そしてタイムカプセルには、手紙も入っていた。後半まで読んで、俺はハッと息を呑んだ。俺の名前が唐突に出てきたからだ。
「この学校に来て一番うれしかったのは、一樹くんが友達になってくれたことです。卒業したらまた別の土地に引っ越すけど、このタイムカプセルを開ける約束の日に、また会えると思ってます」
俺は夢中で手紙を読み進めた。
「運動会の時、一緒にお弁当食べてくれてうれしかった。自転車で裏山の貯水池の方まで遊びに連れていってくれて、楽しかった」
「……だからいつか、一樹くんが困ったことがあったら、ぼくが助けに行きます」
手紙を読み終えて、俺はしばらく呆然としていた。さっきの飲み会で聞いた、皆の言葉を思い出す。
もう亡くなってるかも――。
噂が本当なら、もう武雄には会えない。だがここまで思っていてくれたなら、俺からもちゃんとお礼を言いたかった。誰かに感謝され、必要とされるなんてそれだけで幸せだし、奇跡的なことだ。たとえそれが、たった一年間の思い出しか持たない友達だったとしても。
俺はとりあえず武雄の安否だけでも確かめようと、パソコンを起動させた。もしかしたらネットの海のどこかに、足跡を残しているかもしれない。
「えっ……」
武雄の名前を検索してみると、あっけなくヒットした。真っ先に出てきたのは、真っ青な海でサーフィンをしている男の画像だ。武雄がSNSに上げている写真らしい。色白でひょろひょろしていた頃のイメージは微塵もなく、現在は真っ黒に日焼けしていてたくましい。
はじめは人違いかと思ったが、記事をさかのぼって読んでみると、俺たちが卒業した小学校の名前が出てきた。卒業年もピタリだ。
「お前、生きてんじゃん……」
俺は思わず写真に向かって突っ込んでしまった。
写真の中の武雄は、サーフボードを抱えて笑っていた。安住の地を見つけたかのような、安らぎに満ちた笑顔だった。
俺はとりあえず、彼にDMを送ることにした。
「久しぶり。三上一樹です」
「約束の日に掘り返したタイムカプセルを預かっているから、住所を教えてくれないか?」
それから3週間後――。
俺ははるばる沖縄までやってきた。
「一樹くん! こっち!」
武雄はわざわざ、空港まで迎えに来てくれた。
「すっかり別人だな!」
俺が言うと、武雄は顔をしかめた。
「20年ぶりに会ったのに、第一声がそれ?」
「昔はもっと色白で、ひょろひょろだったじゃん」
「確かに。もやしとか言われてたよね」
俺たちは笑って、握手を交わした。不思議と懐かしい気持ちにはならなかった。一緒にタイムカプセルを埋めたあの日が、つい昨日のことのような気がした。
空港を出て、そのまま武雄の車で海へ行くことになった。
「タイムカプセル、わざわざ送ってくれてありがとう」
「一緒に掘り出したかったよ」
ダッシュボードに俺があげた怪獣のフィギュアが、ちょこんと鎮座している。
「まさか武雄が沖縄にいたとはね……」
「今こっちでツアーコンダクターしてるんだ」
「景気が良さそうで羨ましいよ」
「メールにも書いてあったけど、一樹くん、仕事を探しているんだって?」
「まあね。苦戦してる」
「じゃあ手伝ってよ。ぼくの仕事」
武雄はまるで、飯でも食いに行こう、くらいの軽さで言う。
「そろそろ人手を増やそうかなって思ってたんだ」
「お前、本気で言ってんの?」
武雄はハンドルを握ったまま、こくりと頷く。
「いつか、こういう日が来ると思ってた」
「そんな簡単に言うなよ」
「簡単なことだよ」
武雄は顔だけ、助手席にいる俺に向けた。
「子供の頃から色んな土地を転々としてきて、気付いたことがあるんだ」
「え……何を?」
「新しい冒険ってさ、自分でも気付かないうちにもう始まってるんだよ。あとはマップに最初の一歩を踏み出して、流れに身を任せるだけ!」
武雄は笑って、アクセルをグッと踏み込んだ。
窓の外にエメラルドグリーンの海が見えてくる。
俺は約束の日に見た、抜けるような青空を思い出していた。
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