マンションは建物内の共用部であるエントランス、エレベーターホール、共用廊下などで人と接触する可能性が高く、新型コロナウイルスの感染を懸念する人が少なくありません。しかし、最近ではそんな不安を払拭するさまざまな非接触型の最新機器、設備が次々と開発され、導入が進んでいます。
エレベーターをボタンに触れずに呼べる
エレベーターは“3密”になるリスクが高く、ボタンに触れなければならないため、マンションの中でも、一番不安な場所かもしれません。しかし、そんな不安を解消する仕組みが登場しています。
たとえば、日鉄興和不動産が、「(仮称)神奈川県横浜市中区翁町二丁目共同住宅新築工事」に、エレベーターメーカーのフジテックが開発した標準型マシンルームレス・エレベーター「エクシオール」を採用します。
分譲マンションに、「エクシオール」が設置されるのは初めてのことだそうです。ちなみに、マシンルームレス・エレベーターというのは、巻き上げ機などをコンパクトにして、屋上機械室が不要になるエレベーターのことです。
この「エクシオール」では、赤外線ビーム式のセンサーを用いた「非接触ボタン」に手をかざすだけでエレベーターを呼ぶことができます。エレベーターのかごの中でもやはり非接触で行き先階を指定でき、ボタンに手を触れることなくエレベーターの乗り降りが可能になります。
また、エレベーターの乗り場にあるインジケーターに、写真にあるように混雑度が表示され、「混んでいるから階段を使おう」「乗っている人がいるので、降りる人のためにドアの脇に立とう」といった判断が可能になります。エレベーター内外での”密”を避けることができます。
検温とAI顔認証エントランスシステム
不動産分野のAI、IoTを推進するライナフは、オートロックのエントランスに設置するだけで、検温すると同時に、顔認証によってエントランスを解錠する「AI顔認証エントランスシステム」を開発しました。
同社のエントランスシステムである「ニンジャ・エントランス」と組み合わせることでイラストにあるように、検温をすませて、エントランスのドアを非接触で開けることができるようになります。検温の結果は、アプリでチェックできるので体調管理にも便利です。
入居者の検温はもとより、マンションに出入りする配達員、工事業者、清掃員などの検温も可能なので、マンション全体のコロナウイルス対策にも効果的です。ウィズコロナでは、マスクが不可欠で、帽子やサングラスをつけたまま入ってくる人もいますが、それでも検温や顔認証には問題がないとしています。
ライナフによると、2020年11月頃から「AI顔認証エントランスシステム」の提供を始めるそうです。
エントランスから玄関ドアまでノータッチ
東急不動産グループの東急住宅リースが管理する「東京ポートシティ竹芝 レジデンスタワー」。2020年6月に竣工した総戸数262戸の高級賃貸住宅で、最新の顔認証システム、スマートロックが採用されています。
エントランスでは顔認証によってドアが開き、エレベーターホールでもやはり顔認証でエレベーターを呼ぶことができ、事前に登録しておけば、自宅階が自動的に指定されるので、ハンズフリーで自宅玄関に向かうことができます。
荷物が多いときや小さな子ども連れのときでも鍵を出す手間が不要で、何よりインジケーターなどに触れることがないので、ウィズコロナ時代にも安心のシステムです。ポスト一体型の宅配ボックスにも顔認証技術が採用されているので、安全・安心です。
さらに、全住戸の玄関やオートロックのエントランスなどにスマートロックが導入されています。スマホで、鍵に触れることなく解錠が可能となり、家族の帰宅についての履歴が分かるので子どもたちの見守り機能も果たしてくれます。
玄関の土間から直接浴室に入れる安全性
ウィズコロナ時代の新生活様式の基本は手洗い、うがい、換気などですが、マンションでは玄関から洗面所が遠かったり、換気の良くないスペースもあります。
そこで、野村不動産が神奈川県藤沢市で開発を進めている「プラウド湘南藤沢ガーデン」では、「DOMA-STYLE」として、帰宅後すぐに手洗いできるように配慮した間取りプランを用意しています。
通常のマンションのように玄関から、廊下を経てリビングに向かう動線のほか、玄関のたたきから居室スペースなどを通らずに、直接洗面所、浴室に進める動線を確保しているのです。
しかも、玄関スペースを通常のマンションより広くとり、窓付き、タイル張りの土間スペースを設けています。土間スペースは部屋の中に入れたくないアウトドア用品、ベビーカーなどの置き場所として利用できます。
また、土間から直接洗面所や浴室に向かえるので、外で運動したり、遊んできた子どもや散歩に連れて行ったペットについた泥汚れ、手についた雑菌などを居室部分に持ち込むことなく、清潔な空間を維持できます。
