【現役世代も注目】年金制度が2022年改正へ、大きな4つの改正ポイント

2020年5月29日、第201回通常国会において、「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」が成立し、6月5日に公布されました。施行日は、2022年の4月や10月が中心なので、2年ほど先の話ですが、何がどう変わっていくのか、その内容は知っておくべきでしょう。今回は大きな4つの改正ポイントについて整理します。

(1)短時間労働者への適用拡大

アルバイトやパートなどの短時間労働者(パートで働いている主婦など)の場合、年収が130万円未満であれば、公的年金や健康保険などの社会保険料の負担は、必要ないのが通常です。

夫が会社員や公務員であれば、年収130万円未満の妻は、国民年金の第3号被保険者として国民年金保険料の負担は必要ありません。健康保険も、夫の健康保険の被扶養者となるので保険料負担はナシです。

パート収入が年間で130万円以上になってはじめて、社会保険関係の夫の扶養から外れるので、妻本人が国民年金保険料や国民健康保険料を負担することになります。

ただし、現在でも一部の例外として、「従業員数500人超の企業等」で働く「週労働時間20時間以上」で「月額賃金8.8万円以上(年収約106万円以上)」の人は、勤務先を通じて厚生年金保険や健康保険に加入しなければなりません。

今回の改正では、「従業員数500人超の企業等」の部分が、2022年10月からは「100人超の規模の企業」、2024年10月からは「50人超の規模の企業」といったように、段階的に適用範囲を拡大していくことになりました。

厚生労働省による推計では、これによって新たに65万人が厚生年金保険や健康保険に加入することになるようです。パートで頑張って働いている妻などで、国民年金のみの加入だった人が、厚生年金にも加入できるようになるメリットは大きいでしょう。

もちろん、表面的には、事業主(企業)の社会保険料負担の増加や、パートで働く妻の手取り収入の減少など、デメリットもあります。しかし、厚生年金や健康保険ならでは保障が受けられますし、老齢厚生年金のことも考えると長期的にもメリットがあると言えるでしょう。

(2)60歳以降も働いた人が、よりトクをする制度へ

2022年4月からは、65歳以上で働いている人についての年金額の改定は、在職中であっても毎年行われるようになります

現在、60~64歳の間に「特別支給の老齢厚生年金」の支給が始まる人は、男性の場合で1961(昭和36)年4月1日までに生まれた人、女性の場合で1966(昭和41)年4月1日までに生まれた人です。2020(令和2)年度末で60歳以上の男性と、55歳以上の女性が該当します。

これらの人たちは、60歳台前半(受取開始年齢は生年月日によって異なる)から報酬比例部分相当の老齢厚生年金を受け取ることができるのですが、「在職老齢年金」という制度によって、働いて得られる報酬の額と、受け取ることのできる年金の額によって、年金の一部または全部が支給停止されるようになっています。

現行の制度では、報酬と年金の合計が1ヶ月あたり「28万円以上」になると、年金の一部または全部が停止されます。これが、2022年4月からは「47万円以上」に引き上げられます。厚生労働省の試算では、この見直しによって年金の一部または全部が停止される人が約37万人から約11万人まで減少するそうです。

それから、65歳以降も厚生年金に加入して働き続けた場合、これまでは退職時または70歳到達時に老齢厚生年金の額を改定していました。つまり、65歳から70歳まで働いていた場合は、65歳以降の働いた分の年金額への反映は70歳になってから行われるかたちになっていました。

これを2022年4月からは、65歳以上で働いている人についての年金額の改定は、在職中であっても毎年行われるようになります(毎年1回、10月分から)。働いた分がすぐに年金額に反映されるのは、働くモチベーションにもつながるでしょう。

(3)公的年金の受取開始が60~75歳の間で選べるようになる

今回の改正で、2022年4月からは75歳まで繰り下げることができるようになります

これまでも公的年金は60~70歳までの間で、自分の受け取りたいタイミングで自由に受け取りを始めることができました。65歳の受取開始を基本として、最大60歳まで繰り上げたり、最大70歳まで繰り下げたりすることができたのです。

繰り上げる場合は、繰り上げ1ヶ月あたり0.5%年金額が減額されます。最大60歳まで60ヶ月繰り上げると、30%減額された年金を一生受け取ることになります。一方、繰り下げる場合は、繰り下げ1ヶ月あたり0.7%年金額が増額されます。最大70歳まで60ヶ月繰り下げると、42%増額された年金を一生受け取ることになります。

それが今回の改正で、2022年4月からは75歳まで繰り下げることができるようになります。増額率は0.7%で変わらないので、75歳まで繰り下げると年金額は84%増額されます。何歳まで生きられるのかが分からないので、受取開始を何歳にするのが一番有利かは一概に言えませんが、選択肢が拡大されたことは歓迎すべきでしょう。

なお、今回の改正に合わせて、繰り上げた場合の減額率が0.5%から0.4%へと軽減されることが決まりました。

(4)DCの加入可能年齢の引き上げと、受取開始時期の選択肢の拡大

今回の改正によって規約による定めが不要となるので、iDeCoを利用できる人がかなり増えることになる

確定拠出年金(DC)には、勤務先の企業が導入し、その企業に勤める人が利用できる企業型DCと、自営業者や公務員、専業主婦、企業型DCが導入されていない企業に勤める人などが金融機関を通じて利用できる個人型DC(iDeCo)があります。

いずれも加入可能年齢は、原則60歳未満です。ただし、企業型DCについては、規約で定めることにより65歳未満とすることができました。

これを今回の改正では、2022年5月からは企業型DCでは上限を70歳未満とし、個人型DC(iDeCo)では上限を65歳未満へと引き上げることになりました。ただし、企業型DCでは規約の定めが必要、個人型DC(iDeCo)では国民年金被保険者であることが必要なので、誰もが加入年数を増やせるわけではない点には注意が必要です。

また同時に、受取開始時期の選択肢が拡大されます。DCのお金は、60歳から70歳までの間に受け取りを開始する必要がありましたが、上限の年齢が75歳まで引き上げられることになりました。2022年4月以降は、75歳までDCの受取開始を待つことができるようになるわけです。

なお、企業型DCと個人型DC(iDeCo)の併用について、これまでは企業型DCの規約による定めが必要でしたが、2022年10月からは、規約の定めがなくても一定の限度額の範囲内で個人型DC(iDeCo)を利用できるようになります。

これまでは、勤務先の企業型DCの掛け金が少なくても、規約で個人型DC(iDeCo)との併用が認められていなければ、iDeCoを利用したくてもできない状態でした。それが今回の改正によって規約による定めが不要となるので、iDeCoを利用できる人がかなり増えることになるでしょう。

今回は、2020年改正の4つの項目の改正ポイントをまとめてみましたが、全体的には働く人の保障を手厚くするような改正であったように思います。税制や社会保険制度は、時代とともに変化していくのが世の常です。知らないで損をすることのないよう、定期的にチェックしていくようにしましょう。

(最終更新日:2020.06.29)
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