高校授業料無償化は、高等学校等における教育費の経済的負担を軽減するため、国が授業料を支援する制度で、すでに多くの方が利用されていますが、実は2020年4月から所得要件や支援額の上限が変わっています。今回は高校授業料無償化の改正点を見ていきます。
1.高校授業料無償化ってどんな制度?
もともとは2010年に成立した「高校無償化法」から始まりました。当初は公立高校の授業料が免除、私立高校に通う生徒の場合には同額の「就学支援金」が支給されるというもの。その後2014年に制度が改正され、現在の高等学校等就学支援金制度(高校授業料無償化)になったというわけです。
では、現行制度での対象、支援額などを確認しておきましょう。
まず、支援の対象は、公立か私立を問わず、高等学校や高等専門学校、専修学校(高等課程)などに通う生徒ですが、世帯年収が約910万円を下回る世帯の生徒に限られます。
対象世帯となると、公立高校の授業料相当額にあたる年11万8,800円が支給され、また私立高校に通う場合でも年収590万円未満の世帯であれば、さらに「加算支給」として年収に応じて一定額が上乗せされる仕組みです。
なお、就学支援金は、行政機関や学校法人などが生徒本人に代わって受給して、授業料に充当するもので、生徒や保護者が直接受け取れるものではありません。いずれにしても、教育費という大きな負担について、経済的な支援を受けられるのは家計にとって嬉しい制度ですね。現在、約8割の生徒が対象となっているそうです。
2.2020年4月からは支援額と所得判定基準が見直しされる!
2020年4月からの改正点は2点です。国や都道府県の説明資料では、「両親・高校生・中学生の4人家族で、両親の一方が働いている場合」の「年収の目安」がモデル世帯として使われているので、ここでも上記のモデル世帯での世帯収入を基準に見ていきます。
【1】一部の世帯について私立高校の就学支援金額が引き上げられる
これまで私立高校に通う場合の就学支援金額は、所得に応じて3段階となっていましたが、2020年4月からは段階制を廃止して、一律、39万6,000円までの支給額に引き上げました。上限額を超えた差額分は自己負担ですが、この範囲内であれば、授業料の負担なしで私立高校に通えますし、支援金額が増えることでこれまで授業料に充てていた資金を塾代やお稽古代などに充てることもできるのは嬉しいですね。
ちなみに、この39万6,000円というのは、全国の私立高校の授業料の平均水準となっています。
<改正前の加算額>
・年収270万円未満の世帯:年29万7,000円加算
・年収350万円未満の世帯:年23万7,600円加算
・年収590万円未満の世帯:年17万8,200円加算
<改正後の支給額>
なお、引上げ後の支給額は、これから入学する生徒だけでなく、2020年度よりも前に入学した生徒にも適用されるのでご安心を!
【2】所得判定基準が変わる!
これまでは(2020年6月まで)、所得判定基準は地方税の「所得割額」を基準としていましたが、2020年7月分以降は保護者等の「課税所得」を基準として判定します。
具体的には、
「市町村民税の課税標準額×6%-市町村民税の調整控除の額」
で計算されたものが判定の基準となります。
所得基準は、扶養控除など各種控除を引いた後の金額で判定されるため、仮に世帯年収が同じでも、子どもの数や年齢、配偶者が専業主婦(夫)か共働きかなどによって支援金額が変わる可能性がありますが、この点はこれまでと変わりありません。
ちなみに、「両親・高校生・中学生の4人家族で、両親の一方が働いている場合」のモデル世帯では年収590万円未満(私立高校水準額の支援)、年収910万円未満(公立高校水準額の支援)が支援のボーダーラインの年収目安でしたが、もし「両親・高校生2人・共働き」の場合での年収の目安はそれぞれ、年収720万円未満、1,070万円未満になります。ボーダーラインの年収の方は、要チェックですね。
3.支援を受ける場合の注意点は?
まず、注意が必要なことは、この制度で無償化されるのは、あくまでも授業料のみ、という点です。私立高校では、入学金はもちろん、施設使用料、教材費、修学旅行などの課外授業費、寄付金など授業料以外に負担する費用が多くなっています。いくら授業料がタダだからという観点で安易に学校を選ぶと、その他の負担で家計が回らないということもあるので、しっかり確認をしておきたいものです。
なお、生活保護世帯、住民税非課税の世帯であれば、こういった授業料以外の負担を支援する高校生等奨学給付金という制度があります。
また、高等学校等就学支援金は後払いだという点にも要注意です。支援金給付の手続きは、通常、入学後の4月に申請書類が配布され、学校を通じて手続きをします。そして、手続き完了後に国から支援金が学校に直接振り込まれることで、後日授業料が還付されたり相殺されることになります。
やはり入学時にはある程度まとまったお金を準備しておく必要があるので、計画的に資金準備をしておきましょう。
4.都道府県独自の支援制度も要チェック
実は、東京都では今回の国の制度改正を受けて、都独自の支援制度についても年収要件を緩和します。これまでは、授業料軽減助成金は「年収760万円未満」の世帯に支給していましたが、2020年4月以降は「年収910万円未満」に引き上げられました。授業料軽減助成金は国の就学支援金に上乗せして支給を受けられるので、結果、都内に住む年収910万円未満の世帯では私立高校の授業料が無償になったわけです。地域によって、このような独自の支援制度を実施している自治体もあるので、自分の住まいの自治体の支援制度もチェックしてみてはいかがでしょうか。
今回の改正は、資金面がネックで希望する私立学校に進学できない、という世帯にとっては教育の選択肢の幅が広がることにつながり、朗報といえます。
少子高齢化が進んでいる日本では、今後も教育費など子育て支援制度は拡充されていくことが予想されます。現行制度だけでなく、制度改正についてもしっかりアンテナをはって使い漏れのないようチェックしておきたいですね。