永住権は一般的な在留資格とは異なり、在留期間に制限がなく、日本で安定した暮らしが送れるようになります。就業制限もなくなり、住宅ローンも組みやすくなるため、日本に長く生活する予定の外国籍の方にはなくてはならないものといえるでしょう。ここでは、永住権取得のための要件や申請方法をご紹介します。
永住権があれば在留期間の制限がなくなる
永住権とは在留資格の一種で、「外国籍の方がその国の国籍を持たなくても永住できる権利」です。一般的な在留資格では、在留期間や就ける職業などに制約があります。しかし、在留資格の中でも最上位の永住権ともなると、在留期間や就ける職業の制約も取り払われます。
申請書類が多いうえ、条件が厳しいということもあり、日本は先進国の中で最も永住権の取りにくい国ともいわれます。とはいえ、その困難を乗り越えている人は決して少なくありません。法務省によると、2020年6月末現在で在留資格を持つ外国人は約288万人で、そのうちの3割弱に当たる約80万人が永住権の所有者でした。
参考サイト
法務省:令和2年6月末現在における在留外国人数について
帰化や定住者との違いは?
永住権とよく比較されるのは「帰化」や「定住者」です。
帰化とは、本来の国籍を離脱して、日本国籍を取得することです。永住権の場合、国籍は変わりません。また、定住者の場合は、在留期間に制限のない永住権とは違い、在留資格が5年、3年、1年などと制限があります。
それぞれ次のような違いがあります。
永住権を取得するメリット
いくつか例外はありますが、永住権を得ることで、外国籍の方でもほとんど日本人と変わらない生活ができる」と考えていいでしょう。具体的には以下のようなメリットがあります。
就職・転職の制限がなくなる
一般的な在留資格での就労は、「不可」か「許可された範囲に限り可能」となります。しかし、永住権があれば、こういった制限がなくなります。
信用力が増す
取引先からの信用が増したり、職場内での扱いもよくなったりする可能性があります。事業資金の調達など銀行との付き合いもスムーズになることが多いです。住宅ローンや教育ローンも組みやすくなります。
配偶者や子どもなどの永住権取得にも有利になる
永住権所有者の配偶者や子どもの場合、永住権取得の要件が緩和されます。永住が日本にとって利益になることと、身元保証人の確保が可能であることが要件です。
パートナーとの離婚や死別でも在留資格の変更が不要
「日本人の配偶者等」で在留資格を得ている場合、パートナーとの離婚や死別で在留資格を変更する必要があります。永住権の所有者ならば、特に手続きをせずに日本に住み続けることができます。
永住権を取得するには3つの要件を満たす必要がある
永住権を取得するには、特例扱いを受けない限り、3つの条件すべてを満たす必要があります。
違法な行為や風紀を乱す行為をしてないこと
まず、「素行が善良であること:法律を遵守(じゅんしゅ)し日常生活においても住民として社会的に非難されることのない生活を営んでいること」(素行善良要件)です。
日本の法令に違反し、懲役・禁錮(きんこ)・罰金・拘留などを受けたことがある場合はこの条件を満たしません。ただし、懲役・禁錮の場合で刑務所から出所後10年以上など、それぞれの処罰ごとに一定期間が過ぎると、なにもなかったのと同じ扱いに戻ります。
また、交通違反や入管法違反、街宣活動などをし、受けた処罰が軽いものであっても要注意です。繰り返し行っていることが問題となり、申請が却下されることがあります。
独立した生計を維持できること
次に、「独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること:日常生活において公共の負担にならず、その有する資産又は技能等から見て将来において安定した生活が見込まれること」(独立生計要件)があります。
シンプルにいえば、「これから先も、経済的に自立して生活していけること」です。最終的な判断は地方出入国在留管理官署が複合的な判断をするため一概にはいえませんが、よくいわれている目安は年収300万円程度です。これは個人ではなく、世帯単位で判断されるので、収入のある人が複数いれば、その合計で判断されます。
永住が日本の利益になること
最後に、「その者の永住が日本国の利益に合すると認められること」(国益適合要件)が必要です。
この中には以下の4つの項目が挙げられています。
(ア)原則として引き続き10年以上在留していて、そのうち就労資格または居住資格での在留が5年以上である。
(イ)罰金刑や懲役刑などを受けていない。納税、公的年金などの公的義務を適正に履行している。
(ウ)現在持っている在留資格が、その規定上最も長い期間で在留していること。
(エ)公衆衛生上の観点から有害となるおそれがない。
出典:法務省「永住許可に関するガイドライン(令和元年5月31日改定)」
(ウ)には少し注意が必要です。現行法では「5年」が最長の在留期間です。しかし、法務省からも通達が出ていて、今のところは「3年」でも最長の在留期間として扱われています。
また、これらを満たしていなくても特例(例外)として資格が認められる場合があります。次に、この特例について詳しく解説します。
国益適合要件の特例を満たしていれば永住権を取得できる可能性も
国益適合要件の特例には、次のようなものがあります。
・日本人・永住者・特別永住者の配偶者の場合、実体を伴った婚姻生活が3年以上継続しており、しかも1年以上日本に在留している。実子や特別養子縁組の場合は、1年以上日本に在留している。
・定住者の在留資格で5年以上在留している。難民の場合も難民認定後5年以上在留している。
・外交・社会・経済・文化などの分野で日本への貢献があり、5年以上在留している。
・高度人材外国人である。必要な在留期間は、学歴・職歴・年収など、「出入国管理及び難民認定法」に従って法務省出入国在留管庁が行う評価(高度人材ポイント制)により異なり、70点以上ならば3年以上、80点以上ならば1年以上。
永住権を取得するにはどのような手続きが必要なのか?
