屋上から水がこぼれる危険も? 見落としがちなマンションの大雨リスクを専門家が解説

9月5~7日にかけて九州地方を襲った台風10号。「過去最強クラス」と言われたものの、実際の接近時には予想よりも勢力が落ち、特別警報の発表は見送られました。

危惧された一級河川の氾濫や大規模な浸水被害等の報告はありませんでした。ただ、24時間で500mm近くの雨が降っており、決して雨量が少なかったわけではありません。ダムの放流を事前に行うなど社会インフラによる対策の成果もあったようです。

水害という点では、7月の九州豪雨被害のほうが甚大でした。九州での死者は76人に上り、3人が行方不明、河川の氾濫などで計1万6,063棟の住宅が被害を受け、熊本県では1,400人以上が避難所に身を寄せました。

このレベルの自然災害は日本全国どこで起きても、もはや不思議ではありません。

 

アメリカのコンサルティング会社、マッキンゼー・アンド・カンパニーは「アジアの気候リスクと対応(Climaterisk and response in Asia)」というレポートを8月に発表しましたが、その中で、日本に襲来する“100年に1度レベル”の強烈な台風が、2040年までに3倍に増える可能性があるとしています。

出典:マッキンゼー・アンド・カンパニー「アジアの気候リスクと対応(Climaterisk and response in Asia)」

図をみると、太平洋側の沿岸部を中心に、ピンクや濃い褐色のリスクが増加すると推定される地域が広がっています。東京を含む首都圏のほか四国・九州の一部、伊勢湾沿岸にあたる三重県なども含まれています。

ハザードマップは旧基準か新基準か確認を

宅地建物取引業法施工規則の改正により、マイホームを購入したり賃貸する人に向けて、不動産業者は契約前の重要事項説明でハザードマップを用いた「水害リスク」を説明することが義務付けられました。そのハザードマップをチェックする際、注意すべきことがあります。

2020年1月時点で水防法による浸水想定区域の指定が必要な河川のうち国が管理する全448河川と、都道府県が管理する1,644河川の98%がマップ作成を指定されています。

不動産コンサルティング会社・さくら事務所の長嶋修会長は次のように話します。

「リスク判断の基準は、最大雨量について『数十年から100年に1回程度』というのが旧基準でしたが、15年の改正水防法では『1,000年に1回程度』に厳格化されました。相次ぐ豪雨で甚大な被害が出るようになったことを受け想定される災害の大きさを見直したわけです。ただ自治体によるマップの改定作業は遅れており、新基準で公表済みの市区町村は全体の42%にとどまります。よって、『旧基準』か『新基準』かの確認が必要です。近所に気になる河川がある場合、国や自治体がウェブサイトで公開している『河川整備計画』が参考になります。河川整備計画では、過去の治水対策から今後の整備計画まで網羅されています」(さくら事務所:長嶋修会長)

マンションのリスクは「立地」「構造」「防災意識」によって決まる

台風における風水害というと、木造の戸建てばかりがクローズアップされがちですが、鉄筋コンクリート造のマンションにも風水害のリスクはあります。それは昨年10月に関東を直撃した台風19号により、神奈川県川崎市・武蔵小杉のタワーマンションをはじめとする多くのマンションが被災したことからも明らかです。

さくら事務所のコンサルタント・土屋輝之氏は、マンションのリスクは「立地」「構造」「防災意識」によって決まるといいます。

「立地」はマンションがどんな地域に位置しているかということなので、誰でもハザードマップで確認することができます。

次に、「構造」について土屋氏は駐車場を例に挙げ、次のように指摘します。

「最もよく見聞きするのは、駐車場が地下にあるために発生する水害による被害です。敷地面積が限られている都市部では自走式よりも機械式が主流で、機械式地下駐車場の水没は被害も深刻になりがちです。『排水ポンプがあるので大雨でも大丈夫』との説明を受けるかもしれませんが、あまり信用しないほうがいいでしょう。排水ポンプは極端な集中豪雨には対応できません。なお、大雨情報が発表されると、管理会社が住人に連絡し、車の移動を促すという管理組合もあります」(さくら事務所:土屋さん)

