新型コロナウィルス感染症拡大の影響でテレワーク勤務が定着し、通勤手当が廃止され実費精算に切り替える企業についての報道が相次いでいます。通勤手当が廃止されると家計や社会保険料にどのような影響があるのでしょうか。税金や社会保障といった制度面と、ライフスタイルの変化に伴う家計変化の両面から見てみましょう。
そもそも「通勤手当」とは?
通勤手当とは会社が従業員の通勤にかかる費用を一部、または全額を支給することです。
実は会社側に法律上の支給義務はなく、就業規則や給与規定など会社と従業員の個別の取決めによって通勤手当の支給の有無や支給額が決まります。
非課税となる通勤手当の範囲
支給された交通費は一定額までは非課税です。たとえば鉄道やバスなど公共の交通機関を利用して通勤している場合、月額15万円までは非課税です。また、車やバイク等を利用して通勤している場合は、通勤距離に応じて非課税額の上限が決まっています。
通勤手当が非課税となるためには通勤経路や利用する交通手段が「最も合理的かつ経済的な経路を利用すること」という制限は付きますが、たとえば1ヶ月の通勤費が1万円であれば、1年間に支給される交通費12万円は給与明細には記載されているものの、課税対象にはなりません。
また、給与明細には記載されていますが、毎年年末調整後に受け取る源泉徴収票の「支給金額」いわゆる額面の年収に通勤手当は含まれません。
通勤手当を「実費精算」に切り替えが一般的
通勤手当が廃止された後は、会社までの交通費は手当ではなく出張費などと同じ実費精算となるのが一般的です。一度従業員が立て替え払いをしてから、月締めなどで1ヶ月分の交通費として請求する、という手間がかかります。
また、通勤費が定額でなくなるため、家計用と通勤費の電子マネー等カードを分けるなど、従業員側で金額を管理しやすくする工夫も必要です。
通勤手当は非課税だが社会保険料の対象になる
通勤手当は税制上非課税ですが、社会保険料の計算には含まれます。
ややこしいところですが、税金を計算する上での課税所得には含まれませんが、厚生年金保険料や健康保険料、雇用保険料など社会保険料を計算するときの算定基準額である「標準報酬月額」には含まれます。
標準報酬月額とは?
手当などを含めた会社からの毎月の報酬を、一定の金額の幅ごとに段階に分け、その段階ごとに保険料を算出するものです。上限はあるものの、標準報酬月額が増えれば社会保険料は増え、標準報酬月額が減れば社会保険料も減ります。
標準報酬月額は、毎年9月に4月から6月までの報酬の平均額から金額が決まります。下表は令和2年10月納付分からの厚生年金保険料を算定するための表です。
たとえば手当を含めた現在の1ヶ月の給与が28万円だと、通勤手当の1万円が減って27万円となった場合、標準報酬月額の等級は同じ18等級のままなので、厚生年金保険料の算出基準は28万円のまま変わりません。
しかし、27万円の給与だった場合、通勤手当の1万円が減ると、標準報酬月額は17等級の26万円となります。自分の給与から支払う厚生年金保険料は22,260円から20,670円に1,590円減り、年間では19,080円の厚生年金保険料が減ります。
このように、通勤手当がなくなっても、標準報酬月額の等級が変わらなければ厚生年金保険料は変わりません。健康保険料や雇用保険料についても等級の区分は異なるものの、算定の仕方は同様です。
しかし、喜んでばかりはいられません。
支払う厚生年金保険料が減れば、それに合わせて将来受け取る老齢厚生年金も減ります。
たとえば、今後退職までの20年間、毎月1万円の通勤手当がなくなったとすると、将来受け取る厚生年金の額は年間で約1.4万円減ります。
※1万円(通勤手当)×0.005769×240ヶ月=1万3,845円(1円未満切り捨て) 賞与はなしの場合
蛇足ですが、扶養の範囲で働く場合、税金の計算の元になる課税所得に通勤手当は含みませんが、社会保険上の扶養を受けるための106万円の壁や130万円の壁の計算には通勤手当や交通費も含みます。
通勤手当がなくなる場合、出勤数に応じた交通費の支給額を把握しておく必要が出てきそうです。
家計への影響は通勤手当廃止だけにあらず?
以上のように、通勤手当がなくなることで、社会保険料や将来の厚生年金額に影響が出ることがわかりました。
しかし、当面の家計では通勤手当だけでなく、テレワークで在宅時間が長くなることで増える費用も問題です。
たとえば、テレワークで増える家計費としては、水道代、電気代といった水道光熱費があげられます。私の身近なところでも、テレワークで水道代が4,000円も増えたと配偶者からクレームがきたという笑えない話もあります。
自粛が始まった3~4月ごろは、パソコンやモニターはもちろんマイクやWEBカメラ、照明といったPC周辺機器も品切れになっていました。
仕事スペースを作るためのデスクや長時間座っても疲れないチェアなども、入荷までに時間がかかりました。また、ネット環境を整えるために速度制限やデータ量制限がない、定額制の回線に新たに申し込んだ人も多いと思います。
こうした、テレワークのための環境を整えるための初期費用と、通信回線のランニングコストなど、あらたなコストも家計費の負担になります。
会社によっては通勤手当に代わってテレワーク手当を出す企業もあるようですが、その金額は数千円程度の会社が多く、とても実際の負担増を補えるものではありません。
もし自分の会社がテレワークに移行したとしたら、通信費や水道光熱費、通信費の増加に対して、減らせる家計費は何があるのか、一度家計の現状を把握して、予算を組み直してみてはいかがでしょう。