停電しない家が増えてくる? 電力の仕組みが進化しつつある話

2019年9月に関東を襲った台風15号では首都圏で最大約93万4,900戸が停電し、とくに被害の大きかった千葉県では最大約64万1,000戸が停電、復旧に長期間かかりました。そして、2020年9月5~7日にかけて九州を襲った台風10号でも、九州や中国地方で40万戸以上の停電被害が発生しました。災害に強い住宅にするには、電力・エネルギーの確保が最重要テーマの1つになってきました。

電力の仕組みが大きく変わりつつある

日本総合研究所創発戦略センターのシニアスペシャリスト、瀧口信一郎氏はこう話します。

「防災のために自前の電力を確保するという意味では、最後の最後は太陽光システムと蓄電池ということになってしまいますが、その前に、自治体を中心とした地域防災のあり方を考えるべきでしょう。コロナ禍の6月に『エネルギー供給強靭化法』がひっそりと成立しました。地域の配電網は、電力会社でなくても運営できる制度ができたのです。2022年4月の施行ですが、その仕組みを使って、防災の観点から自治体や地域の会社が電力供給を担っていくようになります」

発電所で作られた電気は長い送電線で送り出され、変電所を経て、街なかの電線に配電されます。最後は電柱の上にある柱上変圧器(トランス)を経て、100Vまたは200Vに変圧されて引き込み線から各家庭へと送られます。

長年の電力システム改革の仕上げとして、今年4月までに全国の大手電力会社は、発電会社と送電会社に法的分離されました。いわゆる「発送電分離」です。

かつての「東京電力」の中で火力発電部門は「東京電力フュエル&パワー」という会社になり、送配電部門は「東京電力パワーグリッド」という会社になりました。つまり、関東の長い送電線はすべて東京電力パワーグリッドが管理・運営しています。

「配電」は家の周辺で、大手電力会社が管理する太い送電線から家までの最後の部分ですが、今年6月の法改正により、電力会社以外でも運営できるようになったわけです。

大手電力では対応できない異常が起こり始めている

2019年9月の台風15号による千葉県の停電被害は、大手電力会社の対応力に限界があることが明らかになりました。エネルギー供給強靭化法が成立した背景には、そうした従来の電力システムの脆弱性があります。

「20年以上前に平時においては停電がほとんど起きなくなりましたが、最近は自然災害による停電という違うフェーズに入ってきたと、電力会社の人も言っています。大手電力だけでは対応できない異常気象や震災が起こり始めています。電線を地中化するなどの対策をとることも可能ですが、膨大な予算がかかり、電力料金に跳ね返ります」(瀧口さん)

今後は防災への関心の強さによって、自治体間でもエネルギー供給の安定性に違いが出てくるかもしれません。自治体の防災予算で地域の配電網整備が求められるでしょう。その自治体の対応力が地価や不動産価格にも影響するかもしれません。

電気の「地産地消」はますます必要に

戸建ての場合、屋根置きの太陽光パネルと住宅用蓄電池を備えておくのが、防災としては理想ですが、現在はまだまだ高額で、すべてを個人宅でまかなうのは簡単ではありません。

瀧口氏が言うように、自治体を中心に地域ぐるみで安定的な電力供給網を備えるのが現実的です。

その際、発電すべてを大手電力に任せるのではなく、地域で作った電気を地域で消費する「地産地消」の考え方のほうが自然災害に強い電力システムといえます。長い送電網は自然災害によって寸断されるリスクがあるからです。また、送電網は長くなると送電ロスが大きくなり、メンテナンスのコストも大きくなります。

「最近では話題性が下火になっているものの、長期的に考えれば、エネファームのような燃料電池が必要」と瀧口氏は言います。

「例えば、冬に災害が起きて悪天候が続けば、蓄電池に貯める以前に太陽光パネルでは十分に発電できません。そのときは地域に燃料電池システムがあると便利でしょう。設備の組み合わせで地域防災を考えたほうがいいですね」(瀧口さん)

自治体と企業が提携して住民への電力供給を確保

千葉市は2020年9月8日、日産自動車および同社系列の販売会社計4社と、電気自動車(EV)の貸与に関する「災害時連携協定」を結びました。

千葉市は、2019年9月の台風15号で被災した教訓を踏まえ、2020年1月に「災害に強いまちづくり政策パッケージ」を策定しました。その内容は5項目からなり、一番目が「電力の強靭化」です。具体策として、「EV等で電気を届けるマッチングネットワークの構築」が入っています。

出典:千葉市災害に強いまちづくり 政策パッケージ

実は、日産自動車は2019年9月、台風15号被害で停電した千葉県木更津市、君津市などに同社のEV「リーフ」をいち早く投入し、保育園や福祉施設などで給電活動を実施しました。ライフライン寸断の深刻な事態を受け、独自に動いたといいます。

同社は三重県や札幌市、熊本市などと災害時のEV活用について連携協定を締結していますが、木更津市や君津市とは協定などを締結していませんでした。日産はEV普及を通じて社会の変革、地域課題の解決に取り組む日本電動化アクション「ブルー・スイッチ」を2018年5月から推進しており、千葉の大規模停電に迅速に対応できたのは、そうした背景があるからです。

マンションの自家発電設備は非常用エレベーターのため

マンションの共用施設には、玄関のオートロックシステムや水道ポンプ・立体駐車場など、電力で動いているものはたくさんあります。東日本大震災の教訓を生かし、最新のマンションでは自前の発電装置を拡充する動きが進んでいます。

マンションに「自家発電設備」や「非常用発電設備」が設置されているのを見て「自然災害で停電になってもこのマンションなら大丈夫」と勘違いする人もいるそうですが、一般的にはそうした発電設備はあくまでも非常用エレベーターや消防設備などの防災用設備を稼働させるためのものです。

大がかりな工事を必要とせず、既存のマンションでも設置ニーズが高まっているのは、カーシェアリングのEVを非常用コンセントの電源として活用する方法です。EVから集会室に設けた非常用コンセントに給電すれば、マンションの居住者らはラジオや照明、携帯電話の充電に利用することができます。

災害時の電力確保のために、防災設備としての太陽光システムや蓄電池、エネファーム(燃料電池)など、昔に比べて選択肢が増え、利用しやすくなっています。とはいえ、戸建てにしろマンションにしろ、それらを組み合わせて自前で準備できる家庭はまだまだ限られています。

地域ぐるみで自前の発電と配電システムが実現できるのか、今後の社会の動きにも注目です。

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