新型コロナウイルス感染防止で急激に浸透したテレワーク。内閣府は6月21日、「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」を発表しました。全国のテレワーク実施率は34.6%でしたが、継続希望は8割超に上りました。一方、全体の中で仕事の効率が上がったとの回答は9.7%と、テレワークによる労働生産性の改善効果は限定的でした。
テレワークで不便な点を聞く質問(複数回答)では、「在宅では仕事に集中することが難しい住環境」(17.8%)、「仕事と生活の境界が曖昧になることによる働き過ぎ」(15.7%)、「同居する家族への配慮が必要」(13.3%)など、住環境に関わる回答がいくつもありました。
しかし、これらの声は、「準備もせず急に始めたらこんな課題が!」ということではないでしょうか。あくまで過渡期の話であり、走り始めたテレワーク化への大きな流れが止まることはないでしょう。
そして、これらの課題を解決する大きなカギは「仕事部屋(ワークスペース)の確保」です。
仕事部屋を新設するリノベーションと一口に言っても、現在住んでいるのがマンションか戸建てかでは大きく違います。一般的に、マンションより戸建てのほうが選択肢は多くなるし、自由度も高くなります。
都市部の場合、圧倒的にマンションのような集合住宅に住んでいる人が多いので、マンションのリノベーションを考えます。
壁や本棚で仕切るかロフトを作るか
仕事部屋の新設について、中古不動産の仲介からリノベーションまでワンストップで手がけるグルーブエージェントの佐藤剛氏は「大きくは2つ。壁か何かで仕切るか、ロフトを作るか」と言います。
「ウチは狭いから…」とあきらめる必要はありません。わずか2畳程度のスペースさえ確保できれば、立派な仕事部屋ができあがります。
また、壁というと鉄筋の入ったコンクリートの壁を想像しがちですが、そうではありません。
「当社で企画した段ボールの壁もありますし、塗装した板に防音材を仕込んだ木の壁もあります。設計・工事内容によって大きく変わりますが、簡単な仕事部屋のリノベーション費用は、30~50万円程度です」(佐藤氏)
上の写真は1つの部屋を引き戸で区切り、2畳半の部屋を2つ作ったものです。この程度なら大規模な工事にはならなくて済みそうです。
広いリビングがある場合、その一角を区切って完全に個室化することができます。上の写真では左側に板で遮蔽した個室が設けられており、上がロフトになっています。
壁で仕切って、さらにその中にロフトを作ったのが上の写真です。小さな子どもがいる人なら、壁面にボルダリング用の取っ手(クライミングホールド)を付けるのもいいでしょう。ちょっとした室内遊具になります。
仕事部屋を新設するうえでのポイントについて、佐藤氏は次のようにアドバイスします。
「仕切った壁に開口部を設けたり、ガラス窓をはめたりすると、部屋が狭くても圧迫感がなくなります。視界の“抜け感”が大切です。仕事中に子どもが入って来ないように鍵を付ける人もいます。防音のニーズは高いですね」
工事なしに仕事部屋を確保する最も簡単な方法は、収納スペースとして使用されるケースが多い納戸をそのまま使うことでしょう。
納戸は広さに定義はなく、建築基準法上「居室」と認められない部分ですが、居住空間として使用してもとくに問題はありません。ただ、納戸には基本的に窓がないか、あっても小さいことがほとんどなので、息苦しさを感じる人もいるかもしれません。逆に、狭い空間が集中力を高めるという人もいるでしょうし、ライティングなどを工夫すれば立派なワークスペースになります。
テレワークのために住み替えが増える
リクルートホールディングスは今年初め、2020年の住まいトレンド予測として、テレワークが住まいを変える『職住融合』を打ち出しました。リクルート住まいカンパニーの「SUUMO」編集長・池本洋一氏はこう話します。
「新型コロナのことを予言していたわけではなく、2~3年ぐらいかけてテレワークが広がるものだと思っていました。新型コロナという大きなアクシデントで一気に時計の針が進みましたが、職住融合という業界の方向感は昨年から捉えていました。
池本氏は「このままテレワークが続けば、住み替えを検討する人が増える」と予測します。
「マンションは一般的に分譲より賃貸のほうが狭く、テレワークが増えれば不満が噴出します。音(遮音性)と室温(断熱性)が2大不満で、間取りの変更だけでは根本的な解決がむずかしいかもしれません。新型コロナで経済的ダメージを負った人は賃料の安いところに住み替えるとしても、それとは別に、テレワークを機会に今の居住性能に不満のある人は住み替えるでしょう。これまでは、真夏の昼間は冷房の効いた会社で涼しく仕事をしていたからいいでしょうけど、そうはいかなくなりました」
そうした住み替えを検討する人向けに、マンションデベロッパーが快適なワークスペースを備えた新築マンションを提案する動きが増えてきました。
上のマンションはリビング脇の納戸スペースにファミリーライブラリーを設置したもの。広さは2畳程度です。
上の写真は、オプションで箱の間を設置できるプラン。箱の間で仕切ることも、2方面で囲むことも可能です。部屋をリフォームする必要がなく、壁を立てるのでもなく、家族構成が変わったときなどは簡単に部屋のレイアウトを変えることができるのがメリットです。
三菱地所レジデンスがもうひとつ提案しているのが「ワーク・イン・クロゼット」。寝室の隣に設けられた従来のウォーク・イン・クロゼットですが、これを仕事部屋に無料で変更して「ワーク・イン・クロゼット」にすることもできます。
UR都市機構は団地リノベーションプランを打ち出しています。写真11は、個室を撤去して、仕事もできる多目的スペースを設置した例です。
マンションの共有部にシェアオフィス
テレワークの意味は、自宅で仕事をする在宅勤務ばかりではありません。街なかにある時間貸しのシェアオフィスを利用している人もいます。シェアオフィスに似たスタイルとしては、コワーキングスペースもあります。
マンションの共有部分にワークスペースを設ける例も出てきました。
「これまでの分譲マンションの共有スペースは、豪華なエントランス(ロビー)やシアタールーム、ゲストルームなどが定番でした。今でもエントランスではちょっとした打ち合わせ程度ならできますが、新しい付加価値としてワークスペースが入ってきました。Wi-Fi環境はもちろん、ディスプレイやコピー機を設置しているワークスペースもあるし、ブースで仕切られたタイプからライブラリータイプなど形式も多様化しています。
京阪電鉄不動産の物件では、住民以外にも時限キーを発行して、共有部やSOHOフロア(2~4階)専有部も使ってもらえるようになっています。これまで共有部はマンション住民のためだけという概念が強かったのですが、住民以外の人に開放して空間を収益に変えれば、住民にも大きなメリットがあります。居住部分とは別にラウンジ棟を設け、そこがシェアオフィスになっている物件もあります」(池本氏)
この他、シェアオフィス付きの賃貸マンションも登場しており、上層階が賃貸の居住部分で、下層階がシェアオフィスになっているそうです。
まとめ
冒頭で紹介した内閣府の調査では、三大都市圏居住者(東京・名古屋・大阪)に、地方移住への関心を聞く質問があります。年代別では20歳代、地域別では東京都23区に住む人の地方移住への関心は高まっているようです。
西村康稔経済再生担当相は「東京在住の若者の3分の1が地方移住を考えているのは、東京一極集中を大きく転換するチャンスだ」と述べ、感染症拡大のリスク低減の観点からも政策面で後押ししたいとコメントしています。
<取材協力>
株式会社グルーブエージェント