新型コロナウイルス感染症拡大がやまず、経済の先行きは不透明で、収入などへの不安も尽きません。収束への兆しがなかなか見えてこないため、この状態が長く続き、不動産価格や家賃も下がるのではないかと考える人が少なくないようです。であれば、当面はマイホームの取得は控え、価格が落ち着いてからでいいのでないかという気になりますが、果たしてほんとうにそうなのでしょうか。
コロナ禍の収束には数年かかると見る人が9割近くに
ヨーロッパやアメリカでは新型コロナの感染者数が再び増加しており、わが国でも、寒さが本格化しつつある北海道をはじめ、全国で感染者が急増して不安が強まっています。
そんななか、アパート建設などの大東建託が新型コロナウイルス感染症の影響に関する調査を行っています。今回の調査は9月に実施され、6月実施に続く2回目になります。
図表1をご覧ください。「コロナの収束には数年かかると思う」かどうかを聞いたところ、87.6%、9割近い人がそう思うと回答しています。
ポストコロナはまだまだ先のことで、当面はウィズコロナが続くと見ているわけで、そのため、「コロナで社会は大きく変わると思う」とする人が74.2%に達しています。
住宅関連では、「これから不動産価格は下がると思う」とする人が67.6%で、「これから家賃は下がると思う」が56.2%という結果でした。一般に不動産価格に比べて賃料は下がりにくいといわれていますが、それでも半数以上の人が家賃も下がるとしているのです。
半数以上が郊外や地方の人気が高まると回答
と同時に、人気のエリアに関しても変化が起きているようです。
周知のように、コロナ禍によって在宅勤務が増加、通勤時間や最寄り駅からの徒歩時間などをさほど気にせずにマイホームを選択できるようになりました。これまでは、通勤や通学の負担を考えて、多少高くても、狭くても、都心近くの住まいを選ぶ人が多かったのですが、在宅勤務が前提なら、それにこだわる必要はありません。都心から離れていてもいい、最寄り駅からの徒歩時間が長くてもいい、極端にいえば地方でもいいのではないかということになります。
事実、この大東建託の調査でも、「これから郊外の人気が上がると思う」とする人が57.6%、「これから地方の人気が上がると思う」とする人も57.7%と、6割近くになっています。
直近では価格や家賃の上昇傾向が続いている
しかしながら、現在までのところ不動産価格や家賃下落の気配はありません。
不動産経済研究所の調査によると、2020年度上半期(20年4月~9月)の首都圏の新築マンションの平均価格は6,085万円。前年度同期に比べると1.3%の上昇で、近畿圏に至っては平均4,017万円で7.1%も上がっています。コロナ禍なにするものぞ、と言わんばかりの勢いです。
賃料についても同様。東京カンテイの調査によると、図表2にあるように、首都圏の分譲マンションの1平方メートル当たりの単価は、2019年9月の2,866円が、2020年9月には3,143円と9.7%も上がっています。近畿圏も1,918円から1,937円に1.0%のアップで、中部圏は1,672円から1,704円に2.0%の上昇です。
住宅市場の先細りがますます深刻になる可能性
とはいえ、コロナ禍で、住宅市場が弱含みになっていることは間違いありません。
新築マンション価格は上がっているとはいえ、供給戸数は急速に減少しているのです。というよりも、発売を絞り込むことで価格を維持しているというのが現実かもしれません。住宅市場全体の先細り感が強まっているのです。
たとえば、年間の新設住宅着工戸数は図表3にあるように、2018年度には95.3万戸でしたが、2019年度には88.4万戸に減少し、コロナ禍の影響を受けて、2020年度はさらに減少の見込みです。住宅生産団体連合会が、大手住宅メーカー15社の経営者にアンケート調査した結果の平均は78.5万戸でした。そうなると、2年間で16.8万戸も住宅建設が減少するわけで、これは住宅業界、不動産業界、建設業界に深刻な打撃を与えます。
実際に80万戸割れとなれば、リーマン・ショック直後の2009年度の77.5万戸以来のことです。
大手中心の市場は焦って値下げに動かない
新設住宅着工戸数や販売戸数が減ってくれば、値下げによって売り上げを確保しようとする動きが出てくるでしょうが、それはまだしばらく先のことになりそうです。
というのも、新築マンションや区画数の多い大規模建売住宅を分譲するのは、大手不動産、大手住宅メーカーなどが中心であり、多少経営が厳しくなっても、他の分野の経営基盤が安定しているので、焦って値下げに動く必要がないのです。大手不動産なら、都市開発やオフィスビルなどがありますし、住宅メーカーも大手では住宅分野の比重は小さくなっており、物流施設、ホテルなどへの多角化が進んでいます。
大手住宅メーカーは、値下げではなく、付加価値を高めることで1棟当たりの単価を引き上げ、売上高を維持しようとする戦術をとっているほどです。
中長期的には価格低下の動きが始まる可能性も
足元ではなかなか下がる気配はありませんが、中長期的に見ると、価格が下がる兆しが見られるようになってきました。
新築住宅では、土地の取得費と建築費が価格を構成する重要なファクターになりますが、上昇が続いたり、高止まりしたりしていた地価や建築費に下落の傾向が表面化しているのです。
地価については、2020年9月30日に発表された「令和2年都道府県地価調査」では、図表4にあるように、住宅地は全国平均で-0.7%となり、2019年の-0.1%からマイナス幅が拡大しました。三大都市圏では2019年まで上昇だったのが、2020年には下落に転じました。これは、本格的な地価下落の始まりかもしれません。
実際、著者が知るマンション分譲会社大手の土地仕入れ担当者は、「コロナ禍で最大のライバルだったホテル業者が撤退、コロナ以前より安く仕入れられるようになっている」と言っています。
主要建材の需要も減少し建築費下落につながるか
建築費に関しても、このところ高止まり傾向が長く続いてきましたが、さすがにコロナ禍で需要が減少したため、下落の可能性が強まっています。
図表5にあるように、セメント、骨材、木材などの主要建材の需要見通しはほとんどマイナスになっています。需要が弱まれば需給バランスが崩れて、価格は下がります。建築費の場合、人件費が大きな比重を占めるため、資材価格の低下がすぐに建築費ダウンにつながるわけではありませんが、ジワジワと下がる可能性が高いのではないでしょうか。
値下がりした土地に、安くなった建築費でマンションや一戸建てを建てることができれば、新築住宅の価格低下につながります。
ただし、そうした物件が市場に出てくるまでには、一戸建てでも半年や1年はかかりますし、大規模なマンションだと2年、3年かかることがあります。
急がないならジックリと腰を据えて市場を見極める
以上のように見てくると、今のところ住宅価格の下落は表面化していませんが、中長期的にはマンションや一戸建てなどの住宅価格の低下が始まる可能性があることがわかります。
いつからとは断言できないので、急いで住まいを取得しなければならない人は別ですが、さほどマイホームの取得を急がなくてもいい人であれば、ここはジックリと腰を据えて、市場の動きを見ながら買い時を判断してもいいかもしれません。
※本記事は、執筆者の最新情勢を踏まえた知識や経験に基づいた解説を中心に、分かりやすい情報を提供するよう努めておりますが、内容について、弊社が保証するものではございません。