【データでみる】新型コロナ影響で「口紅」を買う人が少なくなったわけ

新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、3月25日に小池都知事が緊急記者会見を行い、不要不急の外出を自粛することを要請しました。その後、4月7日に改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言を7都府県対象に発令し、16日には対象を全都道府県に拡大しました。それに伴い、私たちの消費行動も大きく変わりました。在宅勤務をする人も増え、最低限の買い物以外の外出はしなくなりました。消費行動の変化について、データを基に見ていきましょう。

新型コロナは「泣きっ面に蜂」

総務省統計局が発表した2020年3月分の家計調査報告を詳しく見ていくことで、私たちの消費行動の変化が明確に分かります。まず、消費行動自体を見ていくために、物価変動を考慮した二人以上世帯の実質消費支出を確認します。

実質消費支出は前年同月比−6.0%となり、6ヶ月連続で減少となりました。6ヶ月前というと、2019年10月ということになります。2019年10月といえば、消費税が8%から10%に引き上げられた時です。

つまり、消費増税の影響で家計がお金を使わなくなったところに、新型コロナウイルスの問題が発生して、さらにお金を使わなくなったというのが日本の現状だったのです。

(出所):総務省統計局『家計調査報告(令和2年3月)』のデータを基に株式会社マネネが作成。

それでは3月の消費支出の内訳を見てみましょう。

(出所):総務省統計局『家計調査報告(令和2年3月)』のデータを基に株式会社マネネが作成。

支出の約3割を占めるのが食料になりますが、物価を調整した実質ベースでみると、食料への支出は2ヶ月ぶりに減少となりました。その内訳を見ると、外食への支出が減っています。一方で、光熱・水道への支出は増えており、実質ベースでは9ヶ月ぶりに増加となっています。内訳を見ると上下水道や光熱費への支出が増えており、前述の外食への支出減少と併せて見ると、しっかりとStay Homeが実践されていることが分かります。

外で消費しなくなった

家計調査の全品目について、物価を調整した実質ベースで前年同月比の増減を細かく見ていくと、さらに私たちの消費行動の変化が確認できます。

まず、交通について見てみましょう。鉄道運賃は前年同月比65.2%減、航空運賃は同84.7%減、タクシー代は同44.7%減と、軒並み大幅減少となっています。電車も飛行機も乗らなくなったことが分かります。

それに伴い、パック旅行費は同83.2%減、映画・演劇等入場料は同69.6%減、文化施設入場料は同71.4%減、遊園地入場・乗物代は同86.8%減となっています。いわゆる遊園地、映画館、美術館などに行く人もいなくなったことが分かります。

食事代が同30.3%減、飲酒代が同53.5%減となっていることもふまえれば、会食や飲み会もほとんど行われなくなったということが分かります。既に日本でも感染者数が減少傾向にありますが、これらのデータが証明するように私たちがしっかりと不要不急の外出を自粛している効果が出てきたのでしょう。

在宅勤務が本格的に定着した?

外出をしなくなった代わりに、家にいる時間が増えたと考えられます。まず、食料への支出を見てみると、パスタが前年同月比44.4%増、カップ麺が同15.7%増、冷凍調理食品が同22.2%となっています。外食できないうえに、スーパーへ食材を買いに行くことも極力避けたいという人たちが、長期間保存ができて、かつ調理が楽な食品への支出を増やしているのでしょう。

また、チューハイ・カクテルが同22.8%増となっています。これは、ZoomやLINEを活用した「在宅飲み」をする人が増えたことを表しています。

在宅勤務が本格的に定着してきたことも分かります。インターネット接続料が同12.4%増と伸びています。これまではオフィスで仕事をしていた人たちが、在宅勤務になりウェブ会議をする機会が増えてきたことから、自宅のインターネットの通信速度を引き上げるなどの対応をしたと考えられます。

化粧をする必要がなくなった

データを細かく見ていくと、様々なことが分かります。筆者は男性ですので、データを見るまでは気付かなかったのですが、マスクを含む保健用消耗品が前年同月比17.8%増となる一方で、口紅が同22.2%減と大きく減少しています。

そもそも外出する機会が減ったため、化粧をする必要がなくなったと思うのですが、同じ化粧品でもファンデーションは口紅ほど支出が減っていません。これらのデータから分かることは、外出の機会が減ったことでそもそも化粧品への需要はなくなったが、近所への食材の買い出しには出掛けるため、その際は最低限の化粧はする。しかし、マスクをするので口紅はいらない、ということなのでしょう。

買い物やレジャーに「データ」がもたらす更なる変化

このように、公的な経済統計から新型コロナウイルスが私たちの消費行動に与えた変化を確認することが出来ます。新型コロナウイルスの影響でこんな変化が生じているかもしれない、と漠然と思っていたことも、このように国が発表する経済指標を確認することで、なんとなくという感覚的な話ではなく、データに裏付けされた意見とすることが出来ます。しかし、国が発表する経済指標は1ヶ月ほどのタイムラグが生じます。たとえば、5月に発表される経済指標は4月の結果になるということです。

今後はクレジットカードの決済情報やレジに搭載されているPOSデータなど、リアルタイムで蓄積されていくビッグデータを民間企業が分析し、速報性を持った民間発の経済統計が一般的になっていくと考えられます。

このようなビッグデータに基づいた速報性がある経済指標が普及してくると、私たちの生活にも大きな変化が生じます。たとえば、モノやサービスの価格が需給に応じて変化していくと考えられます。このような仕組みをダイナミックプライシングと言いますが、既にユニバーサルスタジオジャパンはこの仕組みを導入していて、1日券「1デイ・スタジオ・パス」は日によって500円差が生じたります。AIが需給に応じて値段を調整していくことで、繁忙期はチケットの値段が高くなり、閑散期にはチケットが安くなることで、消費者は当日の混雑度とチケットの値段というトレードオフの関係の中で、自分が一番心地よいと思う選択をすることになります。

今回の新型コロナウイルスの影響で、不特定多数の人が触った硬貨や紙幣を触る機会を減らしたいということから、キャッシュレス決済の利用率が高まったという報道もあり、これもまた私たちの消費行動がデータ化されることを意味しますので、今後はデータに基づいた価格設定や商品開発が進んでいくでしょう。

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