近年、台風や大雨など災害で住宅や家財に損害を受けてしまうケースが増えています。万が一、被害に遭ってしまった場合には少しでも支出を減らしたいものですよね。災害時における所得税・住民税の軽減制度について紹介します。
「雑損控除」ってどんな制度?
台風や大雨など災害で住宅や家財になどに損害を受けた場合には、「雑損控除」と「災害減免法」による所得税の軽減あるいは免除を受けることができます。
「雑損控除」とは、生活に必要な住宅や家財、業務用資産について災害・盗難・横領によって損害を受けた場合、一定金額を所得税から差し引ける制度です。
(1)どんな損害や支出が対象?
台風や大雨、地震による土砂崩れや浸水、家屋の倒壊などで、住居や家財、車など生活に必要な財産について損害が出た場合が対象です。
また、本人や配偶者が所有している自宅だけでなく仕送りで生活する親族が所有している自宅(生計を一にする親族等については所得制限あり)、一定の規模以内の賃貸用不動産、通勤用の車、土砂の除去作業にかかった費用など原状回復に使った費用なども損害の対象に含めることができます。
ただし、別荘が被害を受けた場合や避難した場合のホテル代、避難先の賃料、趣味のスポーツカーや営業車などは含めることはできません。あくまでも「生活に必要な財産」に損害が出た場合とそれらを復旧するための支出が対象です。
(2)どれくらい控除してくれる?
では、どのくらい税金を減らすことができるのでしょうか?
「損失額-所得金額の10%」もしくは「損失額のうちの災害関連支出金額-5万円」のうちいずれか多い金額を、災害を受けた年の所得金額から引くことができます。いわゆる所得控除のひとつ、ですね。所得金額が減るので、結果的に支払う所得税も安くて済む、ということです。
なお、その年の所得金額から控除しきれない金額があるときには、その金額を最大翌年以降3年間繰り越して各年の所得・税金を減らすことができます。なお、所得税について確定申告をすれば、同様に住民税についても軽減を受けられます。
(3)損害の金額がわからない場合には?
ここで問題となるのが、「損失額」をどうやって把握するのか、ということです。損失額は、「災害に遭う直前の価格」と「災害に遭った直後の価格」の差になるわけですが、いちいち家財ひとつひとつの価格を把握できるわけもなく、ましてや被災した後に損失額を把握するのは難しいです。そこで、簡単に損失額を見積もることができるよう、国税庁では、「損失額の合理的な計算方法」を住宅、家財、車両の主に3種に分けて公表しています。
例えば、家財については「家族構成別家財評価額」×「被害割合」で簡単に損失額を計算できるようになっています。「家族構成別家財評価額」は世帯主の年齢と家族構成によって決められており、例えば、世帯主が50歳以上の夫婦2人世帯では1,150万円です。これに大人(年齢18歳以上)1人につき130万円加算、子供(年齢18歳未満)1人につき80万円を加算していきます。「被害割合」は被害状況に応じて「被害割合表」にある割合を使います。例えば、平屋で床上浸水1.5mの場合の損害割合は、「家財100%・住宅80%」ですので、世帯主が50歳以上の夫婦2人世帯では、家財の損害額は「1,150万円×100%=1,150万円」と見積もることができます。
なお、この損害割合は、「り災証明書」に記載される被害の程度(証明内容)とは違いますので、確定申告する場合には注意が必要です。
家族構成別家財評価額や損害割合表は国税庁のHPで確認してみてください。
「災害減免法」ってどんな制度?
災害によって大規模な被害を受けた場合に所得税そのものが減免されるのが災害減免法です。住宅、家財について、50%以上の被害をうけた場合で、その年の所得金額が1,000万円以下であれば適用を受けられます。
(1)どんなものが対象になる?
対象となるのは、あくまでも本人や本人と生計を一にする配偶者や親族(所得制限あり)が所有する住宅と家財に大規模な損害をうけた場合です。賃貸用の不動産物件はもちろんのこと、別荘も対象外です。
(2)損害割合が50%以上というのはどう判断する?
住宅と家財、別々に「50%以上の損害かどうか」の判定をして、どちらかでも50%以上と判断されれば、制度の適用を受けられます。
具体的な判定は「災害直前の時価」と「災害直後の時価」で計算しますが、火災保険や地震保険などの保険金を受け取った場合には、保険金額を引いた金額が損害額となります。もし、個別に損失額を判断できない場合は、雑損控除と同様に「損失額の合理的な計算方法」で計算をすることができます。
(3)どのくらいの所得税が減免されるの?
その年の所得金額によって減免される金額は変わります。具体的には、以下の通りです。
なお、災害減免法は雑損控除と違って1年限りの制度ですので、翌年以降の繰り越しはできませんし、住民税の適用もありません。ただし、自治体によって住民税減免の取り扱いをしているところもあるので、住んでいる県や市区町村に確認してみましょう。
「雑損控除」と「災害減免法」はどちらか一方だけ
雑損控除と災害減免法は適用となる対象者、対象となる資産の範囲、軽減できる所得税額、適用年数などが異なり、また同時に使うことができないので、両方の条件を満たしている場合には、自分にとって有利な方を選択する必要があります。
どちらが有利かの目安
まず、所得金額1,000万円(給与収入1,221万円以上)の場合、あるいは、住宅または家財の損害が50%未満の場合、災害減免法は受けられないので雑損控除を受けることになります。
「災害による損失額が所得金額を上回る場合」には、雑損控除のほうが有利といえます。というのも災害減免法は1年限りの制度ですので、災害減免法では、どんなに損失額が大きくてもその年の所得税が免除されておしまいですし、所得金額500万円超1,000万円以下の人では所得税が1/2あるいは1/4しか免除されません。
一方で、雑損控除の適用を受ければ、控除しきれない額は翌年以降3年間繰り越しをして、所得金額から引くことができ、つまり最大4年間所得税の減額を受けられるのでメリットが大きいといえるでしょう。
では「災害による損失額が所得金額よりも小さい場合」にはどうでしょうか?
この場合には、適用を受ける年の所得金額によって変わります。所得金額500万円以下であれば、災害減免法の方が有利です。というのも、災害減免法ではその年の所得税は全額免除されますが、損失額が所得金額よりも小さい場合には、雑損控除を受けても所得金額が残ってしまい、結果、所得税を支払わなければならないからです。
所得金額500万円超1,000万円以下の場合には、扶養控除の金額や所得控除の金額、損失金額によってどちらが有利か変わりますが、一般的には損失の金額が大きい場合には、雑損控除の方が有利となるケースが多いです。このあたりは、最寄りの税務署に相談することをお勧めします。
いざというときにしっかり活用できるよう、日頃からチェックしておきたいですね。