キーワードは「安・遠・広」、今後のマンションのトレンドどうなる?

ひところ、安くて、近くて、短い時間で楽しむ旅行などが「安・近・短」としてもてはやされましたが、新型コロナウイルス感染症拡大で、遠出しにくくなったこともあって、再び「安・近・短」が注目され、加えて感染拡大を防ぐための「疎」を加えたレジャーが脚光を浴びるようになっているようです。同じような表現で「ウィズコロナ」時代のマンション選びのポイントをまとめると、「安・遠・広」といえそうです。

「安全・安心」に暮らせ、職場から「遠」くて、「広」さがある

ウィズコロナ時代の住まい選びにおける「安・遠・広」の「安」は、安いの「安」ではなく、新型コロナウイルスへの感染のリスクが小さく、安全・安心に暮らせるマンションであることを意味します。

「遠」は在宅勤務の定着で、職場や都心に近くなければならないという条件が緩和され、遠くてもOKという人が増えている点です。

さらに、「広」は、在宅勤務するためには、ワークスペースや、家族がくつろげる空間がより重要になってくるので、一定の広さが求められるということです。

幸い、遠くでの選択が可能なので、安全・安心で、かつ広いマンションを求めるのも、さほど難しいことではなくなっているのではないでしょうか。

それぞれ順番に解説していきます。

【安】…敷地や建物内での接触が少なく安全・安心なマンション

マンションは共用部分のエントランス、エレベーター、共用廊下など人と接触する機会が多いために、一戸建てに比べてやや不安ですが、最新のマンションでは接触機会はかなり減少しています。安全で安心して暮らせるマンションが増えているのです。

たとえば、宅配便に関しては宅配ボックスがあれば、人と接触することなく荷物を受け取れますが、在宅勤務の増加で宅配便が急増、すぐに満杯になって利用できないことが少なくありません。

しかし、最近では大京がメールボックスに全戸宅配ボックスを設置するマンションを増やしていますし、三菱地所レジデンスのマンションのように、各戸の玄関に宅配ボックスを設置する動きもあります。これなら、人との接触機会が減って、安心感が高まります。

再配達を削減するためには宅配ボックスの設置が不可欠なので、宅配ボックスに必要な面積を容積率に算入しなくてもいいようになっています。今後は1棟当たりの宅配ボックスが増えたり、各戸に設置するケースが増加するのではないでしょうか。

低層マンションならエレベーターを利用しなくてすむ

エントランスのオートロックにキーを差し込んだり、エレベーターでは停止階のボタンを押すなど、やはり接触機会があります。

それも、最新のマンションでは非接触型のキーが増えていて、触れなくてもかざすだけでドアが開いたり、ハンズフリーでポケットにキーを入れたままで出入りできる物件もあります。
そもそも、高層マンションや超高層マンションでも低層階なら、運動を兼ねて階段を利用すれば、“ 密 ”になりやすいエレベーターに乗らなくてすみます。低層で戸数の少ないマンションなら、マンション内での住民との接触機会も減少して、安心して暮らせそうです。

低層の小規模マンションとなると、都心やその周辺ではかなりの高額物件になってしまいますが、郊外なら手の届く範囲で探せるのではないでしょうか。
ただ、そうなると、価格が安くなる分、非接触キーや全戸宅配ボックスなどの採用率は低くなるかもしれませんが、探してみるだけの価値はあるでしょう。

【遠】…在宅勤務が増えて会社から遠いマンションでも大丈夫

次に、「安・遠・広」の「遠」については、在宅勤務が定着し、会社には週に1、2回、あるいは月に何回か出社すればいいという人が増えています。中には、大手企業でも都心のオフィスを縮小したり、新興企業ではオフィスそのものを廃止して、在宅勤務のみに切り替えるといったケースもあります。

そうなると、正社員として働いていても、会社の近くにこだわる必要はなくなり、都心から遠く離れた場所に住まいを確保してもかまわないということになります。中には、在宅勤務を機に、地方の実家やその近くに引っ越したという人もいますし、サーフィンが趣味の人は海岸のリゾート地に、野菜作りをしてみたい人は田園地帯に引っ越して、仕事と趣味の両立を図ろうとする人もいます。

次に住む家は郊外でもOKが実質的に半数を超える

不動産仲介会社を通さないダイレクト買取再販を行う株式会社すむたすでは、コロナ禍を受けて、住まい選びがどう変わってきたかを調査していますが、都市部でなくても、郊外でもOKとする人が増えていることが分かりました。

資料:株式会社すむたす『コロナ禍における「住まい選び」に関する意識調査』を加工して作成

図表1にあるように、「現在、都市部に住んでいるが、次に住む家は郊外でも良い」とする人が11.8%で、「現在、郊外に住んでおり、次に住む家も郊外で良い」とする人が36.6%いました。次の住まいは郊外でいいという人の合計は48.4%とほぼ半数に達しています。
「あてはまるものはない」の14.0%を差し引いて再計算すれば、郊外でOKという人は実質半数を超えることになります。

【広】…駅からの距離よりは住まいの広さを重視する人が増加

最後に、「安・遠・広」の「広」をみると、在宅ワークの増加によって、住まいに広さが求められるようになっています。もともと、日本の住まいのほとんどは、家の中で働くことが前提にはなっていませんから、急遽ワークスペースを設置するには無理があります。

そのため、住まいの中で仕事に集中できるスペースを確保できず、ストレスが溜まって夫婦関係、家族関係が悪化するケースが少なくないといわれています。だからこそ、遠くてもいいから、広めの住まい、ゆとりあるマンションを求める傾向が高まっているのです。

リクルート住まいカンパニーでは、コロナ禍後の住まい選びに関する調査において、広さを重視するか、駅からの距離の近さを重視するかという質問を設けています。

資料:『コロナ禍を受けた「住宅購入・建築検討者」調査(首都圏)/ SUUMO調べ』を加工して作成

実は、コロナ禍以前の19年にも同様の調査を行っていますが、その時の結果では、「ぜったい広さ」「どちらかといえば広さ」と、駅からの距離より広さを重視する人の合計は図表2にあるように42%だったのですが、今回の20年5月の調査では52%に増えました。半数以上の人が、多少遠くなっても、広い住まいを求めているのです。

今後は「安・遠・広」のマンションが増える可能性も

以上みてきたように、これからのマンション選びでは「安・遠・広」が基本となりそうですが、それに対応したマンションが増える可能性もあります。

というのも、直近のマンション市場の動向をみると、コロナ禍で土地取引が停滞し、これまでならホテル用地として落札されてきた土地が、ホテル業者の撤退によってマンション業者が比較的安値で、土地を取得できるようになっているといわれています。1、2年先には、その安く仕入れた土地でのマンション分譲が始まるかもしれません。

そうなると、「ウィズコロナ」時代のニーズに対応して、「安・遠・広」のマンションが増える可能性があり、今後の動向が注目されます。

(最終更新日:2021.05.07)
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