【本当に住みやすい街の本当の理由─赤羽編】自分の日常が地元の歴史になっていく街

住みやすいと人気の高い街には共通項があります。交通の便のよさ、教育・文化施設や子育て支援など公共面での充実、再開発計画などの将来性。しかし、スペックを見比べるだけでは、その街の空気感、日常の充実度、これからの生活のイメージはなかなかつかみにくいもの。そこで、話題の街の日常に1歩深入りし、その街を見続けてきた人たちを訪ね、「この街の住みやすさの本当の理由」をお聞きしました。今回は「ARUHI presents 本当に住みやすい街大賞」でも不動の人気を示す「赤羽」の魅力を探りました。

※本記事は2020年3月取材時の内容を元に構成しています。新型コロナウィルス感染対策のため一部店舗やスポットは通常通りに営業していない可能性があります。詳しくは各ホームページをご確認ください。

異なる便利さがコンパクトに共存し、相乗効果を生む街

赤羽の特徴の1つに、交通アクセスのよさがあります。赤羽駅はJR京浜東北線や埼京線、湘南新宿ライン、上野東京ラインが利用でき、池袋や新宿、渋谷、上野といった都心部の拠点への移動を容易にし、鎌倉へも1本で行ける手軽さがあります。

駅西側を出ると駅前ロータリー、複数の大型ショッピングセンターやビル群の風景が広がりますが、徒歩数分で武蔵野台地の東縁「赤羽台」に突き当たります。ここから先が東京における「山の手」です。かつての赤羽台団地が、UR都市機構による再開発で「ヌーヴェル赤羽台」へと生まれ変わりました。都市的なデザインと自然とが隔合した、駅の近くとは思えない静かで落ち着いた景観が広がります。

赤羽駅西口側から赤羽台方面を望む。段差の上に建つのが「ヌーヴェル赤羽台」(写真左)。「ヌーヴェル赤羽台」側から赤羽駅方面を望む(写真右)
ヌーヴェル赤羽台。建物間に木々を配置し、都市と自然をバランスよく融合している街の景観づくりには、多くのデザイナーが参加しています

赤羽の住みやすさは、駅の東西で異なる趣を持ちながら、互いに補完し合っている点です。赤羽駅周辺には、生活全般がまかなえる複数の商業エリアがあり、広域に人の流れが生まれ「にぎわい」を感じさせるのです。高架下を活用したショッピングモール「ビーンズ赤羽」はJRが運営。約350mにわたり、飲食や物販、ホームセンターの店舗が軒を連ねます。高架脇の「赤羽一番街商店街」は、約400mの路地に100店舗ほどが営業。程よい雑然と庶民ぽいあたたかみが漂い、昭和な雰囲気の居酒屋は「むしろ新しい」と若者や女性のグループにも注目されています。視線を駅前通りの東の先に向けると「LaLaガーデン」のゲートが見えます。1997年に完成した生活用品の店やスーパーなど約100店舗が並ぶ都内最大級の天蓋アーケードです。

赤羽駅東口駅前。夕暮れ時には、街を出て行く人と帰って来る人が交差します
高架下の「ビーンズ赤羽」(写真上)。左手前が「赤羽一番街商店街」。右手奥に見える緑色の入口が「LaLaガーデン」(写真下)
「LaLaガーデン」のゲート。ここからは「赤羽スズラン通り商店街」です
「LaLaガーデン」を出た後も「志茂スズラン通り商店街」(写真左)、「志茂平和通り商店街」(写真右)が続きます

父親たちの世代が始めたイベントが地元の「民俗文化」になっていた

赤羽では、毎年4月の最終土曜日・日曜日に「赤羽馬鹿祭り」が開催されます(2020年は翌年に順延)。1956年に地元の商店主たちが企画した商業祭りで、エイプリルフールにちなんで命名されました。やがて規模の拡大、参加者の多様化などから名称が「大赤羽祭」となりましたが、2012年の第57回から元の名称に変更。現在まで続く北区最大の市民イベントです。

2019年5月11日、12日に開催された「第64回赤羽馬鹿祭り」。駅前東口通りから商店街をコースに行われるパレードは、音楽隊や神輿など地元の人びとが総出で参加し、街全体がにぎわいます(写真提供:赤羽馬鹿祭り実行委員会)