さらに、ほとんどのマンションでは玄関や、玄関に併設されたシューズインクロゼットには窓がありませんが、この土間スペースには窓が付いているので、コロナウイルス対策に大切な換気面での不安もなくなります。
共用部のコワーキングスペースに個室ブース
最近は、空港、鉄道の駅、大規模商業施設などでサテライトオフィス的に利用できる個室ブースを設置するケースが増えています。
それを新築マンションの共用施設に設けて、住んでいる人が仕事に集中できるように配慮した物件が増えています。
自宅内の専有面積には限りがありますから、独立性の高いワークスペースを確保しにくいケースがありますし、設置できたとしても、家族がそばにいると、なかなか落ち着いて仕事ができないものです。それに、オンとオフの切り替えも難しくなりがちです。
それが、共用部の個室ブースなら、同じ建物内であっても、いったん自宅から出ることで、オンオフの切り替えが可能になって、仕事に集中しやすくなるのではないでしょうか。
たとえば、三井不動産レジデンシャルなどが、東京都中央区勝どきで開発を進めている「パークタワー勝どきミッド/サウス」がそうです。総戸数2,786戸というメガマンションにふさわしく、約300平方メートルの広いコワーキングスペースが設置され、そこに個室ブースが設けられます。
個室ブースですから、ウイルスを気にすることなく、仕事に打ち込めます。
マンションで心配な換気対策には全館空調
新型コロナウイルスに感染しないようにするためには、住まいの換気が重要といわれています。その点、マンションは一戸建てに比べると開口部が少なくなりがちで、風通しの良くない部屋も出てきます。
その対策として、三菱地所レジデンスが神奈川県鎌倉市小町で分譲している「ザ・パークハウス 鎌倉」では、グループ企業である三菱地所ホームが開発した全館空調システムの「新マンションエアロテック(床チャンバー方式)」を採用しました。
床下からすべての部屋に一定温度の空気を流すため、部屋ごとのむらがなく、定期的に空気が入れ替わるので、換気が大切なコロナウイルス対策にも有効といわれています。
三菱地所レジデンスでは、「24時間・365日、住戸内全体を『快適な温度』で保ち、『きれいな空気』を循環させる、快適・健康・省エネ性に配慮した住まい」としています。
また、オプションとして浮遊するウイルスを除去する「エアロテック-UV」を設置することも可能で、いっそう安心感が高まりそうです。
参考:三菱地所レジデンス「ザ・パークハウス 鎌倉」プレスリリース
「リファイニング建築(R)」物件でもコロナウイルス対策を積極採用
「リファイニング建築(R)」ということばをご存じでしょうか。
耐震性が不足している古い建物を、建て替えではなく、リノベーションでもなく、耐震強化して新築マンション並みに再生する手法です。
建築家の青木茂氏が開発、同氏が主催する青木茂建築工房の商標登録となっています。独自の補強工事によって耐震性能が高まる、外観が新築並みに美しくよみがえる、建て替えに比べて3割程度コストが安くなる、建設廃材が少なくなって、環境にやさしい――などのメリットで注目されています。
三井不動産グループでは、青木茂建築工房と提携して「リファイニング建築(R)」を推進しています。2020年9月、東京都練馬区氷川台では、築44年の賃貸マンションを再生して、テナント募集を行っています。
募集に当たっては、少しでも周辺物件との差別化を図るため、細かなコロナウイルス対策を随所に施しています。まず、エントランスには除菌ジェルを設置し、不特定多数の人が触れるゴミ置き場のドア把手にアタッチメントを取り付けて、指に触れることなく腕でドアノブを回せるようにしました。
エレベーターのボタンにも除菌シートを貼付し、各居室の玄関ドアに除菌ジェル用のホルダーを設けています。
こうした対策は既存のマンションでも対応できそうですから、マンション住まいの人は、管理組合に働きかけてみてはどうでしょうか。
コロナに勝つには一人ひとりの地道な努力が必要
みてきたように、マンション内での人と人の接触機会の削減や、人が触れたものに触らないようにするさまざまな仕組みが開発されています。
これからマンション選びを行うのであれば、そうした非接触型のシステムが導入されているかどうかも重要な選択ポイントになってきそうです。
ただ、大切なことは、そこに住む人たちのコロナウイルス対策への心構え。
いくら先進的なシステムがあっても、住む人一人ひとりが新生活様式を遵守しなければ、上手の手から水が漏れることになります。
逆に、最新の対策が施されたマンションで、住民全員が地道な努力を続けることができれば、マンションの安全・安心につながります。ぜひとも、そんなマンションを見つけてください。