永住権の申請には、以下のような手順や準備が必要です。
永住権の取得に必要な書類を準備する
永住権の申請には、以下のものをそろえて住居地を管轄する地方出入国在留管理官署に提出する必要があります。
・申請書
・写真
・立証資料
・身元保証書
「立証資料」とは申請内容を証明するためのもので、申請人が「日本人の配偶者・永住者の配偶者」「定住者」「高度人材外国人」などで必要なものが異なります。たとえば、「永住者の配偶者」ならば、婚姻証明書かそれに準ずるものを提出しなければいけません。
また、提示しなければいけないのは、次のものです。
・在留カード(あるいは、外国人登録証明書)
・資格外活動許可書(交付を受けている場合のみ)
・旅券、または在留資格証明書(提示できない場合は、その理由書を提出する)
・身分を証明する文書など(法定代理人などの申請取次者が申請書を提出する場合のみ)
参考サイト
法務省:永住許可申請
申請には身元保証人も必要
提出書類のひとつ、身元保証書を用意するには保証人を確保し、その人に必要事項を記入してもらわなければいけません。身元保証人になれるのは、日本人か永住者だけです。しかも、安定した収入があり、納税義務を果たしている必要があります。身元保証人に関する書類として、職業を証明する書類、過去1年分の所得証明書、住民票が必要です。
参考サイト
永住許可申請1|法務省
保証する内容は、滞在費・帰国旅費・法令の遵守の3点です。とはいえ、法的な強制力はありません。たとえば、保証した相手が滞在費などを支払えなかった場合に肩代わりしなくても、罰則はありません。ただし、社会的な信用を失ったり、次回以降、永住権申請者の身元保証人にはなれなかったりする可能性があります。
審査にはどのくらいの期間がかかる?
申請してから結果が出るまでの期間は、法務省のホームページでは「4ヶ月」と説明されています。しかし、現実には6ヶ月~1年かかることが大半です。
永住権の申請が不許可になった場合はどうすればいい?
結果が不許可でも、必ずしもあきらめることはありません。再申請も検討しましょう。
不許可になった理由を確認する
不許可になる理由には次のようなものが考えられます。
・本人や家族に社会保険の未納があった。
・頻繁、あるいは長期に日本国外に出かけている。
・正確に計算してみたら、居住歴が足りなかった。
・世帯年収が目安とされる金額に達していない。
・交通違反を繰り返している。
これらは永住権取得のための3要件、素行善良要件・独立生計要件・国益適合要件での判断です。また、「永住権の要件は十分に満たしていても、書類の不備ではねられる」といったことも珍しくないようです。
不許可の知らせには理由が書かれてはいますが、「これまでの在留実績及びその間の在留状況からみて、永住を許可するに足る理由があるとは認められません」といった内容で、はっきりした理由は書かれていません。そのため、不許可の理由は申請を出した地方出入国在留管理官署で確認する必要があります。ただし、1回限りとなるので、この機会を無駄にしないためには、行政書士などの専門家に同行してもらうことも考えたほうがいいでしょう。
不許可になった理由をふまえて再申請する
再申請には、「○ヶ月空けなければいけない」といった決まりはなく、すぐにでも出せます。しかし、不許可の理由を是正しないと前と同じ結果になるだけです。
書類の記入の不備や、説明のための資料が不足しただけならば、すぐにでも出し直せばいいでしょう。しかし、居住歴が足りない・世帯年収が低いなどといったように要件を満たしていないのならば、それらが改善するまで待つ必要があります。
また、不許可の理由はひとつだけとも限らず、すべてを自分では見つけられないかもしれません。このような場合にも、行政書士などの専門家の力を借りたほうがいいでしょう。
まとめ
一般的な在留資格では、「住宅ローンが組めない」「思ったように就職・転職できない」など不便な点があります。永住権を取得すれば、これらがなくなります。3つの要件を満たす必要がありますが、約80万人もの人が実際に取得して日本で暮らしています。まずは、自分が要件を満たしているかを確認し満たしているのならば、書類を準備して地方出入国在留管理官署へ申請しましょう。