忍び寄るマンション高齢化時代に光明? 「管理計画認定制度」始動へ

マンションの適切な管理を促し、修繕費用の積み立てや管理組合活動を計画通りに実施するための「マンション管理適正化法」の改正案と、老朽化マンションの建替えを促進するための「マンション建替え円滑化法」を改正する法律案が、2020年2月28日に閣議決定され、2022年度の各種制度の完全施行に向けて本格的に動き出しました。

老朽化マンションの増加に対応してふたつの法律を改正

「マンションの管理の適正化の推進に関する法律(マンション管理適正化法)及びマンションの建替え等の円滑化に関する法律(マンション建替え円滑化法)の一部を改正する法律案」

閣議決定された法律は随分と長い名称ですが、要は「マンション管理適正化法」と「マンション建替え円滑化法」と呼ばれるふたつの法律を改正、マンション管理の適正化や建替えを促進していこうということです。

通常国会に上程され、審議を経て成立すれば、2022年度までに各種の施策が施行されることになっています。どんな内容かというと――。

国が基本計画を立てて、自治体が指導・助言などを行う

まず、「マンション管理適正化法」の改正には、次の三つの施策が盛り込まれています。

1.マンション管理適正化推進計画制度を策定
適切な修繕計画が立てられているか、それに基づいて修繕積立金が積み立てられているか、総会や理事会など管理組合の活動が円滑に行われているか――など、マンション管理の適正化を推進するための基本計画を国が定める

2.管理適正化のための指導・助言、勧告などの実施

国の基本計画に基づいて、市区(町村は都道府県)が、必要に応じてマンション管理の適正化のために、指導・助言、勧告などを行う

3.管理計画認定制度の実施

適切な管理計画を有するマンションを認定する

認定マンションは税制上の優遇などで評価が高まる?

詳細は明らかではありませんが、マンションの管理計画認定制度によって認定を受けられたマンションに関しては、税制上の優遇策などのインセンティブを与え、認定マンションの増加を促す方針といわれています。

そのため、管理計画認定制度が実施され、個々のマンションに関して認定状況が明らかになれば、認定を受けているマンションかどうかが、さまざまな面での差別化要因になっていく可能性があります。たとえば、認定を受けられたマンションの評価が高まり、有利に売却できる可能性がありますし、そうでない場合には、評価が低くなって、売却時に不利になる可能性があります。

それだけに、2022年度の完全施行までに、マンション管理組合の活動を見直し、確実に認定を受けられるようにしておく必要があります。

老朽化マンションの建替えを促進する施策も実施

一方、「マンション建替え円滑化法」の改正では、マンションの取り壊しに関する認定条件を拡充します。現在は、耐震性不足の物件に関して、建替えのための条件を緩和して建替えを推進していますが、改正によって、次のふたつのケースも条件が緩和されます。

1.外壁の剥落などにより危険を生ずる恐れがあるマンションなど
 →5分の4以上の同意により、マンション敷地売却を可能にする
 →建替え時の容積率特例を適用する

2.バリアフリー性能が確保されていないマンションなど

 →建替え時の容積率特例を適用する

さらに、団地における敷地分割制度を創設、上記1.などの要除却認定を受けた老朽化マンションを含む団地において、敷地共有者の5分の4以上の同意によって、マンション敷地の分割を可能とします。つまり、団地内のすべてが合意しなくても、単独の1棟でも建て替えやすくしようということです。

2038年には築40年超のマンションが366.8万戸に増える

マンションの管理計画認定制度の創設などによって、マンションの管理の適正化を進め、建替えを促進する背景には、このままでは十分な管理が行われていないマンションが増加、マンションの老朽化が深刻な社会問題になるのではないかという事情があります。

国土交通省によると、2018年(平成30年)末現在のわが国の分譲マンションストック戸数は、図表1にあるように約655万戸ですが、そのうち建築後50年を超えている住戸は6.3万戸で、築40年超50年未満も75.1万戸に達します。これが、今後はますます増加、2028年には築40年超のマンションの合計は197.8万戸に、2038年には366.8万戸に増えるのです。その過程で、建物や設備の老朽化が進行すると同時に、所有者の高齢化も進み、マンション管理の担い手不足が深刻化します。

いま、適切な管理の仕組みを確立しておかないことには、管理不全のマンションが急増、治安、防災、景観などのさまざまな面で由々しき事態になる――そんな危機感があるわけです。

図表1 分譲マンションストック戸数の推移

画像をクリックすると拡大します/出典:国土交通省ホームページ

中古マンションの3分の1は修繕積立金が不足している

実際、いまから手を打っておかないと、事態はますます深刻化せざるを得ない段階にきているのです。
国土交通省では、5年に1度、全国の分譲マンションを対象に大規模な調査である『マンション総合調査』を実施していますが、それによると25年以上の長期修繕計画に基づいて修繕積立金額を設定している管理組合は約54%にとどまっています。

しかも、建築費の高騰などによって必要金額が上昇しているにもかかわらず、積立金の増額を実施できている管理組合は少なく、結果的に長期修繕計画を実施していくための資金が不足している管理組合が多いのが現実です。

図表2にあるように、全体では「不足している」が34.8%で、「余剰がある」は33.8%でした。「不明」が31.4%もありますから、それを差し引いて計算すると、実質的には半数以上のマンションで予算が不足しているとみられます。

図表2 建築年次別の修繕積立金過不足割合

画像をクリックすると拡大します/出典:国土交通省『平成30年度マンション総合調査』

老朽化マンションの管理組合立て直しは簡単ではない

特に1969年以前に竣工したマンションでは、「不足している」は42.9%に達しています。「余剰がある」の35.7%を大きく上回っています。1969年以前の建築ということは、築50年を超えているわけで、このまま修繕を実施できないと、周囲に危険を与えるマンションになりかねません。

こうしたマンションほど、管理組合の立て直しが喫緊の課題ということになりますが、それも決して簡単なことではありません。図表3にあるように、こうした建築後の経過年数の長いマンションでは、空室率や賃貸戸数の割合が高まっていて、なかには所有者と連絡がとれないケースなども増えているといわれます。所有者の高齢化も進んで、管理組合の活動が活発とはいえないマンションが多いのではないかとみられます。


図表3 建築年次別の平均空室率・賃貸戸数割合の変化(単位:%)

画像をクリックすると拡大します/出典:国土交通省『平成30年度マンション総合調査』

「マンションは管理を買え」が再び見直される

だからこそ、認定制度の実施、また自治体の指導や助言などが重要になってきます。より実効性の高い制度の確立を期待したいところです。

と同時に、これからの中古マンション選びにおいては、管理状況のチェックがたいへん重要になってきます。随分以前から、「マンションは管理を買え」ということがいわれてきましたが、改めてこのことばが見直されるようになるのではないでしょうか。

<参考>
国土交通省ホームページ:https://www.mlit.go.jp/common/001290993.pdf
国土交通省『平成30年度マンション総合調査』(260P):http://www.mlit.go.jp/common/001287645.pdf
国土交通省『平成30年度マンション総合調査』(54P・56P):http://www.mlit.go.jp/common/001287645.pdf

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