国土交通省が宅地建物取引業法施行規則を改正。住宅購入や賃貸などの契約前に、不動産業者がハザードマップを提示して水害リスクの説明をすることを義務化しました。施行は2020年8月28日です。住まいの場所選びにおいて、ハザードマップのチェックがいかに重要であるかを国が認めたわけで、これから住まい選びを考えている人は、最優先で確認しておきたいポイントです。
被害の多くはリスクが高いと公表されたエリアで発生
気候変動の影響からか、わが国では「数十年に一度」「数百年に一度」といわれる大規模災害が、毎年のように発生しています。2020年も「令和2年7月豪雨」が発生、消防庁によると8月17日現在、九州を中心に82人が亡くなり、行方不明が4人で、1万7,795戸に被害が出ています。
その被害状況をみると、多くはハザードマップなどでリスクの高い場所と公表されているエリアで起こっています。亡くなった人の9割はハザードマップで濃い色に塗られたリスクの高いエリアで発生しているとする防災の専門家が多いようです。
これまでの大規模災害をみても、同様のことが当てはまります。中央防災会議による、「平成30年7月豪雨を踏まえた水害・土砂災害からの避難のあり方について」と題した報告書でも、次のよう指摘されています。(平成30年7月豪雨というのは、別名・西日本豪雨とも呼ばれ、長期にわたる豪雨で河川氾濫や土砂崩れなどが多発し、西日本を中心に200人以上の犠牲者を出した甚大な災害のことです。)
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以下、平成30年7月豪雨を踏まえた水害・土砂災害からの避難のあり方について(報告)より抜粋
多くの被害は、災害リスクが高いと公表していた地域で発生した。例えば、岡山県倉敷市真備地区の浸水範囲は、ハザードマップで示されている浸水想定区域と概ね一致しており、犠牲者のほとんどが非流出家屋の屋内で被災した可能性がある。また、土砂災害による死者のうち、約9割が土砂災害警戒区域内等で被災した。
(略)
倉敷市真備地区における調査結果では、ハザードマップの存在を知っていた人の割合は75%だが、ハザードマップの内容を理解していた人は24%であり、ハザードマップの存在は知っているものの、内容まで理解している人は少数であった。
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法律で不動産取引時にハザードマップの説明を義務化
つまり、ハッキリとは言っていませんが、ハザードマップを把握して、その内容を理解、常日頃から対策を考え、確実に実行していれば、被害のほとんどは防げた可能性があるということを言外に匂わせています。
それほどにハザードマップは信頼するに値する情報であり、それに基づいて行動することが、災害時の被害を最小限に食い止める唯一の方法ということになります。
そのため、2020年7月、国土交通省では宅地建物取引業法施行規則を改正、不動産取引に当たっては、重要事項説明時にハザードマップを提示し、説明することを義務付けました。施行日は8月28日です。秋の長雨、台風シーズンなどを控えて、一刻も早く実施すべきという判断でしょう。
具体的には、以下のように定められています。
◆国土交通省のハザードマップ説明義務化のガイドライン
1.水防法に基づき作成された水害(洪水・雨水出水・高潮)ハザードマップを提示し、対象物件の概ねの位置を示すこと
2.市町村が配布する印刷物又は市町村のホームページに掲載されているものを印刷したものであって、入手可能な最新のものを使うこと
3.ハザードマップ上に記載された避難所について、併せてその位置を示すことが望ましいこと
4.対象物件が浸水想定区域に該当しないことをもって、水害リスクがないと相手方が誤認することのないよう配慮すること
不動産業者は、市区町村などから発行されている最新のハザードマップを入手して印刷、それを買い主に手渡して、取引対象となる物件が、そのマップの中のどの位置にあるかを示す必要があります。買い主は、買おうとする物件が下の図にあるように、濃い赤から紫のリスクの高いエリアにあるのか、色のついていない安全なエリアの中にあるのかが分かるようになります。
居住地の水害リスクなどを「理解」できていますか?
もちろん、色が塗られていないエリアが絶対に安全ということではありませんが、ハザードマップで住むエリアの危険度を知っておき、それに応じた対策を立てて、いざというときに即座に対応できるようにしておけば、万一のときにも生命・財産を守りやすくなります。
そこで、重要なことは、先の報告書にもあったように、ハザードマップの存在を知っているだけではなく、理解しておくということです。
そこで、国土交通省が運営している「ハザードマップポータルサイト」で、その利用の仕方を確認しておきましょう。
トップページを開くと、「重ねるハザードマップ」と「わがまちハザードマップ」があります。「重ねるハザードマップ」では、市区町村などの地名を入れると、居住地などの地図が表示され、それに「洪水」「土砂災害」「津波」「道路防災情報」を重ねて表示できるようになっています。
たとえば、「洪水」をクリックすると、地図の上に図表3のようなリスクに応じた色の濃淡が表れて、浸水しやすい場所であるかどうかが分かるようになっています。
市区町村別のハザードマップを見ることができる
一方、「わがまちハザードマップ」では、都道府県、市区町村名を選択してクリックすると、チェックしたい市区町村の「洪水ハザードマップ」「内水ハザードマップ」「ため池ハザードマップ」「高潮ハザードマップ」「津波ハザードマップ」「土砂災害ハザードマップ」などを見ることができます。
たとえば、東京都でも比較的水害リスクが高いといわれる江東5区の中から、江戸川区を選択してクリックすると、江戸川区が作成したハザードマップに飛ぶことができます。それによると――。
群馬県や栃木県に降った雨の大半は利根川に集まり、そのうちの3分の1が江戸川に流れてきます。また、埼玉県で降った雨の半分以上が荒川に集まります。その江戸川、荒川の下流域にある江戸川区は洪水リスクが極めて高いエリアであることが解説されています。
江戸川や荒川が氾濫すると、図表4にあるように、区内のほとんどの場所で浸水が生じ、最大で10mの深い浸水が発生、それが1~2週間、長いところでは2週間以上続く可能性があるそうです。
ハザードマップを踏まえて「いざという時の行動」を想定する
ここからが肝心なところです。そのハザードマップを踏まえて、いざというときにどうすればいいのかも紹介されています。
江戸川区の場合、大水害が発生したら上記のようにほとんどの場所が水に浸かりますから、「区内にとどまるのは危険です!」と、江東5区(江東区、江戸川区、墨田区、葛飾区、足立区)を出て、標高の高いところへの広域避難を推奨しています。
その広域避難においては、クルマを利用すると交通渋滞のもとになるので、できるだけ早めに公共交通機関を利用して避難することを呼びかけています。
しかし、高齢者・障害者などがいて避難が難しいときには、地域内の防災拠点や退避施設(小中学校)、あるいは近くの頑丈な建物の高いところへの避難を勧めています。
以上のように、まずはマイホームの取得時にハザードマップをチェックして安全性を確認、その上で、いざというときの行動指針を頭に入れておき、迅速に行動するようにしてください。ハザードマップの取得と理解が、皆さんの生命と住まいを守ることにつながるのです。