住宅の基本性能の向上などによって、わが国の住宅への満足度は年々高まっています。ただ、その満足度については、持ち家居住者と借家(賃貸)居住者ではかなりの違いがあり、持ち家住まいの満足度が賃貸住まいを上回っています。自己資金を貯め、住宅ローンを組むなどして、苦労してマイホームを手に入れるだけの意味は十分にあるようです。さて、持ち家と借家それぞれの満足度にどのような違いがあるのでしょうか。
住宅への満足度は年々高まっている
戦後の住宅難の時代はもとより、高度経済成長時代のあたりまでのわが国の住まいは、狭くて劣悪なものが多かったのが現実です。それが、住宅数が世帯数を上回るようになり、住宅の基本性能や設備も向上、質量ともにレベルが急速に上昇、他の先進国と比べても遜色ないものになり、住宅への満足度も高まっています。
国土交通省が5年に1度実施している「住生活総合調査」では、住宅や住環境への満足度などを調べていますが、調査年次ごとの変化をみると、人々の住宅に対する意識の時代変化がわかってきます。
図表1は、住宅への満足度がどのように変化してきたのかを示しています。1983年の調査では、「まあ満足」と「満足」とする人の合計は53.2%とかろうじて過半数を超える程度で、1988年調査では47.6%と半数以下に減少しています。
しかし、その後は調査のたびに満足度が高まり、2003年調査では6割近くに、2013年調査では7割を超え、最新の2018年調査では76.3%に高まっています。日本人の4人に3人以上は、自分たちの住まいに満足しているわけです。
持ち家では満足している人が8割を超える
この住宅への満足度、持ち家かどうかによって、かなり数値が異なっています。
図表2にあるように、持ち家に住んでいる人では、「まあ満足」と「満足」の合計は80.4%と8割を超えます。全体の76.3%を4.1ポイント上回っています。
反対に、「多少不満」「非常に不満」の合計は18.8%にとどまり、全体の23.1%より4.3ポイント少なくなっているのです。
その経年変化をみると、2003年調査から急速に満足度が高まっていることが分かります。
2000年には、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(住宅品確法)が施行され、すべての新築住宅への10年保証制度が義務化、第三者機関の専門家が住宅を評価する住宅性能表示制度が実施されました。
住宅性能表示制度は任意の制度ですが、建売住宅や注文住宅、分譲マンションなどで急速に浸透、それが持ち家系の住宅の品質向上に大きく貢献したといわれています。
一方、借家住まいの人の「まあ満足」「満足」の割合の合計は66.5%です。持ち家派の80.4%に比べて13.9ポイント低くなっています。持ち家居住者の10人に8人はいまの住宅に満足していますが、賃貸居住者では10人に6人にとどまります。
ファミリー向けの賃貸物件が不足している
持ち家に住んでいる人の「住宅への満足度」が、賃貸住まいの人に比べてかなり高くなっているわけですが、なぜ、このような違いがあるのかといえば、住宅の広さ、基本性能、設備など様々な面で持ち家と借家では大きな違いがあるからではないでしょうか。
もちろん、苦労して手に入れたマイホームだけに充足感が高まるといった要素があるのかもしれませんが、そうした主観的な問題だけではなく、客観的にみても両者の違いは少なくありません。
まず、住宅の広さに関しては、断然持ち家のほうが広くなっています。もちろん、賃貸住宅でも富裕層向けの物件では専有面積や延床面積が100平方メートルを超える物件がありますが、それはかなりレアなケースで、賃貸住宅はワンルームや2DKなどの少人数世帯向けの物件が中心です。
ファミリー向けの賃貸住宅が極めて少なく、本来分譲物件で、所有者が転勤などで住めなくなったために賃貸で運用されている、といった事情のある物件などに限られるのが現実です。
住宅の居住面積の広さには2倍前後の格差
現実に、持ち家と借家ではどれくらい住宅の広さに差があるのか、国土交通省の「令和元年度住宅市場動向調査」をみてみましょう。図表3は所有関係別の居住面積を比較したグラフです。
持ち家が中心の分譲戸建住宅は110.3平方メートルで、中古戸建住宅は104.3平方メートルと一戸建て系は100平方メートルを超えています。マンションに関しても持ち家がほとんどを占める分譲マンションが75.8平方メートルで、中古マンションは74.0平方メートルとなっています。
それに対して、民間賃貸住宅は51.9平方メートルにとどまっています。賃貸住宅は持ち家の一戸建てに比べると半分以下の広さしかなく、持ち家系のマンションに比べても20平方メートル以上狭いレベルにとどまっています。
この広さの違いが、住宅の満足度に大きく影響している可能性があります。広い住宅に住んで、満足度を高めるためには、持ち家の取得が近道のようです。
遮音性能などの基本性能にも大きな違いが
住宅の基本性能にも違いがあります。賃貸住宅は、オーナーの利回りが最優先されますから、どうしても建築費を抑制する傾向が強まります。そのため、基本性能の様々なレベルに差が出てきます。
鉄筋コンクリート造の建物だと、床コンクリートの厚さは、最近の分譲マンションでは20センチメートル以上が大半ですが、賃貸住宅用のマンションだとそれ以下の物件もあります。
床などの施工状況にもよりますが、この床コンクリートの厚さ(スラブ厚)は耐久性、耐震性、さらに断熱性や遮音性などを左右する要因になります。
耐久性や耐震性などは、ふつうに住んでいる段階では判断は難しいでしょうが、断熱性や遮音性などは一定期間住めば実感できるはずです。スラブ厚の薄い賃貸住宅のほうが、断熱性や遮音性に不満を感じる可能性が高いはずです。それが住宅の満足度に反映されているのかもしれません。
バリアフリー、省エネ性能などにも格差が
少子高齢化、環境問題への関心の高まりもあって、この20年ほど住宅のバリアフリー対応、環境対応の省エネ設備の設置が急速に進んでいます。その点でも、持ち家と借家ではかなりの差がみられます。
図表4をご覧ください。これは、国土交通省の調査から所有関係別の住宅内の手すりの設置状況を示しています。持ち家系の分譲戸建住宅は43.5%と最も設置率が高く、持ち家系で最も設置率が低い中古マンションでも21.7%に達しています。しかし、民間賃貸住宅は10.1%にとどまっているのです。
手すりの設置だけではなく、段差のない室内、車椅子で通行可能な廊下幅、浴室・トイレの暖房設備などのバリアフリー化においても、持ち家系と賃貸住宅では設置率がかなり違っています。
頑張って持ち家取得するだけの甲斐がある?
省エネ性に関しては、二重サッシまたは複層ガラスの窓の整備状況をみてみたいと思います。図表5にあるように、分譲戸建住宅は48.6%で、分譲マンションが42.8%であるのに対して、民間賃貸住宅は8.8%にとどまっています。この違いは冷暖房効率の差につながり、最終的には「光熱費」の差につながってきます。
また、夏の熱中症や冬のヒートショックといった健康リスクに関しても、持ち家のほうが安心できる要素として見ることもできます。
この窓の整備状況の差は、さきほどコメントした遮音性ともつながってきます。
まとめ
持ち家と借家では住宅の広さ、基本性能、設備など様々な面で差があります。
それが住み心地に大きく影響し、持ち家の満足度を押し上げているのは間違いありません。
持ち家の取得には、自己資金を貯めなければならず、購入後は住宅ローンがついて回るという負担がともないますが、それだけの努力をする甲斐はあるということでしょう。