マンションの地下に配置されている設備は駐車場だけではありません。トランクルーム、電気室、ポンプ室などが配置されているマンションもたくさんあります。

「電気室はマンションの心臓部と言っても過言ではありません。電気室に浸水などのトラブルが発生すると、各戸への電力供給が止まるだけでなく、自動ドアやエレベーターも止まります。電気室を地下に設けると、水害による停電リスクは飛躍的に高くなります。今年になって、国土交通省と経済産業省は、電気室の被害によるマンションの機能不全を防ぐべく、ガイドラインを策定しました。内部に浸水させない水密扉や止水板の設置、電気室を上階に配置することなどが盛り込まれました」(さくら事務所:土屋さん)

屋上に溜まった水がこぼれてくる水害もある

マンションの入居者が屋上に行く機会はほとんどないでしょう。それだけに、屋上は目が届きにくく、清掃をはじめとした設備点検も滞りがちです。

「屋上の整備不良を指摘した例は枚挙にいとまがなく、なかには20年以上にわたって、ろくに清掃されないマンションもありました。屋上を清掃しないと枯れ葉などのゴミが溜まり、雑草もはびこります。排水口に泥が詰まり、排水できなくなったマンションがありました。豪雨で屋上に水が溜まり、水が建物の側面を伝って滝のように流れ落ちていました。『蚊が多く異臭がする』というときは、屋上に水がずっと溜まってボウフラが湧いているということも疑ってみてください」(さくら事務所:土屋さん)

とりわけ、周囲に広葉樹などの高い木があると、年中、葉っぱが溝の中に落ちたりします。また、交通量の多い道路に面した場所に建物があると、粉塵などで排水口が詰まりやすくなります。自然災害というより、管理不備が引き起こした水害と言えるでしょう。

避難訓練など入居者全員で防災意識の共有化を

住民が高い防災意識を共有する理想的なマンションとして、土屋氏は管理組合内で防災リーダーを選出していることが最も重要だといいます。

「一定規模以上のマンションには、消防法によって防火管理者の選任が義務付けられています。防火管理者の役割は避難訓練の実施、消防計画の作成、消防用設備の点検・整備などがあり、防災リーダーを兼ねるケースが多くなっています。防災リーダーが1人しかいないと不在時に統率が取れなくなるおそれがあるので、複数のメンバーで構成される自主的な防災組織を設けているマンションもあります。自治体は防災マニュアルを配布していますが、マンション独自の防災マニュアルを作成しているところもあります」(さくら事務所:土屋さん)

入居者名簿は管理会社が保有していて、管理組合には公開されていないケースが多いといいます。しかし、それでは災害の緊急時に混乱を招くおそれもあります。
防災意識の高いマンションでは、管理組合が独自に入居者名簿を作成し、家族構成のほかに「要介護者の有無」を記入してもらっているそうです。その情報をもとに、災害時の対応として優先的に安否確認することができます。もちろん、個人情報保護のために、平時は金庫などに保管されて、簡単には閲覧できないようになっています。

「大規模災害に際し、入居者同士が共に支え合うことができるのはマンションの魅力でもあります。災害への対応力に優れたマンションなら住む安心感が強くなるので、今やその観点からマンション選びをする時代になったといっても過言ではありません」(さくら事務所:土屋さん)

管理の良し悪しが、マンションの資産価値維持をも決定付けるのは、もはや常識となっています。
分譲マンションを選ぶ際、エントランスや駐輪場・ゴミ置き場の整頓具合などは容易に確認できますが、住民の防災意識レベルは見た目だけでは判断できません。

避難訓練の実施状況や防災備蓄についても、詳細な説明を受けるようにしましょう。

 

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