自然災害大国の日本では、地震や大雨などマイホームの防災が大切になってきます。現在、「大規模盛土(もりど)造成地マップ」というものが全国で公開され始めています。「洪水ハザードマップ」や「液状化マップ」など自治体のさまざまなハザードマップと併せて利用したい、この大規模盛土造成地マップについて解説します。
そもそも盛土(もりど)とは何なのか?
日本は山が多く、平坦なところばかりではないので、傾斜地を造成した宅地がたくさんあります。
傾斜地の造成方法として代表的なものが2つ挙げられます。
・切土(きりど)
固い岩盤を削り取って、そのまま使う方法です。元の自然地盤が残るため、比較的安定しているといえます。
・盛土(もりど)
低い地盤や斜面に新しい土砂を盛り上げて高くし、平坦な地表を作る方法です。新しい土を埋め込むため、その部分が柔らかくなり、転圧(締め固め)や地盤改良工事が不十分だと軟弱な地盤になりかねません。
盛土には、斜面に土を盛る「腹付け型」と、丘陵や山の谷間を埋め立てる「谷埋め型」の2種類があります。腹付け型は傾斜のある土地の造成ですが、谷埋め型は内陸部の一見フラットな土地でも実施されている方法です(図1参照)。
【図1】
地震/大雨の土砂崩れリスクからマップ作成へ
1960~70年代の高度経済成長期、都市部への人口流入に伴い、都市近郊の山を切り崩したり、谷や丘などの斜面に土を盛ったりして、大規模な宅地造成が行われました。団塊の世代を対象にした持ち家政策を背景に、全国各地にたくさんの新興住宅地が誕生しました。
国土交通省の定義では、大規模盛土造成地は、谷や沢を大規模(3,000平方メートル以上)に埋めて造成した土地や、盛土前の傾斜が大きな地盤(20度以上)の上に高く(5m以上)盛土して造成した土地のことをいいます。中には、地震の揺れや大雨で崩れやすい場所もあるとされ、国は2006年に、こうした造成地の分布マップの作成・公表を自治体に要請しました。地盤調査で危険箇所を特定し、必要なら対策工事をすることも求めました。
2019年9月2日の段階で全国1,326の市町村が大規模盛土造成地の有無などについて公表しており、このうち637の市町村が大規模盛土造成地マップを公表しています。ただ、地盤調査まで済んでいるのはわずか33の市町村にとどまっています。
大規模盛土造成地マップは自治体のウェブサイトで公表されているので、誰でも自由に見ることができます。例えば、川崎市の大規模盛土造成地マップの場合、モノクロ地形図の上に「腹付け型」が緑色で塗られており、「谷埋め型」がオレンジ色で塗られた区域が出てきます。同じ川崎市内でも、大規模盛土の多いところと、そうでないところがひと目でわかります。
国土交通省はマップ公表までの作業を「第1次スクリーニング」と呼び、崖崩れや土砂の流出などの恐れがある場所を割り出すまでの作業を「第2次スクリーニング」と呼んでいます。2019年度中に第1次を終え、次年度以降、第2次へ進もうとしていますが、現状ではまだまだ危険度の高い土地を評価できる状況ではないようです。
盛土は必ずしも危険とは限らない
大規模な盛土造成地においては、熊本地震や東日本大震災など大地震のときに、滑動崩落と呼ばれる地すべりが生じ、土砂の流出といった被害が発生しました。しかしながら、盛土がすべて危険かというと必ずしもそうではないと、東京大学生産技術研究所基礎系部門の清田隆准教授(地圏災害軽減工学)は言います。
「自然に堆積した古い地盤の切土に対して、盛土は人が作った地盤なので、相対的に地盤の密度がゆるい状態になりやすいのですが、施工で解決できる問題です。様々な補強材があるし、新しい補強材の研究も進んでいます。また、1961年にできた宅地造成等規制法(宅造法)の以前と以後では盛土地盤のクオリティがだいぶ違います。特に最近の大規模造成は管理されているので被害は少ないです」
宅造法は61年に起きた「昭和36年梅雨前線豪雨」をきっかけに制定されたものです。台風との相乗作用で6月下旬から7月上旬まで九州を含め大雨が降り、死者・行方不明357人、全半壊家屋は約3700戸にも及びました。また、神戸市や横浜市で宅地造成地の崩落が続発し、国は安全確保のために、宅地開発の技術基準を定めるなどしたのが宅造法制定の要点でした。
さらに、宅造法は06年に改正され、このときは地震対策に力点を置いた改正でした。清田准教授が指摘するように、一口に大規模盛土といっても、宅地開発された時期によって、その安全性はまったく違うと考えたほうがよいでしょう。
個人で地盤を確認するポイント「前兆」を知る
大規模盛土造成地マップは、住民にとって、自分が住む土地がどのように造成されたかを知り、日常的に防災意識を高めることに役立つものです。しかし、造成地マップはあくまでも一次情報。地盤について個人で確認できることもあると清田准教授は言います。
「地震や大雨で崩壊するときは前兆があって、道路に亀裂が多いとか、基礎にヒビが入っているとか、塀が傾いているとか、地盤は常に少しずつ動いているものです。それからチェックポイントとしては擁壁(ようへき)の穴。盛土には水が集まりやすく、水がたまると、いろいろ悪さをするのが地盤の特性。液状化と似たような現象が盛土でも起きやすくなります。そのたまった水をちゃんと排水させるような穴が擁壁などにあいているのですが、見逃されがちです。雨が降ったときに、その穴から排水されているかどうか見てください。詰まっていると水が出てこない。地盤の中に水がたまっているかもしれません」
日常的に見ている石積み壁やコンクリートブロックですが、盛土の排水という視点で見る機会はほとんどなかったかもしれません。
すでに盛土の上に住んでいて心配な人は、地盤の専門技術者である地盤品質判定士会に調査依頼するのも手です。宅地の地盤調査を受け付けています。
毎年のように経験のないような豪雨が相次ぎ、各地で地震による被害も出ています。「これまで何度か大雨にあったが大丈夫だった」、「東日本大震災のときも無傷だった」という意識を改める事も必要です。