新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、マンション市場には停滞感が強いものの、価格自体はなかなか下がりそうにありません。当分は、販売を絞り込みながら、価格を維持していきたいとする分譲会社が多いためですが、少し長い目でみると、価格が下がる可能性もありそうです。最近は、マンション用地を安く仕入れることができるようになっていて、1、2年後には、その安値で取得した土地でマンションが販売されるようになるとする見方が強まっています。
コロナ禍でも新築マンション価格は下がらない
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で不動産価格は暴落する、マンションも例外ではない――という見方がありますが、現実にはそうはなっていません。
図表1をご覧ください。これは、民間調査機関の不動産経済研究所による、首都圏新築マンションの発売戸数と価格の推移を示しています。オレンジの折れ線グラフが平均価格ですが、一見して分かるように、新型コロナウイルス感染症拡大後も、価格はほぼ横ばいを続けています。下がってはいないのです。
ブルーの棒グラフが発売戸数ですが、こちらは大きく減少しています。営業自粛の中で、分譲会社は、比較的販売しやすい、都心などの人気物件、高額物件に販売を絞り込んでいるため、平均価格は高値で張りついているということができます。
郊外の割安感のある広めのマンションが売れる
その一方で、郊外の割安感のある広めのマンションが売れるようになっています。たとえば、8月○日付けの記事「遠くてもいいから80平米台のマンションを3,000万円台で手に入れたい!」で取り上げた物件がそうです。
これまでは、いくら割安感があっても、都心から遠いとなかなかお客を呼ぶことができなかったのですが、在宅ワークの定着で、通勤時間をさほど気にしなくてもいいようになったので、遠い物件への注目度が高まり、売れるようになっています。
上の図表1は新規に売り出された物件の動向ですが、その裏側では売れ残り物件として苦戦していた物件が売れるようになっているのです。
しかも、こうした割安感のある物件が、今後は都心から遠い郊外部だけではなく、都心寄りの近郊部でも少しずつ登場してくる可能性が高まっています。それまでには、1、2年かかるかもしれませんが、焦る必要のない人であれば、そんな物件が出てくるまで、少し待ってみてもいいかもしれません。
不動産業界では住宅と物流以外は総崩れの状態に
なぜ、そんな期待ができるのか――それは新型コロナウイルス感染症拡大によって、不動産業界の多くが苦境に立たされているからにほかなりません。特に、オフィスや商業施設、ホテルへの影響が深刻です。不動産業界では、住宅や物流施設以外は総崩れといっていい状態なのです。
これは、業界には厳しい環境ですが、消費者にとってはありがたい動きということもできます。
一般財団法人の日本不動産研究所では、新型コロナウイルス感染症拡大が、今後1年間の市場動向にどう影響するのか、投資の専門家に聞いた調査結果をまとめています。
それによると、住宅や物流施設では、「ネガティブな影響がかなりある」「ネガティブな影響がある」の合計は20%以下だったのに対して、都心型商業施設やビジネスホテル・シティホテルでは90%を超え、オフィスでも60%以上に達しています。
仮に新型コロナウイルス感染症が収束したとしても、今後の見通しとしては、ホテルなどでは、「反転回復までに、1年程度の期間を要する」「反転回復までに、長期間を要する」が70%前後に達しているのです。
ホテル業者が土地の入札から撤退している
その結果、ホテル業者が土地の入札から撤退するケースが増えています。マンション業者にとっては強力なライバルがいなくなって、有利に、安値で落札できるようになっているのです。
新型コロナウイルス感染症拡大以前、ホテルは好調なインバウンド需要もあって、土地の入札競争で高値落札が目立ちしました。土地を仕入れて、マンションを建てて分譲するより、ホテルを建てて運用するほうが利回りははるかに高いので、マンション業者の入札価格より1、2割高い値段で落札しても採算がとれます。そのため、新型コロナウイルス感染症拡大以前、マンション業者はホテル業者に太刀打ちできなかったのです。
そのホテル業者が撤退し、土地の入札に当たってはマンション分譲会社、それもコロナ禍でも資金調達が可能な体力のある業者しか入札に参加できないようになっています。その結果、大手不動産の仕入れ担当者からは、「ようやくまっとうな価格で入札できるようになった」「これで、多少なりとも安値で販売できるようになる」といった声が聞かれるようになってきました。
都心の価格低下にはまだまだ時間がかかる
しかしながら、そうはいっても、都心の人気エリアはやはり別格です。たしかに、弱含みにはなっているのですが、都心の一等地へのニーズは依然として強く、そう簡単には下がりそうもありません。
図表2は、国土交通省が大都市の駅前などの高度利用地の地価を調査した結果ですが、コロナ禍の影響で、大幅な上昇エリアが減って、小幅上昇あるいは横ばいが中心に変わっていますが、それでも下落地区はまだまだ少数派です。
今後は都心でも地価が下がるエリアが増えていくかもしれませんが、それもジワジワとした変化であり、暴落ということにはならないでしょう。新型コロナウイルス感染症がいつ収束するかにかかってきますが、様々なニーズが強い都心の地価が急速に低下することは考えにくいのではないでしょうか。
では、どこが下がるのかといえば、都心から少し離れた近郊部ということになります。
値下がりが期待できるエリアはどこにあるのか
具体的には首都圏でいえば、山手線ターミナル駅から10分、15分といった比較的近場の商業施設やマンションの集積が進んでいるエリア、また30分、40分離れているものの、複数の路線が乗り入れ、利便性の高いターミナル駅のあるエリアなどがそうです。
その間の駅や、もう少し遠いエリアであれば、もっと早く価格の低下が始まるかもしれませんし、値下げ幅も大きくなる可能性があります。そんなエリアに注目しておくのもいいのですが、値下がり幅が大きいということは、買いやすくなる反面、将来の資産価値が下がる可能性も大きいということを覚悟しておく必要があります。
それよりは、山手線ターミナル駅から10分、15分の各種施設が集積しているエリア、あるいは30分、40分のターミナル駅などのほうが、値下がり幅は小さくても、資産価値としての安定感が期待できるかもしれません。
いずれにしても、値下がりが始まるのは1年、2年先のことになります。それまで腰をすえて自己資金を蓄えて準備を進め、いざというときに機動的に動けるようにしておくのがいいでしょう。
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