基本的に鉄道の駅名は「東京駅」や「渋谷駅」のように、そのエリアの地名などから採用されるケースが多いようです。ですが近年では「天王洲アイル駅」のようにカタカナ交じりの駅名も見られ、さらには「YRP野比駅」などアルファベットが入った珍しい駅名も登場。
当記事ではそんなユニークな駅名にスポットを当て、その由来を解説していきます。
賛否両論を呼んだキラキラ駅名
2020年春、JR山手線の「品川駅」と「田町駅」の間に新たな駅が誕生しました。それが「高輪ゲートウェイ駅」で、山手線では実に49年ぶりの新駅となります。駅名が発表されたのは、2018年12月でしたが、そのネーミングを巡っては賛否が分かれ、メディアでも大きく報じられました。
ゲートウェイには「出入り口」などの意味がありますが、JR東日本は命名の理由として、駅周辺が「古来より街道が通じ江戸の玄関口として賑わいをみせた地」であることを挙げています。それゆえ新駅にも東京都心の玄関口としての役割が期待されていることがわかります。
ただ一方では、「歴史ある高輪のイメージにそぐわない」「不自然なキラキラ駅名だ」など否定的な意見も多く聞かれました。
確かに高輪ゲートウェイ駅のように漢字とカタカナを組み合わせた駅名には奇抜な印象を受けます。
ですが他に例がないわけではありません。同じパターンの駅名としては品川区の「天王洲アイル駅」が挙げられます。
かつて小さな島だった天王洲アイル
天王洲アイル駅は羽田空港と浜松町を結ぶ東京モノレールの駅として1992年に開業。その後、2001年にりんかい線(東京臨海高速鉄道)と接続し、両線の乗り換え駅となりました。区間快速を利用すれば羽田空港まで約11~17分で到着することができるため、利便性の高い駅として知られています。
駅周辺は1985年に民間で最大規模といわれる開発事業により発展を遂げたエリアの1つですが、実は全域が埋立地で、江戸時代以前は海でした。天王洲という地名は、江戸時代中頃に船乗りが海からインドの守護神である牛頭天王の面を引き揚げたことに由来するといわれています(諸説あり)。
やがて江戸末期に黒船が来航すると、海防強化のために幕府は「台場」と呼ばれる砲台を6つ築造しました。そのうち「第四台場」として誕生したのが、天王洲であったというわけです。
そして「アイル」とは英語の“isle”で「島」の意味。文字通り、このエリアが元は小さな島であったことを示しています。
偶然? 3駅並んだ「漢字+カタカナ」表記の駅名
りんかい線・天王洲アイル駅の両隣には、偶然でしょうか、「漢字+カタカナ」で表記された駅があります。それが「品川シーサイド駅」と「東京テレポート駅」です。
前者の駅名はオフィスビルやショッピングセンターが立ち並ぶ複合施設「品川シーサイドフォレスト」に直結していることに由来すると考えられます。
後者はリゾートアイランド・お台場の中心にある駅で、その駅名には物悲しい過去があります。「テレポート」には「通信の港(拠点)」といった意味合いがありますが、駅や周辺に、それらしい施設は見られません。それなのになぜこのような駅名が付けられたのでしょう。
その答えは1980年代に計画された「東京テレポート構想」にあります。これは東京湾の埋立地に、当時最新の情報通信システムを完備したオフィス都市を造り上げるという壮大なもの。1996年に開業した東京テレポート駅は、その未来都市の中心駅となる…はずでした。
ところがバブル経済の崩壊で計画は頓挫。駅周辺にはオフィス都市の代わりに、東京ジョイポリスなどのアミューズメント施設が数多く誘致され、「テレポート」の名は駅だけに残ったというわけです。
他にもカタカナの交じった駅名として、関東圏では埼玉県越谷市の「越谷レイクタウン駅」(JR東日本)や横浜市の「たまプラーザ駅」(東急電鉄)などがあります。
たまプラーザ駅は1966年に、大規模民営ニュータウンである「東急多摩田園都市」の中核駅として開業しました。駅名を発案したのは当時の東京急行電鉄の社長だったそうです。プラーザ(plaza)とはスペイン語で広場を意味します。60年代という時代を考えると画期的な駅名であったと思われます。
