材量は約1,000立法メートル超となり、三井不動産グループが北海道に保有する森林の木材を積極的に活用する方針です。それによって、建設資材の自給自足、森林資源と地域経済の持続可能な好循環を目指します。
三井不動産グループでは、SDGs(持続可能な開発目標)に取り組んでおり、目標13の「気候変動に具体的な対策を」、目標15の「陸の豊かさも守ろう」など7目標への貢献を意識しているそうです。
構造材のほか、さまざまな部位に木材を活用
地上17階建てのビルですが、完成予想図にあるように鉄筋コンクリート造の無機質な外観ではなく、木材をふんだんに使ったうるおいを感じさせるデザインになります。三井不動産グループでは、これまでもマンションフローリングやその下地材、バルコニーの天井や床材、オフィスや商業施設の椅子やテーブルなどの什器などに木材を活用してきましたが、今回の計画でも外装材を含め、あらゆる部位に活用します。
三井不動産では、オフィスを木造化することのメリットとして、
1.木材で構造体を形成するため、構造体が軽く、基礎工事などに手間がかからず、ある程度の耐火効果を有しているので下処理が簡単など、コストが安くなる
2.木造住宅には香りや視覚による癒し効果があるといわれる。天然の木材を利用すれば、自然の魅力がある、あたたかみのある空間になる
3.室内の空気が乾燥すると木材のなかに蓄えていた水分を放出、乾燥を緩和し、湿気が多い時期には空気中の水分を木材が吸い込むなど湿気を調整する機能がある
などの点を挙げています。
こうした効果から、今後ともマンションや各種施設、そしてオフィスビルにおいても木造化が進んでいくことになりそうです。何年かすれば木造のマンションに住んで、木造のオフィスに通う――そんな時代がくるかもしれません。
(最終更新日:2021.03.05)