「赤羽馬鹿祭り」の実行委員長を務める森岡謙二さんは、第1回「馬鹿祭り」に9歳で参加しました。それから60年をこえて続いている理由は、人びとの自主的な参加意欲だといいます。規模が大きくなれば、いろいろな人が参加し、祭りの趣旨も「商業振興」だけでなく「地域活性化」など多様化してきました。時にはそれぞれの思いがぶつかり、その度にそれを乗りこえ気持ちを1つにし、変化を重ねながらも「地元の人が楽しめる祭り」という1点を変えずに今日まで継承してきたそうです。

「今年、北区の博物館による『赤羽地区民俗調査』を見て驚きました。地域の伝承・行事の調査対象に、寺社の伝統行事に並んで『赤羽馬鹿祭り』が選ばれていたのです。私が子どもの頃に父親世代が始めたイベントが、私が生きている間に地域の「民俗」の行事として位置付けられる。そうした『歴史を作る』行為が、地域で自分たちの手でできることに驚きと喜びを感じました」(森岡さん)

「赤羽馬鹿祭り」の実行委員会の委員長を務める森岡謙二さん(写真左)。「LaLaガーデン」の天蓋アーケードは、地域振興のための規制緩和によって実現したものなので、同じ規模のものはもう作られないだろうとのこと

「赤羽のよさ」という視点で見渡すといろいろな可能性が見えてくる

子高齢化、街づくりの担い手の後継者不足は、どの地域でも共通の課題です。しかし、そうした課題に対して赤羽ならではの解決の道があるのではと森岡さんはいいます。

「以前は、荒川に行き当たる奥行きの狭い商圏を『限界』と感じていました。交通の利便性のよさも、お客さんが外へ出て行ってしまうとマイナス材料として考えることも多かった。しかし、人生を重ね、家業だけでなく地域活動や、さらに広いコミュニティの活動をするようになると、赤羽の地元で何でも揃う便利さと、どこにでも出て行きやすいフットワークのよさは、私たち自身の住みやすさであると気づいたのです。今では、赤羽はどこよりもいい街だと実感するようになりました」(森岡さん)

赤羽台の再開発などによる地域全体の価値の向上、荒川を見渡す大きなマンション建設に伴う新住民が感じる「自然豊かな赤羽」という新たなイメージ……気づかないところで「広がり」を見せる赤羽の街の変貌に「地元の課題」の解決策があると考えるようになったそうです。

外から見た街の評価は「話題」に目を奪われがちです。最新の施設、人気のイベント、話題のエリア……。そうした最新情報は、場所を変え、新たに生まれ、目移りします。しかし、赤羽では、ここに住む人の手作りの「今」がずっと続くことで、少しずつ確実に街を変えてきた実績がありました。時代に合わせ、互いに協力する街づくり。現代社会で失われたコミュニケーションの力が赤羽にはあるようです。

「本当に住みやすい街大賞」から見た「赤羽」の今を分析する

「ARUHI presents 本当に住みやすい街大賞」における「赤羽」のランキング(10位圏内)推移は次の通りです。

○2017年 3位(総合評価4.10/発展性4.6/住環境3.6/交通の利便性4.3/コストパフォーマンス4.0/教育・文化環境4.0)
○2019年 1位(総合評価4.54/発展性5.0/住環境4.8/交通の利便性4.9/コストパフォーマンス4.0/教育・文化環境4.0)
○2020年 2位(総合評価3.92/発展性4.0/住環境3.8/交通の利便性4.8/コストパフォーマンス3.0/教育・文化環境4.0)

ランキング上位常連としてまさにAクラスの街。北区全体の地価が上昇傾向にある中、前年比10%を超ええる地区もあり、また大型マンション建設も続くため「コストパフォーマンス」面で「お手頃」感は後退しているようです。

上昇し続ける街の価値を見いだし、資産価値のあるマンションを売って数年で別の街に出ていく人も少なくないそうですが、そうした人びとが「赤羽の住みやすさ」を後から感じるといいます。「赤羽」の魅力は、何といっても「生活の活気」「街のにぎわい」が駅周辺にあり、その周辺に暮らしと自然がグラデーションを描いていることでしょう。

学校、医療、自然。それらは、ある時期だけ必要なものかもしれませんが、住み続けることで「常に住みやすい街」を感じることができるものです。「赤羽」のコストパフォーマンスは、長期的視野で見る必要もありそうです。

取材協力
赤羽スズラン通り商店街振興組合「LaLaガーデン」
赤羽馬鹿祭り実行委員会

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