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超レア! アルファベットの入った駅名
カタカナの駅名は人目を引くものですが、国内にはなんと英文字が使用されている駅もあります。それが神奈川県横須賀市の「YRP野比駅」(京浜急行電鉄)で、全国で初めて名前にアルファベットが付いた駅です。
駅が開業したのは1963年11月のこと、当初の駅名は「野比駅」と地名から採られた地味なものでした。名前に「YRP」が足されたのは、開業から35年後の1998年4月のことです。改名のきっかけは、駅の北側に、ある大型研究施設が開設されたことでした。
それが「横須賀リサーチパーク」。国際的な電波・情報通信技術研究開発の拠点となる施設で、58万8,000平方メートル(東京ドームおよそ13個分)の広大な敷地には、国内外の企業や大学など50を超える機関の研究施設が集結しています。
この横須賀リサーチパークの略が「YRP(Yokosuka Research Park)」で、地元住民からの要望もあり、駅名にアルファベットが冠されるようになったのです。
ホームの駅名標には「わいあーるぴーのび」のルビが振られていますが、そこにはどこかおかしみが感じられます。
アルファベット入りの駅名は大変珍しいですが、YRP野比駅が唯一というわけではありません。同駅が改名した5ヶ月後、広島県廿日市市では「JA広島病院前駅」(広島電鉄)が開業しています。ここでいうJAとは「農業協同組合」の愛称です。
また2019年には福島県双葉郡に「Jヴィレッジ駅」(JR東日本)が誕生。こちらは東日本大震災の影響で閉鎖されていた、サッカーのナショナルトレーニングセンター「Jヴィレッジ」のオープンに合わせて建設され、平成の日本で最後の開業となった鉄道駅です。国内で唯一「ヴ」が付く駅で、駅名標のルビは「じぇいびれっじ」と記されています。
「馬喰町駅」「南蛇井駅」「安食駅」…由来を知れば納得
カタカナやアルファベット表記でなくても、気になる駅名はあります。例えば、東京都中央区にある「馬喰町駅」(JR東日本)も名前の由来が知りたくなる駅の1つです。
「馬を喰う」と書きますが、別に住民が馬肉を好んでいたというわけではありません。馬喰とは博労とも言い、牛馬の売買を行う仲介業者を意味します。江戸時代にこの界隈で多くの馬喰たちが住んでいたことが駅名の由来です(諸説あり)。なお「ばくろう」ではなく「ばくろ」と読むことに注意。
同じく動物の名が入る関東圏の駅名としては、群馬県富岡市の「南蛇井駅」(上信電鉄)があります。「なんじゃい」とは、何とも珍妙な語感ですが、由来は諸説あり、アイヌ語で「川の流域が広くなった場所」を意味する「ナサイ」が訛ったとも、地域の井戸から大蛇が現れた伝説にちなんだとも伝えられています。
また千葉県印旛郡の「安食駅」(JR東日本)も不思議な駅名です。この地域では昔から幾度となく水害に見舞われていました。そのため住民が駒形神社を建てて五穀豊穣を祈ったところ、飢饉に苦しむことなく安心して食事ができるようになったとか。安食の駅名はこの伝承に由来するといわれます。
一方、シンプルな駅名でも意外な由来を持っている駅があります。一例を挙げると東京都国立市の「国立駅」(JR東日本)がそうです。この駅は、「国分寺駅(現在は西国分寺駅)」と「立川駅」の間に建てられたため、両方の頭文字を取って「国立」と名付けられたのです。開業は1926年で、駅名はそのまま国立市の名前に採用されました。
ずいぶんと大雑把なネーミングのように思えますが、国立市によると「この地から新しい国が立つ」との願いともあいまって、市民に受け入れられたということです。
このように鉄道の駅名には開業当時の世相が反映されていたり、人々の想いが込められていたりするケースが見られます。そしてその由来を知れば駅や周辺エリアにより親しみや魅力を感じることができるのではないでしょうか。
<参考>
「くにたちの歴史」(国立市)
http://www.city.kunitachi.tokyo.jp/about/about1/shoukai/1465447630832.html